第14話 勝負服

 六限目の終齢が鳴って、私は晴人と二人で校舎を後にした。悠馬はバスケ部でユキはその応援。その晴人とも港南中央駅前で別れて、中央地区にある自宅タワーマンションに帰ってきた。


 カードキーで室内に入り、制服を脱いでシャワーを浴びる。


 濡れた髪にタオルを巻いて身体にはバスタオルを巻きつけ、キッチン棚に並べて置いてある常温の炭酸水を取り出して口に含んだ。


 火照った身体に流れ込む液体の感触が、心地いい。


 ついでに、学園の晴人たちの前では冷静はフリをしていながら、実際はかなり熱くなっていた頭も冴えてくるようで、さらに二口目を喉に入れる。


 ふぅと大きく吐息した。


 お弁当……


 そんなもの、作れるわけがない。自慢じゃないが、自分は家事や勉強は壊滅的なレベルだ。このタワーマンションも、ハウスキーパーさんに掃除と食事の作り置きを任せている。


『過去の晴人との失敗』があってから、自分はモデルになるための努力に全振りしてきた。才能がないのはわかっていた。残念だけど認めなくちゃならない事だった。だから他の全てのモノを捨てて一心に努力してきた。


 スクールのレッスンに通い、ピラティスや筋トレなどのボディーメイクに精を出し、高校に入る前の段階でやっと事務所に所属することができた。今は、数こそ多くはないが、学園に通いながらプロのファッションモデルとしての仕事をこなしてゆく毎日でもある。


 だから、明日の昼休みのお弁当タイムというのも方便で、晴人と一緒に仲良く昼食会を過ごそうというつもりではない。


 晴人と二人きりの逢瀬を過ごすというのには違いない。違いないのだが、お弁当タイムという予定ではない。もっと別の方向性で……明日は晴人と勝負をかけるのだ。


「ごめん、晴人。でも……」


 つぶやいてから、美月は自室に入った。


 クローゼットの前に立ち、両手で大きく開く。


 制服だらけの中、一着を取り出す。


 濃紺のブレザーに薄青チェックのプリーツスカート。テーラードの襟元というシンプルなデザインながら、胸元の朝顔のエムブレムがワンポイント。


 その制服に顔を埋めると、過去の出来事が浮かんできた。

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