第20話 TF独演会。俺は聞き入るだけです。(その2)

 落ち着け、TF。一度力を抜くんだ。

俺はもう一度空を見上げてみた。

上空を、鳥がゆっくり円を描いて飛んでいる。トンビか?


そこで俺は気付いた。鳥が空を飛ぶ速度って、そんなに速くはない。

スピードというのは間違ってないか?


 俺は小石を取ると、今度はアンダースローでゆっくり投げ入れた。

消えた! スピードは間違いだ。では、さっきとの違いは?


消えたのは、全力で遠投したときと、軽くアンダースローで投げ入れたとき。

それ以外の消えなかったやつは、いろんな力加減で、中に投げ込んだとき。

この違いはどこに?


俺は閃いた。

そうだ、投げ入れる高さだ。低い位置に投げてはダメなんじゃないか?


今度は小石をアンダースローで低く投げた。

消えない! これが正解か。

でも、なぜ高さ制限があるんだ?


俺はもう一度閃いた。

そうだ、ここには黒川邸の外壁が回っていたはずだ。

異世界に行っても、その先は壁だ。

外壁の上を通さないとダメなんだ。

では、上を通したら、何でも送れるのか?


 俺は、落ちている小枝を次々と拾っては投げ入れた。

消えるものと、消えないものがある。

全てOKという訳ではないようだ。

では、その違いは?


一見、消えるのはランダムに見えたけど、よく見ると、違いに気付いた。

どうやら、まっすぐストレートに入った小枝は消えて、回転がついた小枝はそのまま素通りするようだ。

回転させるとダメ、という訳じゃないよな。

この差はなんだ?


さらによく観察してみると、消えるんだけど、途中で復活してそのまま中に落ちる小枝もある事に気付いた。

これはいったい?


俺は一つの仮説を思い付いた。

これは大きさ制限なんじゃないか?

ある一定の直径より大きなものは、弾かれて異世界に行けないのでは?



 俺は、近くに長い棒がないか、探した。

目についたのは、隣の家の物干し竿ざお

これを使えばドロボーだよな。

でも、使う理由を説明できないし、人に見られてもまずい。

すいません、少し使ったら返却します。

少々拝借いたします。


 俺は物干し竿を手にすると、黒川邸跡の高いところにまっすぐ差し入れた。

先端からゆっくりと消えていく。

そしてゆっくり引き抜くと、徐々に戻ってきて復活した。

これは予想どうりだ。


次に、竿を上に立てると、斜めに邸内に差し掛けた。

先端が少し消えたと思ったら、すぐに復活した。

そうか、最初に入った地点からずれると弾かれるのか。


俺は、規制線のために置いてあったカラーコーン(工事現場などによくある、円錐形の車止め)を取ると、物干し竿の端に被せた。

そしてもう一回、邸内にまっすぐ差し入れた。


カラーコーンが先端からゆっくり消えていく。

そして、半分くらい消えたかと思ったところで、突然復活した。


 ビンゴだ!

俺の仮説は正しかった。直径20cmくらいか。

それより小さいものなら異世界に送り込める。

これがわかったのは大きいぞ。隆司を直接支援できるからな。


 そこで俺は気付いた。そうか、そういう事か。

だから異世界の黒川邸に電気、ガス、水道が送れるんだ。

どれもそんなに太い線ではつながっていないからだ。

おそらく直接連絡がとれるのも同じ理由だ。

電波も黒川邸内には透過しているんだろう。



 さて、ではどうやって隆司を救出しようか。

そうだな、とりあえずはあいつの好きな物でも送って、安心させるか。



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