第36話 彩雲祭①
彩雲祭は彩雲学園の文化祭だ。毎年十一月下旬に三日間の期間で行われる。通常の学園祭と考えてもらってかまわないだろう。ただ入場チケット等はなく、彩雲学園のある港南市から幅広く来園者が集まる、かなり大規模なお祭りだ。
開演日の今日、俺は普段より遅い時間帯にゆるりとした気分で登校した。多分、あまり自覚はないが、やれることはやったという達成感みたいなものがあったのだろう。
丘上に向かうスロープは生徒や来園者でにぎわっている。校門にはアーチが掲げられ、そこから校舎までの道すがらには生徒運営の露店が並んでいる。
行き交う人々に、チョコバナナやりんご飴、焼きそばやおでんなどを売る生徒たちが、「いかがですかーっ!」、「美味しいですよーっ!」と元気に叫んでいる。
校舎に入ると中も華やかだ。カラフルな布やアクセサリーでデコレーションされた廊下を、生徒たちや家族連れが行き交っている。
犬や猫のぬいぐるみを被った女子高生。ピエロの扮装をした男子が躍って客引きをおこなっている。ビラ配りのグループたちがにぎわしい中、各教室はカフェや絵画展などに改装されている。
俺たちの出し物、『有原晴人ファッションショー』の開演時間は本日午後の二時。場所は体育館。
ユキに依頼したティックトック動画は学園祭直前にバズり、急激にフォロワー数を増やしつつある。BASEに作ったウェブサイトに関しては今はペラ一枚だが、美月、悠馬、ユキがそれぞれコレクションを着たシルエットの画像を使い、COMING SOONとなっている。
校舎や市中のリアル掲示板にもまめに足を運んだ。モデル三人がドレスやタキシード姿でポーズをとっているポスターを張り付けてある。
そんな、俺たち自身で作ったチラシを確認しながら、ゆるゆると校舎を回る。特別見たい劇や展示会もなく、正午を過ぎる頃には体育館に足を運んでしまった。
舞台上では、軽音部がカバーしたヒルアソビに合わせてダンス部が踊っており、客席は半分程度が埋まっている。
――と、体育館の列席の中に美月と悠馬とユキが並んでいるのを見つけて隣に座る。
「よう」と俺が声をかけると、悠馬だけが「よう」と返事を返してきた。
「お客さん、来るかな? できる宣伝はしたつもりだが」
「そりゃ来るだろ。美月さん目当ての男性客がいっぱい」
「そうだな。あとは悠馬目当ての女生徒たちがいっぱい」
「そうか? それはそれでユキに悪い気がするんだが」
「別に気にしなくていいから!」
ユキが割って入ってきた。
「浮気するわけじゃないし、ユウマを見せびらかしてるみたいで逆に気分イイ!」
「それならそれでいいんだが」
安堵を見せた悠馬。ユキが続けてくる。
「ハルトん、私は?」
「とゆーと?」
「私目当てのギャラリーいっぱい来るかな? ユウマのカノジョとして恥ずかしくないくらいバズりたいって思うし」
「ユキもちょっと派手だが見栄えはいいからコレクション着て歩けば映えるけど、逆に悠馬の彼女という認識が固定化されてるから……ユキ目当ての男子は少ない……かな」
「マジっ? でもだったらハルトんと付き合っているミツキンだって一緒じゃん、って思うけど」
「まあそうなんだが、俺と美月は悠馬とユキみたいな完成されたカップル感がないからな。俺の学園での地位からすると美月は遥か上で、確かに二人は親公認で仲良く付き合っている。けど、ユキに手を出すと悠馬が黙っていないが、美月を眺めて楽しむのは相手が晴人程度ならいいんじゃね? 的な」
「的確な分析ね。さすがに私が執着している男だけあると思えるわ」
美月が笑みながら一言挟んできた。
「それって誉め言葉……ですか、美月さん?」
「さあどうかしら?」
美月は楽しそうにはぐらかした。
一人気分よさげな美月をいったん置いておいて、俺はユキに説明を補足する。
「あとは……。美月の外見は正統派美少女で、グラビア的に見て楽しむ要素が強い」
「私は? 結構イケテルギャルだと思うんだけど?」
ユキがワクワクドキドキ的な目線を送ってきた。
「ユキもある意味確かに美少女なんだが……」
「が……?」
「ちょっと清純高校生男子からすると、派手すぎる」
「ハデっ!」
ユキがしょぼーんと落ち込んだ様子を見せた。見せただけで、あまり落ち込んではいない事は今までの付き合いからわかる。
――と、
「いいご身分ね。二時からショーでしょ」
声がして、その方向を見やる。ファッション研究会の代表、デザイナー志望の北条鮎美が不敵な顔をして立っていた。
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