第25話 神楽とリーヴ
「晴人が高校でファッションショーするらしいわ。彩雲学園のホームページに乗ってる」
金髪ポニーテールの少女がソファ上から声を上げた。
場所は、日本を代表するファッションデザイナー――神楽蒼樹――の自宅兼アトリエ。広々とした室内にマネキンやホワイトボード、服などが整然と並べられていて、部屋の真ん中に大きなソファがある悠然とした空間だった。
少女は白く綺麗な脚を組み直す。その上の青のミニスカートにモバイルを乗せていて、片手に持っているマグカップからは湯気が立ち上っている。
割と小柄だが態度は自信に満ち溢れていて、その悪戯っぽさをも感じさせる面立ちが小悪魔チックな美少女だった。年の頃、十四、五、だろうか。
「晴人よ晴人。HARUTO。見る目がない蒼樹が昔お粗末にも切り捨てた『宝石』」
「そうか……。リーヴは昔からあの少年にご執心だったな」
横、と言っても十メートルは離れている場所でスケッチブックを眺めながら、神楽はリーヴと呼んだその少女に声だけを向けてきた。
リーヴは、マグカップを口に運んでから、熱く続ける。
「晴人は神楽ショーごときで隠遁する器じゃないの。ずっと追っていたけど、再始動は時間の問題だって思ってた」
「執心というか執着だな、お前にとっては。神楽塾ではそんなに気にいったのか?」
「晴人とは少年少女の頃、神楽塾で一緒に切磋琢磨した仲。晴人がデザイナーやってたHARUTOブランドは秀逸だったって今でも思ってる。でも多分向こうは覚えていないのが……寂しいというより無念ね。邪魔なのがいたし」
「お前には『神楽』の国際進出の為に精を出してもらわなければならない。神楽配下のブランド、LIEVのメインデザイナーとして、パリコレでは愚人共の度肝を抜いてもらわないとな」
「ふふん」と、リーヴは自信気に鼻を鳴らした。
「こき使われるのは癪だけど。まあ、手伝ってあげるわ。一応、貴方の実の娘でもあるから。神楽蒼樹お父様」
「呼びかけにあまり愛情を感じないのは……私の気のせいか?」
「気のせいじゃないわよ。大丈夫。無問題。目下、私の執心は晴人だけだから。私と晴人が世界に羽ばたけば、割と早く孫の顔が拝めるかもしれないわよ。喜びなさい」
「子孫などどうでもいい。そしてこの国のファッション界は既に私のコントロール下にある。あとは海外を掌握して……そして世界の形を変える。それが私の唯一の目標で夢だ」
「それこそどうでもいいわ、私にとっては。晴人と私の才能がこの世界を変えればいいだけのこと」
「男に執着した女は盲目だな」
ふんっと、図星を刺されたリーヴが鼻を鳴らす。鳴らしたが蒼樹の指摘は間違っていないとも心中では思っている。
そう。盲目で一図で一心なのだ。今の自分は。
だから晴人が「高校ごとき」で行う「ショーもどき」が楽しみで仕方ないのだ。
自分はパリコレを控え、神楽の世界進出への尖兵を担っているがどうでもいい。
今は晴人の学園ショーが楽しみで仕方がない。
そこで晴人と再会できる。
胸が躍るというのはこういうことを言うのだという実感が今のリーヴにはある。
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