第37話 彩雲祭②

 ――と、


「いいご身分ね。二時からショーでしょ」


 声がして、その方向を見やる。ファッション研究会の代表、デザイナー志望の北条鮎美が不敵な顔をして立っていた。


「私たちは一時からファッションショーをするわ。貴方たち素人は二時から。準備会が同じ出し物と認識してその都合で並べたのね。可哀そうに」


 俺が黙っていると、鮎美は調子に乗ってくる。


「私たちの準備は万端。服の搬入から舞台袖の準備まで用意は出来てるわ。私たちの後だとレベルの差が素人にも歴然となるから、身の程を知るという意味ではよかったのかしら? ふふんっ!」


 俺や悠馬や美月は冷静を保っていたが、ユキが噛みついた。


「ナニよっ! シロウトなのはアンタたちも一緒ジャン!」


「一緒にしないで。私はデザイナーのスクールに通ってるし、うちのモデルには読モの子もいるの。まあ、貴方たちに言ってもレベルが低すぎてわからないかもだけど、ね」


「むきーーーーーーっ!」


「バイヤーや広告代理店、雑誌、メディア関係者も呼んでて、売り込みかけるから素人さんは邪魔しないでね。貴方たちのお遊戯会とは違うから」


 そこまで言うと、鮎美は「じゃあね」と言い残して満足気に去っていった。


「ナニよアレ!」


 ユキが不満をあらわにする。


「いいのか、言わせといて?」


 悠馬も俺の事を気遣ってくれた。


「別に好きに言ってくれればいい。俺たちは俺たちのショーを成功させるだけだ」


 俺は気にしてない事を二人に知らせた。


 北条鮎美からすると、わざわざ挑発しに来た所を見ると俺たちが同じ出し物をする事をかなり気にしてるっぽい。というか、俺たちの、低レベルだと思い込んでいるショーを自分たちの高レベルだと思い込んでいるショーと比較することで、自分たちの地位の高さを衆目に示して承認欲求を満たしたい気分満々なのが……少し物悲しい。


 俺はマジで気にしてないので、それ以外に言いようがない。俺は自分のショーに、ファッションショーとしてのレベルの高さは要求していないしその準備もしていない。自作のコレクションを見てもらって、ショーの後に原価で売ることも考えている。要は、自分が今できることで皆に喜んでもらえればいいのだ。


 さらにユキは美月を気遣った。


「美月さんは、気分、ダイジョブですか? プロのモデルがアマに馬鹿にされるとか、プライドとか?」


 美月は、落ち着いた表情で落ち着いた抑揚を返してきたが、その内容には容赦がなかった。


「プライド的なモノは何も傷つかないけど、晴人のこと、私の晴人を見る目を馬鹿にしてどんなショーをするのか見せてもらおうって気持ちはあるわ。私たちもかなりアバウトなショーをするんだけど、あの子、服にお金を出してもらう事の難しさを勘違いしているのが……怒りを越えて少しだけ哀れにも見えるわ」


「そ、そうですかー。まあ、そうですよねー」


 美月の辛辣さに、ユキがちょっと引いていた。


 俺は立ち上がる。


「もう十二時を回っているし、俺たちも袖に搬入しよう。ここまで準備してきたんだ。遅れて失敗はしたくない」


 悠馬や美月たちも続いて席を立った。


 空き教室に搬入してあるコレクションを体育館舞台袖に搬入して、音響係と照明係の子に事前チェックを行い、準備会のスタッフとの確認を終えると丁度一時。


 舞台袖にいて、二時からの開演の備えている俺たちの眼前で、北条鮎美たちファッション研究会のショーが開始されたのであった。

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