第53話 先代勇者が伝えたかったこと

「あーあ。ジャックのせいで快適な王宮暮らしがパーだよ。責任取ってよね」


「ああ、悪かったな……」


 ピクシーがぼやいて、ジャックが謝る……王都を後にしてからこのやり取りを二人は何度繰り返しただろう?


 ジャックが怒りもせずに、ピクシーが愚痴る度に何度も謝っているのには訳があった。というのも、あの謁見の間でのやり取り……実は全てピクシーが描いたシナリオ通りに進んだのではないかとジャックは疑っている。言い換えるとピクシーは王もジャックも自分の意のままに誘導していたのだろうと考えていた。


 これまでのことを考えると、ピクシーにはその程度のことは朝飯前のはずだ。

 そして、その考えはピクシーの次の一言で確信に変わった。


「で、愛しのルースちゃんの所には何時戻るの? ボクも早くハンバーグ食べたいなー。ずるいよジャック、先に食べに行くなんて!」

 ジャックが一人でオスラを去った後、ルースに剣を預けに行ったことはお見通し……という訳だ。


 ジャックはピクシーと目を合わせる。そしてお互い何かを示し合わせたようにくいっと口角を上げた。それ以降二人の間にこの話題は上がらなくなった。



「そういえばさー ジオって結局ボケてたのかなー?」

 ピクシーは思い出したように言った。


「さあな。今となってはもうどっちでもいいさ……」

 ジャックにとってはジオがボケていたのか、ボケた振りをしていたのかはもうどうでもよかった。

ジオと旅をしたからこそ、自分は今ここにこうしている。そしてかけがえのないものをいくつか手に入れた。それはジオが自分に伝えようとした事の半分にも満たないものだったかもしれない。

 でもジャックにはそれで十分だった。


「また会えると良いね」

 ピクシーは少し遠くを見てそう言った。


「ああ」

 ジャックも空を見上げて短く答えた。


 爽やかな初秋の風が二人の頬を撫でる。






「でっさー 結局ルースには何時プロポーズするの?」

「ボクその場に立ち会っても良いよね?」

「ねーねー 子供は何人欲しいの?」

「その子供もやっぱ勇者になるのかな~?」

 ピクシーはこれまで大人しくしていた反動とばかりに、いつもの質問攻めを再開した。


「うるせーな。またどっかに置いてくぞ!」

 ジャックはいちいち全てに付き合ってはいられないと突き放す。


「あ、酷っどーい! こんな可愛い娘を一度ならず二度も置いてけぼりにするつもりー?」


 騒がしいジャック達の旅は続く……

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先代勇者が伝えたかったこと 玉 嵐 @tama-ran

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