第19話 TF独演会。俺は聞き入るだけです。(その1)

 「TF、俺だ。」

「リュージ、無事だったか。良かった。一晩中連絡がつかないから、心配したぞ。」

「申し訳ない。ちょっと、とんでもない事に巻き込まれていたんだ。」

「何かあったのか?」

「ああ、戦争だ。」

「戦争だって? おまえ、ユンボで戦争に参加したのか? それともダンプで敵に突っ込んだ ········ 」

「俺は特攻隊かっ! そんな事せんわっ!」

「そうか? やるかと思ったんだが。それじゃあ、村に土木作業で協力するっていう話はどうなったんだ?」

「やったさ。一晩でな。徹夜で城を作って、そのまま実戦だ。」

「そうなんだ。ユンボ大活躍だな。で、勝ったのか?」

「ああ、勝った。大勝利だ。おかげで俺は今、魔王リュージに祭り上げられてしまった。黒歴史だ。」

「なに、おまえが魔王? それはいいな。せっかくだからこの際、本気で魔王業に邁進まいしんしたらどうだ? 確かおまえの親父、魔王ヴァルダムの衣装なんかも、そこにあるんじゃないのか?」

「やめてくれ! 確かに衣装はあるだろうが、俺は着ないぞ。誰が魔王なんかになるかっ!」

「そうか、残念だな。気が変わったら、いつでも協力してやるぞ。」

「俺のくわしい話は後だ。それよりもTF、何がわかったんだ?」

「ああ、そうだったな。話は昨日の夕方、転移した黒川邸跡に俺がついた時まで戻るぞ。」

「わかった。」




 俺が黒川邸についたときには、大半のマスコミは引き上げた後だった。

規制線は張られているが、警察も撤収を始めている。

まあ、当然だろう。

正体不明の謎の事件だから、何十人もの人間が入って現場検証をしたはずだ。

でも、何も起こらないし、何も出てこなかったんだろう。

危険そうなものも何もないので、念のための規制線を残して、撤収するんだろう。

 俺は、黒川隆司救助隊の隊長の職務として、規制線をくぐって邸内に入ってみた。


 予想どうり、何も起きない。

地面は草原だ。それほど高くはないが、木も生えている。

ちょっとした林だな。これは異世界の植物なのか?

植物学者に教えたら、すぐにすっ飛んで来そうだ。

でも、隆司が異世界転生したとは明かせないしな。


 俺はまた外に出た。

少し遠くから邸内を観察してみよう。

何か不自然な点はないか?

見落としている事は?


 しばらく観察していたけど、不自然な点は何もみつからない。

そのうち日が暮れてきた。

今日は夕焼けがきれいだ。空が赤いな。

なんか小鳥が飛び回っているな。ツバメか?


 俺はしばらく、ぼーっと鳥を観察していて、なんか違和感を感じた。

何かが変だ。

 俺は改めて鳥を観察してみた。

空を飛び回る鳥の一羽が、くるっと向きを変えて黒川邸の方に向かった。

そして俺は驚愕した。


「鳥が消えた!!!」


そのまましばらく見ていると、何もない空間から突然鳥が出現してきた。

これはいったい、どういう訳だ?

俺たち人間には何も起きないのに、なぜ鳥は消滅する?


 俺は黒川邸跡に駆け寄った。

敷地内に手を入れてみる。もちろん、何も起きない。

考えろ、TF。鳥と人間の違いはなんだ?

鳥は空を飛ぶ。でも人間は飛べない。

地面と接触してないものが消滅するのか?

 

 俺は足元に転がっている小石を拾うと、邸内に投げ入れた。

でも、何も起こらない。

では、それ以外の違いはなんだ?

服を着ているか、羽毛か。

子供を産むか、卵か。

あまり関係なさそうだ。

体重の軽さ。

いや、さっきの小石も重くはないぞ。

やっぱり一番の違いは空を飛べるか、じゃないのか。

空を飛ぶ、か。

そうだ、一番の違いはスピードだ。

速いものは結界のようなものを突破して、異世界に行くんじゃないのか?


 俺は小石を取ると、右オーバースローで力いっぱい投げ込んだ。

遠投の要領だ。


消えた!

そうか、スピードか。

では、どれくらいのスピードが必要なんだ?


俺は別の小石を取ると、少し力を抜いて投げ込んだ。

消えない。

次にもう一個小石を拾うと、今度は全力で投げ込んだ。

消えない!


いったいどういう事だ?

同じ全力なのに、なぜ消えない?


俺はスピードを変えて何回も試した。

消滅した小石は、一個も出なかった。

なぜだ?

俺は途方にくれた。



 




 


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