第22話 歓迎したくない来訪者。俺のボヤキを聞いてくれ。(その1)

 俺は黒川邸内、自分のベッドで目覚めた。

俺がここで、神様を呪ったのはたった2日前のことだ。

その2日間で、俺の環境はガラッと変わった。


テレビをつけてみた。

流れるニュースが、はるかに遠い世界の出来事に感じる。

あの航空機事故の話題は、まだ大きく出てるけど、黒川邸消滅のニュースは流れなかった。

まあ、謎の事件ではあるけど、死傷者は出ていないからな。

俺以外は、だけれども。

みんなの記憶には、単にオカルトな事件として残るんだろうな。


おっと、時計を見たら、10時を過ぎてる。TFに電話だ。



「 ········ そうか、隆司。頑張ったんだな。死傷者の少なさがおまえらしい。」

「そのとうり、それが一番だ。それではTF、今後はどうするべきだろうか。トナーリ村を助けるべきだと思うか?」

「当然助けるべきだ。ここで見捨てたりしたら、今後隆司の味方をしてくれる奴がいなくなるぞ。」

「そうか、やっぱりドラゴン退治をしなきゃいかんか。」

「そちらの方は一旦保留だ。隆司のいうとうり、戦力が足らないと思うし、何よりもドラゴンの戦闘力や能力が不明では、戦うのは危険すぎる。さしあたってはトナーリ村の村人800人が食っていける方法を考えよう。」

「何かアイデアはあるか? TF。俺も考えたんだが、何も思い付かない。」

「一つ、あるにはある。ただし、当人である隆司が嫌がるんじゃないかと思ってな。」

「何だよ、俺が嫌がるようなアイデアって。」

「ああ、こんな手だ。」

「 ·············· 。」


「嫌だ、俺はやらんぞ。」

「予想どうりの反応だな。では、他の方法がないか、もう少し考えてみる。 でも、思いつかないときは、嫌でもやらないと村人が飢えるぞ。」

「それは ········ そうだが ········ 。」


「それと隆司、おまえの話ではそこ、魔王城の存在は、村人全員に知れ渡っているんじゃないか?」

「おそらくそうだろうと思う。」

「だったら、もう魔王城の存在を秘密にする作戦は無理だ。誰かに魔王城を護衛してもらわないといかんな。」

「ここを護衛? 誰に頼むんだ?」

「いるじゃないか、適任が。」

「ああ、そうか。トナーリ村で仕事にあぶれているのが、いっぱいいるんだった。」

「でも、連中もボランティアでは使えんぞ。給料を払わないと。さて、ではそのお金をどこから調達するかな?」

「おいおい、TF、それって遠回しの圧力か?」

「もちろん無理強いはしないさ。あくまでも隆司の自由意思だ。他に何か、良いアイデアを思い付けばいいな。」

「 ········ 明らかに圧力じゃないか。わかった、そこまで言うなら、一応準備は始める。でも他の案が出たら、いつでもキャンセルするからな。」

「それは好きにどうぞ。でも、やるんだったら派手にやらないとな。宣伝して目立たないと、客は入ってくれないぞ。」

「それが嫌だと言ってるんだが。俺の、地味で平和な異世界生活はどこに行くんだ ········ 。」

「残念だが、諦めろ。隆司がフツーノ村を助けると決めた時点で、こうなる運命に決したんだ。」


確かにそうだ。

俺一人の転生だったら、理想の異世界生活(?)が送れたかもしれない。

でも、黒川邸ごと転生した時点で、目立つ事は避けられない。

そして、ここを守ろうとすれば、どうしても力が必要になる。

嫌だけど、ここは覚悟をきめるしかないか。



 その時、俺の腹が鳴って、我に返った。

時計を見ると、12時を回っている。

そういえば、今日は朝食を摂っていない。

なるほど、腹が減る訳だ。

「TF、とりあえず一旦電話を切るぞ。腹が減ったんで、昼食にする。」

「わかった。では前向きな返事を期待する。それではまた後ほど。」

電話が切れた。

さて、昼食は何にするかな?

ご飯は冷凍したのが冷蔵庫に入っているな。



 ふと気付いた。

外から物音がする。人が集まった喧騒。

もしかしてマスコミ? 現代社会に戻った?


俺は慌てて部屋を飛び出すと、正門に走った。

鍵を外すと、扉を少し開けて外を覗いた。


俺はそのままひっくり返った。

あわてて扉を閉じる。施錠。

これは見なかった事にしよう。うん、気のせいだ。


門の外、正面にはティグがいた。

旗を持って、村人を引き連れている。

なんだ、これは。団体旅行か?


右側には頭目がいて、こちらも荒くれ者を引き連れている。

こちらの方々は、手に様々な武器を持っている。

なんだ? またどこかと戦争でもするつもりか?


左側では騎馬乙女たちが、ヒモのようなものを張って、長さを測っている。

もしかして測量?

本当に詰所を作るつもりなのか?


俺の安息の日々はいつ来るんだ?

日頃の行いは良いはずなんだが。


 外から声が聞こえた。

「教官殿、いったいいつまで待てばいいのでしょうか?」

「大丈夫。魔王は今日また村に来る、と言ったから必ず出てくる。もし出て来ないなら、こんな門くらい ········。 」


おい、外でなんか物騒な事を言ってないか?

まったくあいつらは ············ 。









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