第18話 天才美少女と愉快な仲間たち。俺にかまうな、頼むから。
俺は実家である黒川邸(魔王城)に帰る準備を始めた。
ユンボをそのままにはしておけないから、ダンプに積んで、持って帰らないといけない。
俺はズタボロを捜して、お礼のあいさつをしてから村長宅を出た。
村の出口に向かって歩く。ティグと頭目も一緒だ。
門の近くには物見櫓が立っているから、迷う心配はない。
子供たちが走り回って遊んでいる。
すれ違う村人たちが、軽く会釈していく。
なんか有名人になった気分だ。
いかん、これはよろしくない兆候だ。
目指すのは地味で平和な小市民なのに ············ 。
村の門を出ると、そこから先は俺がユンボで作った城になっている。
虎口の内門の坂を下ると、負傷者の治療はほぼ終了していた。
敵だったトナーリ村の荒くれ者たちが、集まって食事をしている。
一緒に歩いていた頭目が、軽く一礼すると、仲間のほうへ歩いていった。
広場の真ん中近くに「地竜」ユンボが鎮座している。
そして、その周りには人だかりが ············ 。
「こいつが噂の地竜ってやつか。硬そうだな。鉄竜か?」
「全く動かんな。どうしたんだ? 冬眠中か?」
「おい、誰か。つついてみろよ。動くかもしれんぞ。」
「いやだよ。いきなりブレスを撃ってきたら、どうするんだよ。」
「まったく困った奴らだな、リュージ。見せ物ではないぞ。って何をズッコけてるんだ? 魔王。」
「いや、いい。気にしないでくれ。」
こいつがユンボを地竜なんて言うから、すっかりそうなってしまったじゃないか。
頭痛が ········。
虎口の外門から、城外に出た。
まだティグがついてくる。
「ティグ、なんでついてくるんだ? もう外に出たぞ。特に用はないだろう。」
「良いではないか。ユンボがエルフ(ダンプ)に乗るところを、もう一回見てみたいだけだ。」
「そうか? 特に面白くはないぞ。」
ダンプのところに着いた。
隠していたのは、村から少し離れた林の中だ。
俺が運転席に座ると、勝手を知っているティグが、助手席に乗り込んできた。
エンジン始動。
「よく考えてみたら、リュージは深淵魔法の発動を無詠唱で行ってるな。 実はとんでもない奴なんだな、おまえ。魔王と名乗るだけのことはある。」
「 ············ 。」
俺は完全に諦めた。
人生、うまくいかない時もあるもんだ。
こんなときは、歌でも歌うか。
「明日があるさ」かな。
俺はダンプを城門の外に停めると、車の外に降りて、ユンボ積み込みの準備を始めた。
音を聞きつけたのか、村人が、さらにはトナーリ村の人間まで集まってきた。
みんな驚愕で、目を見開いて、呆然と見ている。
「なんだ、あの巨大な鉄の馬車は ········ 」
「こいつ、自分で動いていたぞ! 魔竜か?」
「信じられん。これが魔王の魔力なのか?」
うっ、やりにくい。
そんなに見られると、緊張するじゃないか。
俺は群衆の中にいる頭目をみつけると、声をかけた。
「頭目、すまないが、みんなを少し下げてくれないか。あまり注目されると、やりにく ········ 」
頭目からの反応がない。
よく見ると、頭目も口をあんぐり開けて、呆然と見ている。
これはダメだ。それならティグは?
「ティグ、すまんが ········ 」
ティグの方は村人を集めて、魔王解説を始めていた。
「すごいだろう。あの巨大な鉄竜はな、実は魔王の深淵魔法によって転生、使役されているエルフだ。」
「なんと、それは本当ですか?」
こいつもダメだ。ますます話がややこしくなる。
ええい、仕方がない。
ユンボをダンプに積む準備を終えると、俺はユンボのある城内に向かった。
そこからダンプの方まで動かして来ないといけない。
すると、周囲の人間も俺に合わせてついてくる。
俺はプロゴルファーか!
ギャラリーがたくさんいても、嬉しくないぞ!
