第7話 美月と昼食

 そんな朝のお喋りからあっという間に四時間目の終齢が鳴って、昼休みになった。


 悠馬が早速話しかけてきて、ユキと美月も寄ってくる。


「晴人。昼、どうする? ユキと……美月さんも誘っていつものカフェテリアでいいか?」


「言ってくれればミツキンの分も含めた四人分のお弁当、用意してきたんだけど。今日は準備がないから食堂かカフェテリアっしょ」


「ユキさん。陽キャギャルのフリしてお弁当とか、悠馬と一緒になったらいい奥さんになりそうね」


「ミツキン! いいこと言った!」


 ユキがあからさまに嬉しそうに反応し、美月もその感情に流された様に顔をほころばせる。


「でもお弁当なら、ミツキンもおいしそうな料理とか作れるっしょ。何でもソツなくデキるオンナって感じで」


「……そうだといいんだけれど、ね」


 ふふっと美月はその質問をはぐらかして笑った。


 それから四人で教室を出て廊下を進む。校舎から出て真新しい厚生棟に入る。地下に売店があって、一階は食堂。物凄く混雑している。二階は広めのファミリーレストラン程のカフェテリア。一階の食堂よりは値段が高めの為、この昼休みの時間帯でも座れる余地がある。


 俺たち四人で階段を昇り、カフェテリアに入る。各々好きな物を注文してレジで会計をして奥のテーブルに陣取った。


 イケメン悠馬。ステーキランチ。流石にバスケ部だけあってスポーツマンらしい絞った体躯なのだが、食欲は旺盛だ。


 陽キャギャルのユキ。シーフードドリアとオレンジジュース。オッシャレーな外見に合わせているのかいないのかわからないが、食事もオッシャレーな感じ。


 平凡男子高校生の俺。和風ハンバーグランチ。自分で作ったりもするのだが、やはり料理は専門家に一日の長があって、このカフェテリア程の出来栄えはなかなか。


 そして制服美少女の美月。制服をなんとかして欲しいと思いつつ、食いしんぼうサラダに炭酸水。ちょっと少なくないか?


 思っていると、「ミツキン。足りなくない?」とユキが音にしてくれた。


「太ると仕事に差しさわりがあるの」


「シゴトって?」


「仕事は仕事。金銭じゃなくて好きでやっていることだから、クビになりたくはないのよ」


「ミツキン。スタイルいいのはオケだけど、もちょっとぽちゃだとハルトんみたいなモブ系ダンシからするとソソルかもって」


「なんのバイトかわからないが、学園アイドルの美月さんも大変なんだな」


 ユキと悠馬が軽く応答して、四人で『いただきます』をしてから昼食が始まった。


「でもミツキンがハルトんと付き合うとは思わなかった。それもミツキンから告白とか」


「私、恋愛と仕事には積極的なのよ」


「でも美月さん、俺は見る目あると思う。晴人はごく普通に見えるが、人としては信用できると俺は思ってる。でないとダチとして俺は付き合わない」


「私、人を見る目はあるのよ。伊達や酔狂で晴人を選んだわけじゃないから。きちんと理由あってのことよ」


 会話を交えながら、ユキがドリアを口に運び、美月が炭酸水で喉を潤す。パクパクと肉とごはんを口に運ぶ悠馬を見ながら、俺は美月のセリフを斟酌する。


 人を見る目うんぬんは置いておいて、きちんと俺を選んだ理由があるという。確かに告白の時にもそう言っていた。何なのだろう。チョロそうで女気がなくて浮気しなさそうだからとか? ではないとは思うが……


 美月の……顔に焦点を当てる。制服を避けるようにして。綺麗な所作でサラダを食している。自然で泰然とした面持ち。自信と自我を感じさせるが、その奥の深い部分は見えない。わかりやすく言うと何を考えているのかは見当がつかない。


 と、聞きなれない音程が耳に届く。

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