第21話 襲ってきた修羅場。俺、どうする?

 「TF、そうなんだ、ありがとう。小さいものならこちらに送れるんだ。 これは有難い。希望が出てきた。」

「そのとうりだ。これでだいぶ救出が近付いてきたぞ。どうだ魔王リュージ、俺をホメなさい。」

「ああ、TFはすごい。でも魔王はやめてくれ。俺のトラウマが ········ 」

「それはそうと隆司、そちらに物資を送るのに、一個ずつ上から投げ入れるのはすごく大変だ。試しに黒川邸の正門を開けてくれないか? そうすれば、おそらくそこから直接物資を送り込めると思う。」

「わかった。」

「とりあえず、おまえの好きそうなお菓子を適当に揃えておいた。本当に送れるか、実験してみたい。」

「わかったけど、今開けて大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。俺は黒川邸のすぐ近くにいる。一分もかからずにつく。」

「わかった。それでは開けるぞ。」



 俺は正門につくと、鍵をはずした。

そして扉を押し開けた。

俺の目に飛び込んできたのは ········ 。


「魔王、遅い! 魔王城に攻め込んで、焼き討ちしてやろうかと思ったぞ!」

怒髪天を衝く突撃娘と、怒りのオーラを纏った乙女たち。

弓を手にしている娘まで見える。

しまった、忘れてた!


 俺は0.5秒でワープすると、正座して娘たちの前に土下座した。

「すまん、申し訳ない。このとうりだ。」

「もしかして忘れてたのか?」

「実はそのとうりだ。」

「こいつ、どうしてくれようか。」



邸内に落としたらスマホから、かすかな声が聞こえた。

「おい隆司、どうしたんだ? 今、女の声で焼き討ちとか言ってなかったか? もしかして修羅場か? 俺は逃げるぞ。それでは健闘を祈る。さらばだっ!」


こ、こらっ! 勝手に女性関係の修羅場にするじゃない!

そして逃げるな! いや、俺でも逃げるな。

待て、今それどころじゃない。どうする? リュージ。

そうだ!


「悪かった。お詫びに手品を見せて、お菓子をプレゼントする。少し待っていてくれ。」

俺は落としたスマホを拾うと、TFにかけ直した。

「TF、俺だ。説明は後だ。現在、俺の生存が脅かされている。とにかくお菓子を送ってくれ。ただちにだ。頼んだぞ。」

「よくわからんが、わかった。送るぞ。」


しばらくして、何もない空間から、お菓子が飛び出してきた。

これはTFが俺のために準備したものだが、やむを得ない。

俺の生存のためだ。

「おおーっ!」

娘たちから、どよめきが起きる。

「これはすごい。何もない空中でお菓子が生成されている。無から有を作るとは、まさに神がかった魔力だ。深淵魔法、間近で見ると、とんでもないな。」


俺は、遠い目で空を見上げた。

もう一回歌うか? 「明日があるさ」を。

いや、「上を向いて歩こう」かな?



 乙女たちは、車座になってお菓子を食べていた。

「姉様、これは美味しいですね。初めて食べる味です。」

「ティグが言ってたのは本当だったんだな、これはうまい。ん、これはちょっと辛いな。これは苦手だ。捨てよう。」


ああっ、俺の好きな博多名物、めんべいが!

おい、おまえら、もっと食料を大事にしろ! ていうか、俺にも残しておけ!

仕方がない。またTFに頼もう。

お菓子は慰謝料として消滅したから、次を送ってくれ。

そうだな、いっそ全部めんべいにしてもらうか?

いや、ダメだ。そんな事をしたら、乙女が暴徒化して、全部捨てられる!


「魔王、うまかったぞ。礼を言う。また来るから、よろしくな。それまでにはちゃんと魔力を回復しておくのだぞ。」

俺は、なんとか生存確保に成功した。

騎馬乙女は、村に帰っていく。

「姉様、美味しかったですね。また連れてきてください。」

「わかった。そうだな、いっそあそこに、本当に詰所を作ってみるか? そしたらいつでもお菓子が食べ放題だぞ。」

「それはいいですね。やりましょうか?」


おいおい、俺を何だと思ってるんだ?

もしかしてメッシー君? いや、カッシー君か?

いかん、古すぎる!


「おーい、隆司、大丈夫か? お菓子は無事に届いてるか?」

おっと、今度はこっちを忘れていた。

「TF、ミッションコンプリート。俺は生存を確保できた。」

「それは良かった。おまえ、お菓子ぐらいで、よく修羅場を乗り切ったな。 もしかしてジゴロ(女たらし、ヒモ)の才能があるんじゃないか? 俺は女関係のトラブルなんか御免だが。」

「女関係のトラブル ········ ではあるんだが、性欲関係ではなくて、食欲関係だ。」

「? ······· よくわからんが、まあ解決したんだったら、それで良しとしよう。」

「TF、申し訳ないが、今の件でどっと疲れた。今日のところは休んでいいか? 今後のことは、明日話そう。」

「そうか、わかった。それなら俺も、一旦福岡に帰ることにする。また明日、

改めて話そう。」






 

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