俺はユンボにつくと、さっそく乗り込んで、エンジンをかけた。
「おおーっ!」 どよめきが拡がる。
「地竜ユンボが覚醒した!」
「魔王不在では全く動かないとは、さすがは魔王の眷族だ。」
俺は思った。これは何かの罰ゲームか?
俺はユンボをゆっくり前進させた。
群衆からまたどよめきが起きる。
前の人たちが道をあけてくれた。
でも、みんな後ろからついてくる。
脇からティグの声がした。
「おい魔王、皆が注目しておるぞ! 鉄の首を動かしてくれないか?
何ならブレスを撃ってくれてもいいぞ。」
するかっ! そして、出来るかっ!
地味で平和な小市民という、俺の夢は ··········· 。
ダンプのところにつくと、俺はユンボの積み込みを始めた。
ここは集中だ。群衆をカボチャだと思うんだ。心頭滅却だぞ、隆司。
俺は黙々と作業を進め、無事完了させた。
よし、これで後は帰るだけだ。
やっと一人でリラックスできるぞ。
俺はダンプに乗り込むと、窓を開けてティグに別れのあいさつをした。
「ティグ、今日はありがとう、世話になった。それでは俺は帰る。明日また来るから、そこでまた話そう。それではな!」
俺はダンプを発進させた。後ろからティグの声が追いかけてくる。
「ありがとう、リュージ。おかげで村は救われた。礼を言う。それからリュージ、村のみんなから魔王城の中を見てみたい、という希望が上がっている。 私もだ。今、魔王城の見学ツアーを企画しているから、そのときは頼むぞ!」
ん? 今なんか、さらっと重大な事を言ってなかったか?
まあいい。どうせ明日また会うんだ。そのとき話が出るだろう。
帰り道は順調だった。
黒川邸への坂道を上がっていく。
昨日ここを出発しただけなのに、随分久し振りのような気がする。
まあ、いろいろあったからな。
じいちゃん家が大きくなる。なんだか懐かしいな。
後はゆっくり休もう。
「魔王、遅い! あんまり遅いので、門をブチ破って中に入ろうかと思ったぞ!」
俺は運転席から、滑り落ちそうになった。
「ど、どうしておまえがここに ········ 」
待っていたのは、突撃娘。そして配下の半裸少女隊、もとい、独立騎馬隊の団体様御一行。
「なにを言ってる。この丘は元々、我々のトレーニング場だ。新参者はおまえの方だぞ、魔王。」
「それはそうかもしれんが、俺も来たくて来た訳では ········ 」
「それに戦争では魔王の頼みをきいてやったじゃないか。」
そうだった。こいつには負傷者の救護を頼み込んで、やってもらったんだった。
「わかったけど、なんで門の前で待ってるんだ?」
「我々は、ここに独立騎馬隊の待機詰所を作ることにした。」
「おい、家の正門前にか?」
「というのは建前で、魔王、とびっきり美味しいお菓子を秘蔵しているらしいな。ティグからきいたぞ。」
あいつめ、触れ回ってるな。
「その ········ それを少しばかり、分けて欲しいかな、と ········ 」
「わかった。あのときは世話になったしな。たくさんは無いけど、いくらか持ってきてやる。しばらく待っていてくれ。」
黒川邸の正門からはダンプは入らないので、その脇にある車用のシャッターを開けた。
そして俺はやっとじいちゃん家、黒川邸に帰ってきた。
車庫に入れるにはユンボを降ろさないといけないが、そんなのは後日にしよう。
ダンプをそのまま庭に停めると、俺は家の玄関に向かった。
と、玄関の脇に何か白いものが落ちている。
あれっ、家を出るときにはこんなのは無かったぞ。
近付いてみると、紙ヒコーキだ。
誰か投げたのが家に入った?
いや、待て。この世界には白い紙はないぞ。
俺は紙ヒコーキを取り上げた。
ん、何か文字が書いてある。
俺は紙ヒコーキを広げてみた。
そこには見覚えのある文字。
隆司、無事か? これを見たらわかるだろうが、こちらの世界からそちら、異世界側に物資を送れることがわかった。帰ってきたらすぐに連絡をくれ。
TF
そうか、現代社会に残っているTFが、何か大発見をしたようだ。
俺はすぐにスマホをとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます