第36話 それでは冒険を始めるぞ! 大丈夫、俺の仲間は最強(のはず)だ。(その3)

 俺たちは、一度ここで停まったので。このまま小休止する事にした。

休憩だから、キャンプ道具を出すまでもない。

レジャーシートを敷いて、お菓子と飲み物を準備した。


「おお、リュージ。魔界の菓子か。チョコレートもあるのか?」

天才美少女が目を輝かせている。


「懐かしい物があるな。でも、俺は甘いのは苦手だから、せんべいでいい。」

ヨシヒロは予想どうりだ。これでスイーツ男子だったらびっくりだが。


さっき別れた冒険者たちは、そのままそこにいる。

手渡したティッシュを手に、まだ議論をしているようだ。




「おい、グレイゴーン。今、出会った奴、本当に魔王だと思うか?」


「わからん。だが、このあたりでリュージという強大な魔王が出現した、という話は確かに聞くな。」


「でも、魔王は優しそうだったぞ。魔力も感じなかったが ········ 」


「だが、強大な魔力を持つ魔法使いと、特A級の魔剣を持つ戦士を従えていたんだ。魔王がそれ以下、という事はないだろう。」


「では、魔王は自分の魔力を完璧にコントロールして、外には全く洩らさない、という事なのか?」


「そうとしか考えられないな。」




おいおい、なんだか俺、すごい魔王になってるぞ。




「それは恐ろしい。では魔王からもらったこのティッシュ、とやらはどう使うんだ?」


「さあ、それは俺にもわからんが、魔王は有効に使ってくれ、と言ってたな。

ダンジョンで有効に使え、と言うんだから、おそらく強力な攻撃魔法が封じられているんじゃないか?」


「攻撃魔法? ········ どうやって発動させるんだ?」


「さあ。でも、ティッシュとやらに何か書いてあるから、これが発動呪文なんじゃないか?」


「本当だ。なになに、ジンザイボッシュー? これが魔法の名前なのか?」


「戦士と魔法使いの絵が書いてあるな。これが攻撃? ········ もしかしてこれ、召喚魔法なんじゃないか?」


「なになに、なんだ、このミミズの這ったような文字は! ·········· ジュウキョショ クジアリ サイテイチン ギンカナ ラズシキュー ユーキューキュー カセードアリ ········ 間違いないだろう。これは発動呪文だ。」




 俺は口にしたコーヒーを吹き出した。

そのティッシュの文面、ティグに頼んでこちらの文字で書いてもらったものだ。

それをコピーして、入れてある。

あの天才美少女め、読み書きは苦手だな!

俺が言ったのを、そのまま適当に並べたんだろう。


「よし、みんな。このティッシュ、大事に持っておけ。戦闘でピンチになったら、実際に発動させてみるぞ。なんせ魔王のアイテムだ。さぞかし強力に違いない。」




 おい、やめておいた方がいいぞ。それ、鼻をかむためのアイテムだからな。

でも、それで俺に魔力がないとわかれば、それはそれでいいか。


そうだ。それならいっその事、リュージは魔王ではありません。魔力もないです。というメッセージを入れたティッシュを配るか。

そしたら俺も庶民に ·········· とはならないか。

あれだけ盛大に魔王リュージ展をやってしまったからな。

魔王は、人間族を騙して世界征服を始めるつもりだ、と疑われるのがオチだ。


だったら、「魔王リュージは戦争に反対します。ラブ&ピースで世界平和を目指しましょう。」とか書いたら ·········· やっぱり結果は変わらんな。清き一票は入るかもしれんが。


ここは基本に立ち返って、まずはイメージ戦略からかな。

いっそのこと、「かわいく愛らしい魔王」とでも名乗ってみるか。

うん。石が飛んでくるな。


仕方がない。地道に実績を重ねるしかないか。

まずは目の前のドラゴン退治だ。




「よし、そろそろ休憩は終わりだ。出発するぞ!」

俺はゴミを集めて、片付けを初めた。


「リュージ。次の休憩のときはチョコレートを倍増してくれ。

こいつは最高に美味。魔界にしかないのが惜しい。」


「おい、いいのか? 太るぞ。」


「何を言ってる。私の美貌がそれくらいで曇る訳なかろう。」


まあ、好きにしてくれ。後で俺のせいだ、とかわめくなよ。




「全員乗ったな。それでは出発!」


俺は、ハイエースを発進させた。

少し進むと、騎馬の一団ががいた。先程の冒険者パーティーだ。

俺たちよりも先に出発してたようだけど、ハイエースの方が速いから追い付いたな。申し訳ないけど、道を譲っていただこう。


俺は、ハイエースのクラクションをプッと鳴らした。


すると、こちらを見た冒険者の皆様は、大慌てで左右に分かれると、馬を降りた。

そしてそのまま膝を地につけると、土下座を始めた。

おい、これじゃあ本当に大名行列じゃないか!


「今回はこれにて一件落着。かーっ、かっ、かっ、かっ!」


 俺は頭痛がしてきた。

おい、ティグ。おまえのせいで、俺は世直し御老公みたいになってるぞ。

行く先々で悪代官を成敗しろ、とか要望されるんじゃないだろうな。

これじゃあ完全にオーバーワークだ。

魔王業が、こんなにブラックだったとは知らなかった。






王立魔法博物館 所蔵リスト MU3857 「魔王リュージのティッシュ」

    

魔王リュージの召喚魔法が付加されている、と想定されている秘宝アイテム。

現在でも発動条件が解明できず、魔法学者たちを大いに悩ませている。

特一級優先解読魔道具に指定。































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