第42話 有原晴人ファッションショー①
体育館の照明が落ち、スローテンポな曲が流れ出す。袖から舞台に美月が登場し、二階席からライトが照らされる。俺はインカムをしてGOを出すタイムキーパーの役割だ。
美月は、その照明の中、ゆっくりと音楽に合わせて歩き出す。
脚の運びが軽やかでスムーズだ。ヒールを履いている為、一段とスタイルが良く見える。身体を揺らしながら背筋を伸ばし、胸を張ってカジュアルウェアを観客に披露する。
「ほえーっ。凄く輝いてるね、ミツキン」
「すげえわ。確かにファッション研究会の読モとはレベルが違うって、素人の俺にもわかる」
ユキが驚きで言葉を失い、悠馬が同意する。
その美月が客席に対して笑顔を見せて手を振った。通常のショーには有り得ない挙動だったが、見ている男子生徒から歓声が上がった。
美月はそのまま舞台の端まで辿りつき、優雅にターン。袖まで戻ってきて、代わりに悠馬が舞台に出る。
悠馬はモデルとしての経験はないが、体躯や見栄えは万全のイケメンだ。そのイケメンが俺のデザインした高校生らしいジレスタイルジャケットを着こなしている。ウォーキングも、一か月間美月に叩き込まれたおかげでそれなりに見られる仕上がりになっていた。
今度は、黄色い声の束が上がった。
見ているユキが隣から俺に話しかけてきた。
「北条さんのショー見て、スゴイって思ったけど」
「けど?」
「これはこれでイイってゆうか。ムズカシイことわかんないんだけど、ゼンゼン負けてないって思う」
俺の前にショーをした北条鮎美とは方向性が違う演目。本格派を気取っていた鮎美に対して、完全に高校生としてのフレンドリーな出し物ではある。だがユキの言う通り、俺はこれでいいと思っている。
派手さはないが、カジュアルな服を着ている美月や悠馬を見て、自分たちもアレを着ればオシャレにカッコよくなれるんじゃないかと思ってもらえればオッケー。
悠馬が女生徒たちの歓声と共に戻ってきて、さらにユキが悠馬に変わって舞台に登壇する。
着ているモノはミントグリーンのジャケットにパンツスーツ。客席から会話が聞こえてくる。
「あれ、結構いいと思わない?」
「そうかしら? 北条さんの服の方がオッシャレーな感じっぽいけど」
「でも私はユキの服の方が来てみたいって思ったり」
「同意。北条さんの服はちょっと派手というか奇抜すぎて着れないってゆーか。着たら歩けなさそう」
さらに別方向からの声。
「私、こっちの方が好き!」
「あたしも!」
ユキが壇上から観客に向けて投げキスを送る。女生徒の会話を男子生徒の歓声がかき消した。
俺の隣に控えている美月が舞台上のユキを叱る。
「まったく。ダメだっていったのに」
「そういう美月だって、客に手を振ってただろ?」
俺が指摘すると、「私はいいの!」と、美月はぷんっと気分を害したという素振りでそっぽを向く。
ユキがステージから戻ってきた。
「ユウマもジョシたちにサービスしなさい。今日はオッケー。私が許す!」
そのセリフを受けて、悠馬がはいはいと再び舞台に出て行く。
悠馬が檀上から観客に向かって手を振り、黄色い歓声が再び上がる。
元々悠馬は、バスケ部のエースでイケメンに加えて他人に優しく、当然女性人気が高く告白されることもある。
ユキがいるからそれらはすべて断っているが、本人が公にしている彼女であるところのユキがいなかったら女生徒まみれになっているところだ。
その悠馬が女性に媚びを売ることは普段はなくて、手を振るのは女性徒たちにとっては格別のご褒美になる。黄色い歓声も上がろうというものだ。
男子生徒の声も響く。
「悠馬、かっけーよっ!」
「竹中先輩! 俺もそれ着たらカッコよくなれますかっ!」
「なれるぞ!」
悠馬が舞台上から自信満々に返答して、
「いやっほうっ!」
質問した後輩がガッツポーズをして跳び上がる。
「悠馬……。バスケよりこっちの方がむいてんじゃね?」
その後に続いたセリフに、体育館が大爆笑に包まれる。
北条鮎美の魅せるショーとは違った方向性の、有原晴人の交流会的なショーは熱を失わずに続く。
美月の、お嬢様のような真っ白ワンピースのコーデに観客が沸く。
悠馬の、少し渋めの黒服。見ようによってはホスト的な格好に女子が声を上げる。
ユキ。かなり派手なピンクのニットと同色のショートパンツ。これぞギャル! といった出で立ちに今度は男子がうぉーと叫ぶ。
やがてショーの終わりに近づいた。
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