第30話 襲ってきた災厄。俺、無実なんだが。(その2)
村の外で剣を振っている勇者ヨシヒロが見えた。
「ヨシヒロ、危険だ。逃げろ! こいつは強いぞ。」
ヨシヒロの目が光ったように見えた。
「強い? そうか。
しまった、逆効果だったか。やめろ、ヨシヒロ!
オッサンの前に、ヨシヒロが立ち塞がった。
いくらおまえでも、無理だ。こいつの剣は ·········· 。
「邪魔だ!」
オッサンが剣を振り下ろす。盛大な金属音。
「うっ! こやつの剣は、どうして平気なんだ?」
「そりゃそうだろう。こいつは一応魔剣と呼ばれているらしいからな。」
「その声は! そうか、おぬしは勇者ヨシヒロだな。どうしておまえがここにいる?」
「さあ、なぜかな? さしずめ、ここが気に入ったからではないのかな。」
「ぬかせっ!」
オッサンが斬撃をくり出す。
ヨシヒロも、それに応えて、はじき返す。
すさまじい斬撃の応酬だ。これはすごい。
俺は思わず見とれてしまった。
果てしなく続くと思われた斬撃の応酬だったが、そのうちだんだんヨシヒロの方が押し始めた。
さすが、令和のラスト・サムライの称号は伊達ではない。
押されて苦しい表情になってきたオッサンが、不意に一歩退いた。
「ウイングカッター!」
こいつ、魔法を使えるのか!
正面から斬りあっていたヨシヒロは、これをまともに喰らった。
「うぐっ!」
全身から血が吹き出す。片ヒザをついた。
「ヨシヒロ、実戦では卑怯という言葉はないからな。これが現実だ。」
「わかっておるわ。俺はただ、己の剣を信じるのみだ。」
ヨシヒロは立ち上がると、何事もなかったかのように剣を振るった。
再び始まる斬撃の応酬。
あれだけの傷を負いながら、ヨシヒロすごい!
オッサンが一歩退いた。
まずい、また魔法がくるぞ!
「ウイングカッター!」
そのとき、脇の方からも声が上がった。
「ウイングカッター!」
2つの風魔法がぶつかり合い、はじけ飛んだ。
誰だ! 今の魔法を放ったのは?
ヨシヒロが脇の方を見て言った。
「ラディッツ、助けに来てくれたのか?」
「なんで助けてしまったんでしょうねえ、私は。」
「ラディッツ、なぜおまえがわしの邪魔をする? 裏切ったか!」
「というより、裏切らざるを得ないでしょう。この状況では。」
再び斬撃の応酬が始まった。
魔法を封じられたオッサンは、じりじりと下がっていく。
防戦一方だ。
追い込まれたオッサンは、ヨシヒロに叫んだ。
「勇者ヨシヒロ、なぜ魔王の味方をする! 魔王が王国を制圧すれば、ここは阿鼻叫喚の地獄になるぞ。それでもいいのか!」
ヨシヒロが答えた。
「なにを言ってる。リュージは魔王なんかじゃないぞ。」
カチーン!!!
オッサンが白く凍りついた。
魔法使いが、おそるおそる聞いてきた。
「ヨシヒロ、それは本当なんですか?」
「本当だ。ただし、しばらくは秘密だ。魔王で盛り上げておいた方が良さそうだからな。」
氷をパリパリと割って、ようやくオッサンが復活してきた。
「魔王リュージ、それは本当なのか?」
「ああ、本当だ。俺はずっとそう言ってきたんだが。」
「では、このリュージ展は金儲け狙いのサギ案件なのか?」
「そういう事になるな。なんか俺もサギの片棒をかついでいるみたいで、気がとがめるんだ。」
オッサンはがっくしと肩を落とした。
「そうか、わかった。わしは帰る。騒がせてしまって、申し訳ない。だがヨシヒロ、おぬしがサギに関わっているとなると、報告せざるを得ない。どうして犯罪などに手を染めた?」
「なにを言ってる。金儲けには違いないが、サギではないぞ。みんな喜んで帰っている。
「なに? そうなると、魔王リュージは転生者なのか?」
「そのとうりだ。」
「変だな。ジモト王国が召喚したのは大魔術師と配下の魔王、そしてその一族と聞いている。一致しないぞ。」
「そのあたりは知らん。どこか他国の召喚なんじゃないのか?」
「そうかもしれんな。わかった。それとヨシヒロ、おぬしが魔剣ゲルトを持っている限り、勇者の義務があるからな。本物の魔王が現れたら、倒すんだぞ。」
「義務? そんなのは知らんなあ。でも魔王が強い奴だったら、倒してやる。心配するな。」
強くない魔王っているのか?
反戦平和を唱える魔王がいても、悪くはないよな。
本家魔王って、どんな奴なんだろう。
想像どうり、引きこもりか?
ティグが走って戻ってきた。
「ティグ、チェンソーはもういい。元に戻しておいてくれ。」
「なに? 団長はどうした。」
「王都に帰っていったぞ。」
「なんだと! 魔剣チェンソーなしで、あの団長に勝ったというのか。どんな魔法を使ったんだ? いや、聞くまでもないか。なんせ魔王なんだからな。 っておい、ヨシヒロ殿、ひどい傷ではないか。どうしたのだ?」
「なに、大した事ではない。魔王が団長とやらを倒す前座をやってただけだ。心配ない。」
こいつ、俺を立ててくれるのはうれしいが、ありがた迷惑だ。
俺の魔王伝説(?)がまた積み上がるじゃないか。
「ラディッツ、助かった。礼を言うぞ。おまえでも役に立つ事があるんだな。口うるさい小言係なんだと、今まで思っていたぞ。」
「何を言うんですか、ヨシヒロ。私はあなたが道を誤らないようにと、陛下から正式に任命された、サポート係ですよ。」
「でも良かったじゃないか。これで2人揃って、晴れて魔王の仲間入りだ。」
「はっ、しまった。もしかして私は、人生最大のミスを犯してしまったのではあるまいか?」
「ラディッツ、心配するな。こっちの方が、王国よりもずっと面白いぞ。魔王リュージは次にドラゴン退治をするそうだ。おまえも来たらどうだ。ドラゴンスレイヤー(竜殺し)として、王国中に名前が轟くぞ。」
「 ·········· そうですね、確かにそれも悪くない。どこかの国が、宮廷魔術師として私を招いてくれるかもしれませんね。わかりました。私も魔王リュージの一党に加わりましょう。」
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