第45話 エピローグ① 生徒たち
「さえかー。学校遅れるわよー。朝食早く食べちゃって」
階下からお母さんの声がして、私は「はーい」と返答をしつつネイビーのシングルブレザーに袖を通す。プリーツの入ったチェックの膝上スカートとの相性がいい感じ。胸元にリボンをつけて、はい完成。
私は、部屋にある置き鏡に向かってポーズをとる。うん。かわいい。バッチし。これなら、学園でも一日気分よく過ごせること請け合いだ。
ここまでなら普通のJKの日常と思うかもしれないが、実は私の通っている彩雲学園は自由服の学校だ。だから学校指定の制服はない。この制服も注文品で、通っている彩雲学園の一生徒がネットショップで販売しているものだ。
その男子生徒が企画した彩雲祭でのファッションショー。私は一目でその服に夢中になった。そのショーの間はドキドキしっぱなしだった。あっと言う間の三十分。そしてそのショーの服を着てみたいと思い、その服を着ている姿を想像してワクワクしている自分を悟って、気付くとスマホでウェブサイトにアクセスしていた。
こんなこと、今までは一度もない。生まれてこのかた一度もない。
その生徒のショー。実はその前のファッション研のショーを見た流れでたまたま目にしたもので、本来なら見る予定のものじゃなかった。でも見始めたら目を逸らせなくなって……
なんというか、偶然というか運命というか、そういうものってあるんじゃないかって、今は思ってる。
「さえかー」
また下からお母さんの声が響く。「はーい」と答えてもう一度鏡でチェック。うん。完璧。私は最近、学園に通うのが楽しくて仕方がない。
◇◇◇◇◇◇
俺は、どちらかというと陽キャというより陰キャっぽい高校生だった。もちろん、学園ではモブで、浮いた話とか、なんにもなかった。ただ高校生だから高校に通う。そんな毎日だった。
それが変わったのは、あの彩雲祭でのファッションショーを見てからだ。確かに服を着て歩いていたのは陽キャたちで、俺には関係ないとは思っていたんだが、そいつらじゃなくて「その着ている服」が眩しく見えたのも事実だった。
だからかもしれない。気の迷いというか、血迷ったというか……。ウェブサイトにアクセスして服を買ってしまって、どうしようかと悩んだ末、着て行くことにしたのは一週間前だ。
「ようくん。おはよー」
ラインで『カノジョ!』からメッセが届く。
陰キャの俺に彼女とか、笑うだろ?
でもこれ、マジ。嘘じゃない。それもそうとう可愛くて素敵な子。俺のひいき目も入っているんだが、間違いない。
俺がそのサイトで買ってしまった服を学園に来ていった初日。同じ柄の女性服を着てきたのがそのカノジョだった。まるでペアルック。そのまま……最初は互いをちらちらと見やるだけだったのが……さすがに気まずくて一言挨拶して……。今に至る。
今日の服は、デニムのボトムに紺のテーラードジャケット。フレンチベースで機能性のあるスタイル。
笑うだろ。陰キャの俺が、ファッションとか。そして今は可愛いカノジョさえいる。俺、どっか違う世界線に転生した? とか言うレベルだ。
無論、不満はない。不満どころか、あの彩雲祭でショーを企画した男子生徒には感謝の言葉を掛けないと罰が当たるのではないかと、常々不安に思っているくらいだ。
「ようくん。おきたー?」
カノジョからのラインが今日も眩しい。
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