第31話 彩雲祭に向けて①
翌日、俺が目を覚ましたのは九時過ぎだった。
ぶわわわわーーっと声にならない悲鳴を上げながら横を見ると、ベッドで美月がすやすやと眠っている。物凄く良く寝てる。気持よさそうに。
昨日眠りについたのは夜三時過ぎだったのでためらわれたが、なかなか起きない美月を無理やり叩き起こす。
起きた美月は、むにゃむにゃ私の楽しみにしてたプリンが~とかしばらくぼんやりしながら寝言をつぶやいていたが、一緒に顔を洗って朝食をとって外出着に着替えさせる。
「私は朝弱いの! だから機嫌が悪いのよっ!」と逆切れして、「晴人は私に優しくするべきよっ! 邪悪だわっ!」とか言いながらいつもの通りの制服に着替える美月嬢だったが、「モデルが朝弱いとかロケはどうすんだ?」とか「高校は卒業しときたいんだよな?」と正論を突きつけると、むぅっとした不満顔のまま一応黙りこくった。
遅刻とは言え欠席はヤバいので、美月のタワーマンションを急いで出る。
港南中央駅前を通り過ぎて国道沿いに進み、中央公園脇のスロープを昇って丘上の校舎にたどり着いた。
そろりと、授業中の教室後方の扉を開く。当然音がするので、顔を出した俺たち二人にクラス中の注目が集まる。
「すいません、遅れました」と首を垂れながら席に向かう俺たち二人を注視する教室生徒たち。
三々五々、ひそひそと小声で会話するクラスメートたちの視線が痛い。
と――
「おいおいお二人さん。親公認の幼馴染だからって仲良く遅刻はダメだろ? 高校生は清く正しく健全にな」
悠馬が声を上げてくれて驚く。
ざわわっと教室がなびいた。
「おバカなカップルなの。朝起こしてもらう事を頼んだのに寝坊して、二人して遅刻しちゃうんです」
ユキが後に続いてくれた。
「ケンタイキだからケンカなんてしょっちゅう。別の娘見てたでしょとか、イケメン見てただろとか。相手の事がホントは好きなのに素直になれない、ウブなカップルなんです!」
そこまでフォローが入って、クラスでどっと笑いが起こった。今度の笑いは、前の「なんなのあいつら同伴で?」的な陰口ではなくて、俺たちに好意的で雰囲気の良い高笑だった。
俺と美月は、美月の彼氏彼女宣言からいつも一緒にいて、半ば学園の公認になっている。最初の頃は衆目の注視を集めていたが、人は慣れるものだ。今は、あああいつら……的な見方で落ち着いている。
一部に俺たちを嫌っている連中――ファッション研究会の陽キャとか――はいるものの、ほとんどの生徒のヘイト対象からはだいぶ前から除外されている。だから悠馬とユキが流れを作ってくれたことで、クラスの雰囲気はアットホームな方へと大きく傾いたのだ。
俺は、悠馬とユキに感謝しつつ席に座る。
美月が仕上げとばかりにみんなに謝った。
「すいません。私が寝坊しました」
教室に再び笑いが起きて、俺たち二人は席に着き……
何事もなかった様に再び授業が始まるのだった。
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