第2話 美月の呼び出し
翌日。
結論から言おう。俺の楽観は間違っていた。というか、久遠美月は俺の斜め上を行く女だった。
翌日の朝の教室。机でソシャゲを弄っていた俺の耳に「おはよう、皆さん」という新鮮な響きが飛び込んできた。
昨日の今日とは言え、聞き間違えようのない美麗な響き。俺は、ぼんやりとどんな普段着なんだろうか? と思いながら教室前方の扉を見ると、なんと『制服姿』の久遠美月嬢が教室に入ってくるところであった。
見た瞬間に動悸が走り、汗が湧き出してくる。
なぜにですか、美月嬢!?
しかも今日の制服は昨日とはまた違っていた。あれは……ダークブルーのダブルブレストにスカートは幅広プリーツのミニ丈だ。ハイソックスを合わせて2000年代風。胸元のワインレッドのリボンがワンポイント。制服嫌いの俺から見てもパーフェクト!
って、違う! 違うって! 制服姿も突っ込みどころなのだが、どうして昨日の制服とまた違うのか? という点が理解不能なのだ。ファッションに金をかけたくないとか、外見や服装でマウントをとりあっている陽キャ女子カーストに巻き込まれたくないだとか――理由は色々考えられるのだが、昨日とは違ったまた別の制服という一点は、その理由では説明できていない。
意味不明!
とか俺が胸中で言っているうちに、教室中の注目を浴びつつ俺の隣に座る。
「おはよう、晴人君」
「なんで制服姿……なんですか? それも昨日と違った」
「秘密」
「昨日のは前の学校の服だと思っていたんですが……」
「それがそうじゃないの。前の学校の服ももちろんあるんだけど……」
「注目されている……悪目立ちしてますよ、久遠さん。それだけの外見なんです。変な所で出張らなければすぐに学園の人気者になれるんですから」
「そう? ありがと。でも、この格好は外せないの。この学園に来た意味でもあるから」
無難に会話しようと思ったが、疑問というか疑念が先に立って質問を浴びせてしまった。対する美月は、俺の反応を楽しむがごとき様子。
俺には、この不敵に微笑む美月嬢のセリフが理解できない。美月嬢の考え、気持ちがわからないし、同時にこの美月嬢の服装がプレッシャーになっていてどうにか変えて欲しいという利己的な思いも強い。
これがクラスも学年も違う生徒なら近寄らないで目に入ることを避けるという手段もあるのだが、同じクラスで隣同士。かてて加えて何故か俺に対して好意的に声をかけてくれるとあっては回避することが難しい。
正直、かなり苦しい。知らず知らずのうちに手に汗をかいていたりもする。この学園は自由服で制服を着ている生徒はいないが、だからと言って制服が禁止されているわけでもない。大らかで、男女交際等にも理解がある校風だ。だから制服が苦手なので普段着を着て欲しいというのは俺の一方的なワガママでしかない。なぜ苦手なの? と突っ込まれたら答えに窮する。理由を正直に話すわけにもいかない。
困った……。できるだけお近づきにならないようにする他はないのか……と思いながら、朝の時間が過ぎてゆくのだった。
◇◇◇◇◇◇
さらに翌日。真っ白なワイシャツにサイズ感が絶妙なアイボリーのサマーベスト。インクブルーの短めのプリーツスカートとの対比が印象的。
さらにさらに翌日。スカイブルーの二本線セーラー服。大きく結んだロイヤルブルーのスカーフに、長めのスカートとショート丈のソックスが、シンプルながら中身を引き立てて……そのセンスにうならざるを得ない。
さらにさらにさらに……
美月嬢は、まるで『ファッションショー』か何かのごとく毎日違った制服で登校してきて、何故か俺と仲良くなろうとして話しかけてくるルーチンを一週間繰り返した。
そのスタイルと美貌、変わった服装も逆張り的に話題になって、既に学園で話題の女生徒に上り詰めている。突撃して告白、玉砕する男子は数知れず。美月嬢はどんなイケメン陽キャにもなびかなかった。
むろん、一部の女子生徒のヘイトは買っているのだが、その連中は未だ様子見という感じで表立った動きには出ていない。男子の人気が沸騰しているというのも理由の一つだ。
そんな折、俺は美月に放課後の校舎裏に呼び出された。
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