第29話 襲ってきた災厄。俺、無実なんだが。(その1)

 大魔王リュージ展の最終日が終了した。

俺は肩の荷を降ろした気分だ。

会場だった村長宅の大広間は片付けられて、今はテーブルが並んでいる。

何をしているかというと、無事終了を祝した打ち上げの準備中だ。

俺は、協力してくれたみんなに報いるために、大量のカップラーメンを用意した。

こちらの世界では1個一万円もする、超高級食品だ。

太っ腹な魔王だと、みんなすごく喜んでくれている。

だから、ラーメンの原価は企業秘密だ。

量が多いから、お湯が大量に沸かされて、次々と作られている。


 一方、俺の足元にはティグがいる。

まだ未練がましそうに、すがりついている。

「なあリュージ、もう少しやらないか? な、な。お客さんもまだまだ見たいと言ってるぞ。ファンレターもこんなにある。な、な、もう少し ·········· 」


ええい、しつこい!



 その時、荒くれ者が走り込んできて、頭目に言った。

「お頭、また変な奴が来てます。魔王に会わせろと言って、暴れてます。」

「またか。今度も手合わせしろ、とか言ってないだろうな。」

頭目は大剣をつかむと、走って出て行った。


「客のクレームには、上司の対応だな。」

俺は容赦なくティグを振り落とすと、外に駆け出した。



 外門についてみると、そこには甲冑姿の騎士がいた。

今は馬を降りて、こちらに歩いてくる。

騎士に対しているのは、馬上の突撃娘。

前回は留守にしてたんだが、今回は居合わせていたようだ。

おい、このまま突撃するなよ!


「おい、おまえ、何者だ! フツーノ村に何の用がある?」

「ほう、知らんか。これでも少しは有名人だと思ってたんだがな。なに、わしの用は魔王だけじゃ。お前さんに用はないから、引っ込んでおれ。」

「おのれっ!」

突撃娘は、馬を駆って突撃した。ああ、言わんこっちゃない。


馬上で弓を構えた突撃娘は、つるべ射ちに矢を射ち込む。

騎士は特にけるでもなく、飛んでくる矢を無造作に剣で打ち払った。

突撃娘も腰の剣を抜くと、まっすぐ騎士に襲いかかる。

交差する二人の剣。

そのまま何も起こらず、突撃娘は通り過ぎた。


そして引き返そうとした突撃娘から、驚愕の声が上がった。

「ああっ! 私の剣が ·········· 」

娘の剣は、中ほどからきれいに落ちて、なくなっていた。

「すまんな、お嬢さん。わしは紳士なので、レディを傷つける趣味はない。 下がっておくんだな。」


 そのとき、後ろから駆けつけたティグからも、驚愕の声が上がった。

「サイラストス団長! なぜあなたがここに ·········· 」

「団長? ティグ、知り合いなのか?」

「ああ、こいつは近衛騎士団の団長、サイラストス。王国最強の騎士だ。」

なんだって? 王国最強の騎士がなぜここに?

もう討伐軍が来たというのか?


「ほう、ティグか。久しいな。」

「みんな、気を付けろ。こいつの剣は王国の秘宝、聖剣エスカリスだ。竜の鱗ドラゴン・スケールですら斬ると伝わる剣だ。ヨロイや剣くらいなら、紙のように切り裂くぞ。」

なんだって? こいつもとんでもない奴だ。

近接戦では無敵じゃないか。


 ティグが右手を高く掲げて、詠唱を始めた。

そうか、魔法で対抗するつもりだな。

「ファイアーボール!」

降り下ろしたティグの右腕から、炎の弾丸が弾き出される。

だが、騎士はこれも剣で打ち払った。


「ほう、ティグ。少しは腕を上げたな。だが、こんなものでは私は倒せぬぞ。」

「リュージ、残念ながら村にはこいつに対抗できる魔法剣はない。やはり魔剣チェンソーを使うしかない。私が取ってくるから、しばらくそいつを足止めしておいてくれ。」


おい、またこの展開か?


騎士は俺の前に立った。

「おまえが魔王リュージか。こんな王都の近くに現れて、何をするつもりだ? 王国を蹂躙じゅうりん、占領してこの世の地獄にするつもりか?」

「いえ、そんなつもりは全然. ·········· 」

「金儲け狙いのサギ案件かと思っていたが、これほど大規模にやっているとは。やはりこれは王国の脅威になりうるな。狙いは王国の転覆か?」

「いえ、金儲け狙いなんですが ·········· 」

「やはりここは魔王リュージ、おぬしを成敗しておいた方が良さそうだ。恨みはないが、これも任務だ。悪く思うなよ。」


「やい、てめえ、魔王様に何という口のきき方だ!」

頭目が俺の前に割り込んで来た。

「魔王様、あっしも加勢します。2人でこいつをノシましょう。」

頭目が大剣を手に、向かっていく。

「頭目、やめろ。大丈夫だ、心配ない。魔王が人間に負ける訳がないだろう。おまえは村に戻って、すぐに村人全員を避難させてくれ。極大魔法発動の邪魔になるからな。」

「わかりました。それでは村のみんなを避難させます。魔王の本気を見せつけてやってください。なるべく遠くに避難させておきますから。」

「ああ、頼んだぞ。」


頭目は、村の方に駆け出した。

別に俺はヤケになったのではない。

これでも俺はマラソンには自信がある。

甲冑を着たオッサンに、負ける訳がないと踏んだのだ。

あっ、でもこのオッサン、馬を持ってるな。

でも大丈夫。こっちにも原付がある。

無事、原付にたどりつけたら俺の勝利だ。


「ほお、魔王。大した自信だな。では、自慢の魔法を見せてみろ。本気でかからんと、わしは倒せんぞ。では行くぞ!」


オッサンが剣を振り上げた。

俺はくるっと後ろを向くと、そのまま走り出した。


「こら待て! 魔王、逃げるか!」


オッサンは一度馬に戻ってから追いかけてくると思ってたが、予想は外れた。そのまま走って追いかけてくる。

そしてもう一つの予想も外れた。

オッサン、走るのも速い! マジか、甲冑を着てるのに。

魔王の本気を上回ってるぞ。

こいつはオリンピックに行けるんじゃないか?


オッサンの剣が後ろから迫る。

まずい! 俺は急転回して逃れた。

でもまた迫ってくる。いかん、いつまで逃げきれる?

また絶体絶命だ!







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