第4話 美月の謎

 美月に告白された後、俺は呆然自失状態で学園を出て、家にまで帰ってきた。


 この港南市の住宅地区にあるごく普通の一軒家。両親は海外でのお仕事。高校一年の時から独り暮らし。


 いつものように扉を開いて玄関から中に入るが、まだ校舎裏での美月の告白の余韻から回復しきれていない。


 階段を昇って二階にある自室に入る。十畳ほどの、男子の個室にしては広い、平凡に見える茶色の室内。普通のベッドに普通のクローゼット。机の上の高性能パソコンだけがワンポイントか。昔は色々なモノが散乱していたのだが、『挫けて』以来かたしている。


 ボトリと鞄を落とす。


 ここまできて、「ふうっ」と大きく息を吐いた。


 美月の唇の感触がよみがえる。柔らかかった、物凄く。マシュマロの様な柔らかさだった。思い出すと興奮で顔が火照ってくる。同時に美月の制服姿の苦さも感じていて、制服はどうしてもダメなことを再び自覚する。


 きちんと断ればよかったのだろうが、その機会を完全に逸して美月は去って行ってしまった。


現状、断りを入れるのが難しくなってしまった。


 美月の言葉がよみがえる。


『晴人は本当は制服が大好きなんだということを自覚し、再び私と一緒に前を向いて歩いてゆくことになるわ。ここがその『挫折と復活の物語』の出発点」』


挫折と復活の物語……。美月のセリフの意味がわからない。確かに挫折はしたが……あの少女は俺の過去を何か知っているのだろうか?


いや。いやいやいや。ないだろうそれは。あんな超絶美少女、見たことも口をきいたこともない。まったくもって理解不能だ――と考えていると、その制服美少女の美月にどう対応しようかという困惑と焦燥が沸き起こってきた。


 あああああーっ!


 失敗した!


 どないしよう!?


 懊悩は続き。あっと言う間に翌朝になってしまった。

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