第23話 歓迎したくない来訪者。俺のボヤキを聞いてくれ。(その2)
俺はスマホを取り出すと、TFにつないだ。
「なんだ、隆司。もう昼食が終わったのか? 早いな。」
「いや、TF。それどころじゃないんだ。門の外が大変な事になってる。」
俺は外の様子を説明した。
「村人が魔王城の中に興味を持つのは当然だ。ユンボとか、こちら側の機材を見たなら、好奇心をそそるだろうからな。いっそ、団体旅行を解禁するか? 入場料をとったら儲かるぞ。」
「冗談だろ。毎日の掃除が大変な事になるぞ。」
「もちろん冗談だ。そんな事は出来ない。もし公開したら、この世界ではあり得ない奇跡の品や、すごく便利な物など、とんでもなく価値の高い物が、沢山ある事がバレる。そしてそれが外に知れ渡ったら、魔王城は常に泥棒から狙われる事になる。そしてそれがエスカレートすれば、どこかの国の軍隊、いや、それ以前にここ、ジモト王国の正規軍からさえも狙われる危険性がある。だから隆司、世間のイメージどうり、魔王城はモンスターの巣窟、危険なところだとPRした方がいい。」
「なるほど、確かに。だったら、TFの金儲け案は、二重の意味で価値があるんだな。」
「そのとうりだ。ただし、このPRには一つ弱点がある。」
「なんだ、それは。」
「すぐにわかるだろう。魔王城といったら、最強のダンジョンだぞ。勇者パーティーが攻略に来るじゃないか。」
「そうか、確かに。それはまずいな。もし来たらどうしよう。」
「そうだな、そのまま中に通してしまう、なんてどうだ?」
「中に通す? 護衛の荒くれ者たちに、素通りさせろと言っておくのか?」
「そのとうりだ。そして魔王城の中で歓待させよう。ここには魔王は不在だし、モンスターもいないと言ってな。そうだな、そのためには女性の中居さんを雇う必要があるな。」
「本当にそれで大丈夫か? 信じられん、とか言って城内を荒らす奴も出てくるんじゃないのか?」
「そのときは頭目に出張ってもらおう。いくらA級の冒険者でも、荒くれ者 300人は相手にできんだろう。退散するはずだ。」
「もしも本物の勇者がいて、勝ってしまったら?」
「そのときは、そいつは勇者なんかじゃない。300人を皆殺しにした、本物の魔王だ。もしそんな奴がいたら、猟銃で狙撃してもいいんじゃないかと俺は思う。」
「 ············ 。」
「まあ、そんな事にはならないとは思うがな。」
「そうだな。ではTF、頭目は何を考えてると思う?」
「ただ単に、おまえの役に立ちたいと思ってるだけじゃないのか? 俺たちの
「では、左の騎馬乙女たちはどうしようか。」
「そちらは知らん。隆司のジゴロの才能で、どうにかしてくれ。」
「そんな、薄情な ········ 。」
「隆司、よく考えてみろ。女の方から近付いて来るんだぞ。絶好のチャンスじゃないか。誰にするか、よりどりみどりだぞ。いやあ、うらやましいかぎりだ。でも隆司、一つ間違えると大火傷だから、注意しろよ。三角関係に悩んだら、いつでも相談にのってやるからな。」
「 ············ 。」
ここは友情に感謝するところなんだろうか?
三角関係?
確かに女同士で奪い合うこともあるかもしれない。
ただし、対象は俺じゃなくて、お菓子だ。
まあいい、それよりも、だ。
「TF、じゃあ外の連中をどうしようか。シカトする訳にもいかんだろう。」
「そのとうりだな。ティグさんと頭目は中に呼び込むべきだろう。」
ティグさん? あいつに敬語が必要か?
