第16話 降ってきた無理難題。俺はいったい、どうしよう? (その2)
「魔王様もご存知と思いますが、トナーリ村は、近くにあるソレナリノ鉱山で鉱夫として働いて、生計を立てている村です。その鉱山に展開していたモンスター防御の結界が、昨日の早朝、突然吹っ飛んで消滅したのです。」
「ティグ、結界が吹っ飛んで消滅って、聞いた事があるか?」
「いや、無いな。そんな事をする為には膨大な魔力が必要なはずだ。」
「そのとうりです。鉱山のある、ソレナリノ山の山頂付近が吹き飛びました。もちろん、頂上にあった結界維持のための、魔法使い詰所ごとです。おそらくこれは極大級の魔法が使われたと思われます。」
魔法ってそれほど強力なものがあるのか! 俺は背筋が寒くなった。
で、それが起きたのが昨日の早朝 ········ 。
俺の中で、点と点の間に、線がつながった。
「おいティグ、山が吹き飛んだ昨日の早朝というと、俺が転生してきた異世界転移魔法と同時刻じゃないのか?」
「リュージも気付いたか。おそらくそうだろう。」
「関係あるとおもうか? もしかして副作用のようなものだろうか?」
「いや、おそらくは直接は関係ないだろう。もし2つの極大魔法が同時に発動したならば、地脈の霊力が不足して、どちらも不完全な発動に終わってしまうだろうからな。」
という事は ········· いや、今は今は情報が少なくて、結論は出せないな。これは宿題にしておこう。
ここで、スマホから3分経過のアラームが鳴った。
「魔王様、何ですか? 今の音は。」
「ああ、これは3分たって、カップ麺が完成したという合図だ。」
「そうですか。カップメンとかいう食べ物は、魔器スマホの魔力で完成するのですね。」
いや、かなり誤解されているような気がするが、そんなものは後だ。
今は麺が伸びる前に、さっさと食うぞ!
「ティグ、頭目。申し訳ないが、先にこいつを食べさせてもらう。時間がたつと美味しくなくなるんだ。」
「わかった。構わんぞ。」
俺は割り箸を割ると、ラーメンに一礼してから食べ始めた。
うん、やはりメイドインジャパン。安いのに、うまい!
ふと、視線が気になった。ティグと頭目が、じっとこちらを見ている。
「リュージ、何だかすごくうまそうだな。」
うっ、食べにくい。
そうだよな、ラーメンってすごくうまそうな匂いがするもんな。
仕方ない。
「ティグ、頭目、ちょうどあと2つある。お前らも食うか?」
「いいのか、魔王。」
「私までいただいて、よろしいのでしょうか。」
「かまわんさ。ドケチな魔王なんて、シャレにもならんしな。」
俺はヤカンに水を追加すると、もう一回コンロに点火した。
「無詠唱で魔力発動とは、やはりとんでもない魔法が付加されているな。もしこれを売れば、とんでもない値段がつくぞ。」
いや、無理でしょ。ガスが無くなれば、ただのガラクタです。
5分後、俺は完成した2つのカップ麺を並べた。
「味噌と醤油、2つの味があるけど、どっちにするか?」
「どっちも聞いた事がないから、わからん。適当にこっちを取るぞ。」
「醤油だな。」
「では、私は残った味噌とやらを。で、食べるのにはこの2本の棒を使うのですか?」
「そうだ。箸というんだ。でも使い方は難しいんで、最初は握り箸でいいぞ。」
「こうか? よし、では食うぞ。」
二人とも、麺をふうふう吹いてから、口に運んだ。
「これはうまい!」
「これは表現できないうまさですな。初めての味だ。」
そうだろう。この世界に味噌や醤油があるはずがない。
おそらくこの世界の調味料は、塩だけだろうと俺はみている。
それともう一つ、ここにはダシという発想がないだろう。
二人とも、一心不乱に食べて完食した。
「うまかった。こんなうまいものがあるとは、リュージ、感服したぞ。」
「魔王様、こんなものがあるなら、商売を始めてはいかがですか? これなら銀貨1枚でも売れると思いますが。」
「いや、残念ながら、これは黒川邸 ········ 、いや魔王城の非常食で、売るほどには備蓄していない。あちらの世界から調達できればいいんだが。」
俺の頭をTFの顔がよぎった。
「それは残念です。」
「よし、では話を戻すぞ。頭目、モンスター防御の結界が無ければ、鉱山では作業出来ないのか?」
「出来なくなるのも時間の問題です。モンスターはなぜか洞窟のような地下に集まってくるんです。本能なんでしょうか?」
そうか、だからダンジョンにはモンスターがたくさんいるんだ。
「しかも、今回はドラゴンがすぐに姿を現しました。きっと以前からダンジョン化を狙っていたのでしょう。」
「ダンジョン化?」
「なんだ、知らんのか。ドラゴンなどS級やA級のモンスターが、繁殖のために地下深くに自分の巣を作ることだ。」
自分の巣? そうだったのか。だからドラゴンは地下最深部から動かないんだ。
「そうです。最悪です。ドラゴンは自分の巣を守るために、周囲に強力なモンスターを配します。もうこれでは採掘など出来ません。これでトナーリ村は生活の術を失いました。」
そうか、トナーリ村にも事情があったんだな。
たしかに、戦いながら鉱山採掘なんて無理だ。
「そこで私はすぐに決断しました。この情報が、世間に知れ渡る前に行動しないといけない。水に落ちた犬は叩かれます。足元を見られてはいけないのです。私はすぐに部下を集めてここ、フツーノ村に金貨を出せと迫りました。」
ティグが横から口を出した。
「金貨を1000枚出せとは、吹っかけたな、と思ったぞ。出せる訳がない。」
「わかってます。実際には300枚も出してもらえれば、そこで
ティグが笑い声をあげた。
「ははっ、違いない。天がフツーノ村の味方をした、というところかな。」
俺はカップ麺の容器など、ゴミを集めながら質問した。
「ところで頭目、もし金貨を受け取ったらどうするつもりだったんだ? みんなで分け合っても長くはもたないと思うが。」
「じつは、王都ミヤコの冒険者ギルドに掛け合い、最強の冒険者パーティーを雇ってダンジョン攻略をするつもりでした。我々トナーリ村の人間に、今さら農業をしろと言っても無理です。速やかに鉱山を取り返すしか、方法がないのです。」
「トナーリ村の全軍で攻め込めば、鉱山を取り戻せないのか?」
「あるところまでは可能です。でもS級やA級のモンスターには、人海戦術は効きません。ドラゴンのブレスに、100人が突っ込んで勝てると思いますか? ただ単に犠牲者が増えるだけです。」
確かにそうだ。
強大な魔力は科学技術と似たところがあるな。
機関銃陣地に突撃して、膨大な犠牲を出した、203高地と同じだ。
「魔王リュージ様、私はこの
頭目は土下座したまま、頭を上げない。
困った。どうする? 俺は魔王なんかじゃないぞ。
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