第27話 準備開始②

「これは全身白のワンピース。フレアなシルエットで襟元のピンクのリボンがアクセント。同色のベレー帽と合わせる事で清楚感を強調するお嬢様系」


 俺は隣の美月がずずずいっとのぞき込んでくる中、すらすらとスケッチブックに鉛筆を走らせる。


「いい感じ。大人しめの娘なら、ちょっとコーデしてみたくなるかも?」


「これは十九世紀のハウスメイドをイメージした、パニエの入ったスカートとコルセットのジャケット。ふんだんに使ったフリルとレースがポイント。色は黒と白の対比。いわゆるゴシック系」


「……いい……わね」


「ゆったり目のロングパンツとウェアが大人向けのセットアップ。高校生でもこれなら大学生程度には見られるかも。カジュアルに振り切る。ウォーキングシューズとの相性がいい感じ」


「ふーん……」


 美月の反応が薄くなってきている感。というか、目が俺のスケッチに張り付いていて、口の方がおろそかになっている様子。


「美月さん……?」


 美月は俺のデザインを見つめていて答えが返ってこない。


「美月。突っ込みをくれ」


 美月を凝視すると、やっと俺に顔を向けてくれた。その表情は驚いたモノを見るという表情をしていた。


「どうか、したのか?」


「いえ……」


「いえ?」


「晴人。実は家で隠れてデザイナーやってたんじゃないの? 神楽の傘下じゃなくて」


「やってるわけないだろ。俺が制服に右往左往してたところ見てただろっ!?」


「でも、とても五年のブランクがあるとは思えない。というか、技術、昔より向上してない?」


「それはない。デザイン出ししてても昔の様にすらすらとはイメージが浮かんでこない。昔はこんなレベルじゃなかった。錆び付いてるって、残念ながら思ってるところ」


「そう……なのね……」


 美月は素直に驚いているという様子だった。


「とりあえず二、三百程ラフデザインをしてから、百程に絞り込む。実際のショーに使うのは二十程度」


 すると、美月がふふっと嬉しそうに笑って、俺は心中に「?」が浮かぶ。


「なんで……笑ったの?」


「いえ……正直に言うと……」


「うん」


「晴人が生き生きしているのが嬉しくて。昔の真っ直ぐに進んでいる晴人を見ているようで、昔に戻ってみたいで。あの時の楽しさを思い出して」


 ふふっと、また嬉しそうに微笑む美月。


 俺もその美月の笑みに嬉しくなる。


 その表情に、心の中に再び灯った火が燃え上がるのを感じる。


「まだまだ付き合ってもらう。子供の頃は、寝ないで俺にアドバイスしてくれただろ?」

「むぅ。それはさすがに嫌なのだけれど」


「と言いながら、そのセリフにわざとらしさを感じている俺がいる」


「私、モデルだから美容には人一倍気を付けてるのに。睡眠、大事。ほんとに、これ」


「でも美月のことだから付き合ってくれるだろ? アドバイスがあるとないとでは大違いだから、マジでこれ」


「えーっ、といいつつ付き合ってあげるわよ。私と晴人は腐れ縁だから」


「腐れ縁……か……」


「そう。腐れ縁。私が晴人を支えるパートナーってこと」


 俺も懐かしく思う部分があって、そこで言葉を切る。


 俺たちは少しの余韻の後、再びラフデザインに戻るのだった。

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