第15話 【第二部開始】降ってきた無理難題。俺はいったい、どうしよう? (その1)
カセットコンロに点火した。
いつもどうり、見慣れた青い炎が上がる。
なんで火をつけたかって? それはお湯を沸かすため。
なんで湯を沸かすかって? それは持参したカップラーメンを食すため。
なんでラーメンを食べるのかって? もちろん食べたいからに決まってる。
それ以外の食べ物が無かった訳ではない。
ケガをした人の治療に没頭していた、我々のために、ちゃんと食事を準備してくれていた。
俺もありがたく、いただいた。感謝している。
でも、ほんの少しだけ文句を言わせてくれ。
あの、硬くてパサパサの黒パンは、どうにかならないか?
エールとかいう飲み物も、ビールと比べてはいけない。
ぬるいし、薄いし、旨みがない。
なんとかまともだったのは、チーズだけだ。
あとは酢漬けかと思われる野菜のみ。
これは炊き出しだから、味が二の次なのはわかる。
でも、もうちょっとどうにかならないか?
日本の炊き出しの定番、おにぎりが懐かしい。
もし日本に帰れないなら、俺は料理人となって、この世界に料理革命を起こしてやる!
よし、もう少しで沸騰するな。
やっぱり福岡県民はこれたい、豚骨ラーメン!
残念ながら、カップ麺は3個しか準備していない。
他人には分けられないので、ズタボロに頼んで、村長宅の一室を貸してもらったのだ。
すると、ドアをノックする音がした。
入ってきたのは甲冑姿の女騎士。名前はティグリム・リングリソート。
でも、そんな長ったらしい名前を覚える必要はない。
こいつの別名は、天才美少女騎士。
本人がそういうんだから、間違いない。
多分、間違いないと思う。
間違いないんじゃないかな?
なお、俺のコメントは差し控えさせていただく。世界平和のためだ。
まあ、黙って座っているだけなら ··········· 。
「リュージ、敵頭目のムスゴリテが魔王に ········ 何やってんだ? リュージ。」
「何やってるって、見てのとうり。俺の夕食タイムだ。」
「夕食って、湯を沸かして ········ って、リュージ、おまえすごい事をやってるな。」
「えっ、何の話だ?」
「その青い炎だ。赤や黄色ならともかく、青い炎を出すには高度な魔法スキルが必要だ。煙がで出てないし、
「いや、そういう訳では ············ 」
「一番驚くのは、一定の火力をずっと維持している事だ。普通の魔法使いが、そんな事をやったら、すぐにMP不足で倒れるぞ。」
「いやいや、カセットコンロって、そういう器具なんだが ········ 。」
「火を点火するのに、魔法を使う奴はいるが、煮炊きするのに、直接魔法を使うのは初めて見た。リュージ、やはりおまえは魔王になるべき素質がある。 才能は生かして使うべきだぞ。」
「だから、これは俺の魔法なんかじゃない。これは最初から煮炊きするために作られた器具で、燃えてるのはLPガスだ。」
「となると、先々代魔王なのか? その魔道具にここまで高度な魔法を付与したのは。」
「だから ········ 」
「あのう、すみません。いい加減、中に入ってもいいでしょうか?」
「あっ、すまん、ムスゴリテ殿。中に入ってくれ。」
頭目の大男が、頭を低くして入ってきた。
「リュージ、わかっていると思うが、トナーリ村の頭目、ムスゴリテ殿だ。 魔王リュージに礼を言いたいというので、連れてきたぞ。」
「わかったけど、少し待ってくれ。お湯が沸いたから、先に湯を入れる。」
俺はカップラーメンのフタを開けると、かやくとスープを入れて湯を注いだ。
失礼になるかもしれないが、ガスを無駄には出来ない。
興味深げに見ていたティグがきいてきた。
「リュージ、それは魔界の食べ物なのか?」
「魔界じゃないが、俺が元いた世界の、日本という国の食べ物だ。少し待てば食べられるし、うまいぞ。」
俺はスマホのタイマー機能を3分にセットした。
「それは何ですか?」
頭目が指を指した。答えたのはティグだ。
「聞いて驚くな。あれは魔王リュージの魔道具で、世界のあらゆる場所を透視する事が出来る、スマホという魔器だ。」
こらこら、嘘をつくな!
実は、トナーリ村からポーションを受け取るとき、事態を正しく認識してもらうために、フツーノ村の治療シーンを動画で撮っておいたのだ。
自分の知人が大怪我しているのを見た衝撃は大きく、交渉はスムーズに進んだ。
でも、動画の説明は難しいので、透視できる魔器、ということにしたのだ。
「それはすごい。魔王なんて本当か? と思っていましたが、本当だったんですね。」
いかん、このままではこいつにも魔王にされてしまう。
でも、スマホの機能なんて、説明のしようがないぞ。
頭目は、
「魔王リュージ様、こちらから勝手に攻め込んだにも関わらず、我々を助けてくれるために、全力を尽くしてくれたと聞きました。私、ムスゴリテはトナーリ村の代表として、心から御礼申し上げます。」
俺はそ少しむず
「いや、俺のいた世界では、怪我人は敵味方の区別なく助けるというのが常識なので、それに従っただけだ。トナーリ村の兵も、ほとんどが助かったということで、とても良かったと思っている。」
「本当にありがとうございます。魔王の恩情がなければ、村の若者は全員戦死、残った人間では村を維持できず、流亡の民となるところでした。」
「では教えてくれ。どうしてトナーリ村は、フツーノ村を攻めようと思ったんだ?」
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