まあ、会った事がないからな。会えばイメージが変わるぞ。
「TF、二人と話をつけて解散させるという事なのか?」
「もちろんそうだが、村人は納得しないだろうな。やはり何らかのサービスをした方がいいんじゃないか。」
こ、こいつ、外堀から内堀まで埋めてくるじゃないか。
どうしても金儲けをしろ、というんだな。
だんだんTFが悪魔に見えてきた。
今度会ったら、
「それと隆司、ティグさんと直接話をしてみたい。2人を中に入れたら替わってくれないか?」
「わかった。それじゃあ2人を呼ぶぞ。」
俺は正門の扉を少し開けると、手招きした。
「ティグ、ちょっとこっちに来てくれ。頭目もだ。」
「おお、ようやく中に入れるのか。魔王、村人も入れていいか?」
「いや、ダメだ。おまえだけ来い。」
「そうか、仕方がないな。みんな、もう少し待っていてくれ。私が先に、中を偵察してくるからな。」
扉の隙間から、ティグと頭目がすべり込んできた。
「ほう、ここが魔王城の中か。正面に見えるのが魔王宮殿だな。」
いやいや、それは黒川家です。そんなにすごい造りにはなっておりません。
「エルフとユンボが宮殿の外で待機してますね。敵襲来への備えも万全だ。 さすがです。」
いやいや、それはそこに停めたまま忘れてるだけです。
「頭目、少しお願いがある。部下たちにここ、魔王城の警備をお願いできないだろうか。」
「魔王様の方からそう言ってもらえると、ありがたいです。そのつもりで部下を連れてきました。なんならトナーリ兵全員を呼びましょうか? 王国正規軍とだって戦えますよ。」
「いや、戦争をしようとは思ってないから、そんなには必要ない。主な任務は防犯、つまり泥棒対策だ。」
「それでいいんですか?」
「ああ、大丈夫だ。」
でも、非常時にはすぐに連絡がつくようにしないといけないな。
トランシーバーでも持たせるか。
「ティグ、すまないが、諸事情により城内は一般には公開できない。」
「えっ、そうなのか。何でだ?」
「そのかわり、俺の友人、TFの提案で、こんな事をしようかと思ってる。」
「ほう、どんな事だ?」
「 ············ 。」
「そうか、これは面白い事を考えたな。これで魔王リュージの名が、王国中に轟くぞ。よし、わかった。私が手を貸してやろう。」
「それで、そのTFがティグと直接話をしたいと言ってるんだ。」
「なに? 魔王の友人という事は、そのティーエフとやらは魔界にいるのではないのか?」
「魔界 ········ まあ、あちらの世界の日本という国なんだが、とにかくTFと、このスマホで話してみてくれ。」
「なんと、魔界におる者と、直接喋るというのか。念話の魔法? かなり高度な魔法だぞ。」
うっ、これも説明のしようがない。
まあ、デジタル変換して4G無線で喋るから、高度というのは間違いないが。
「ティグ、スマホのここを耳にあてて、TFと話してみてくれ。」
「わかった。少しスマホを預かるぞ。」
ティグは、受け取ったスマホを自分の耳にあてた。
「魔王の友人、ティーエフとやらか?」
ティグは、しばらくスマホの声を聞いていたようだったが、すぐに降ろした。
どうしたんだ?
「リュージ、魔界の友人と言葉が通じぬ。すまんが、翻訳のネックレスをしばらく返してくれ。」
そうだった。すっかり忘れていたけど、この世界で言葉が通じているのは、このネックレスのおかげなんだった。
俺はネックレスを外すと、ティグに手渡した。
「ⅩⅩⅩⅩⅩ。」
ティグがなにか言った。でもここからは聞きとれない。たぶん、お礼だろう。
ティグが再びスマホを耳にあてると、TFと話し始めた。
俺はだんだん不安になってきた。
なんでかって?
それは二人の会話が、異常に盛り上がっているからだ。
ティグが身振り、手振りを交えて、興奮したように喋っている。
なにか良からぬ事が起きねば良いが。
悪魔とド天然が手を組んで、妙な化学変化を起こさないだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます