第12話 私は何をやっているのだっ!

 玄関で晴人を見送った後、私は自室に入った。沸々とわき起こる苛立ちを抑えきれなくなって、閉めたドアを蹴り飛ばした。


「ごめん、晴人。私、何やってるっ!」


 扉に向かって吠える。


 私が自分自身に向けた咆哮だった。


 浅はかだった。完全に晴人の傷の深さを見誤っていた。晴人が心に負った傷は深いとわかっていた。でも晴人の平凡な学生としての時間がそれをある程度癒しているだろうとも思っていた。


 存外だった。


 こんなことなら、ただの男あさりのビッチの方がいくらかましな方だ。何故って、ビッチなら晴人に辛い想いはさせないだろうから。


 晴人に飽きたら他の男に鞍替えして、晴人もそんな女のことは犬にかまれたと思ってすぐに忘れるだろう。


 結果、苦汁をなめさせ辛い想いをさせ、晴人を『再び』傷つけただけに終わってしまった。


 私は何をやっているのだっ!


 そこまで吠えてから、大きく息を吐く。


 クローゼット前にまで歩いていき、扉をガラーっと開く。


 右から左端まで、制服がびっしりと吊り下がっていた。


 その中の一着を取り出す。シングルボタンの濃紺ブレザーに、薄青チェックのプリーツスカート。テーラードの襟元というシンプルなデザインながら、胸元の朝顔のエムブレムがワンポイント。


 私はそれを見つめる。


 それは晴人を虜にするための戦闘服。


 それは晴人を立ち直らせる為の回復薬。


 私はそれを黙って見続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る