第31話 村人みんなに感謝。でも、俺の苦労もわかってくれ。

 ヨシヒロが俺の前に魔法使いを引っ張ってきた。

「リュージ、こいつは俺についてた小言係なんだが、ドラゴン退治に連れていってもいいか? こいつは魔法を使えるんで、何かの役にはたつと思うぞ。」

「だからヨシヒロ、私は小言係じゃありません。何度言ったら ·········· 」

「それはありがたいんだが、そんな事をして大丈夫なのか? 命令違反で憲兵隊とか、騎士団とかが逮捕しに来ないか?」

「確かに来るかもしれんな。どうする? 王国に俺たちを引き渡すか?」


そうだ、ここでヨシヒロたちをかばったら、王国との関係が悪化する。

最悪、村そのものも同罪と見なされて、本気の討伐軍が来る可能性だってある。

でも、ダンジョン攻略にはヨシヒロたちの戦力は欲しい。

日本刀を渡すと、約束もしてしまったしな。


 考え込んだ俺を見て、ヨシヒロが言った。

「心配するな、魔王。当分は何も来ないさ。王国軍は現在、本家魔王に備えて緊張状態にある。それをほっといて、リュージを討伐に来るとは考えにくい。それにリュージ、俺たちが退治しようとしているドラゴンは、本来なら王国が威信を賭けて討伐すべき存在だ。それを我々、部外者イレギュラーが退治してくれるというんだから、邪魔はしないはずだ。少なくともダンジョン攻略が終了するまでは、手を出して来ないと思うぞ。」


確かにそうだ。問題になってくるのは、ドラゴンを退治した後か。

あまり想像したくないが、王国と全面衝突なんて事にならないだろうな。

でも、今それを考えても仕方がない。とりあえずは目先のダンジョン攻略だ。


「わかった。本人が希望して、協力してくれるなら大歓迎だ。一緒にドラゴンを倒そう。」

「ありがとうございます。でも魔王、ドラゴンを倒すとは、大それた事を考えますね。相当困難ですよ。」

「大丈夫だ、魔法使い。魔王リュージの実力を知らないな? 地竜ユンボを先頭にダンジョンに突入すれば、攻略など簡単だ。心配無用!」

おいこらティグ、余計な事を言うな!



 ヨシヒロが、頭上に剣を掲げて言った。

「ラディッツ、大丈夫だ。俺が、この剣に誓ってドラゴンを倒してやる。強い敵こそ、俺が望んでいるものだ。腕が鳴るではないか。」

「ヨシヒロ、あなたの大丈夫が、一番信用できないんですよ。どうやってドラゴンのブレスをしのぐつもりなんですか? 鉄より硬い竜の鱗ドラゴン・スケールをどうするんですか? おまけに、どんな魔法を使うのか全くわかりません。いったい、この人の自信はどこから来るのでしょうか?」

「相変わらず心配性だな、おまえは。後は魔王に任せておけばいいのだ。何か策を考えてくれるはずだぞ。」


えっ、俺に丸投げ? でもまあ、いいか。俺にはアテがあるからな。

今ごろTFが尻尾しっぽを出して、極悪非道な作戦を立案中のはずだ。

きっと、邪悪な微笑みを浮かべてるんだろうな。


「わかりましたよ。ヨシヒロは信用できませんが、魔王は信用する事にします。魔王様、私はラディッツ・トレバーンと申します。これより魔王リュージ一党に加わり、ドラゴン退治に協力いたします。よろしくお願いします。」

「ありがたい。大歓迎だ。こちらからもよろしく頼む。」

「魔法使い、ドラゴンが片付いたら、次は世界征服だからな。魔王リュージの野望は果てしないぞ。そのうちおまえも、どこかの国の国王にしてやるからな。楽しみにしておれ。」

こらティグ、また余計な事を。

「ほう、世界征服か。それは面白そうだ。この世界にはまだまだ強敵ともがいそうだからな。楽しみにしておこう。」

ヨシヒロ、おまえまで乗っかってくるな!



 俺たちは村長宅に帰ってきた。でも、誰もいない。

大量のカップラーメンが、もう冷めてしまっている。

ティグが叫んだ。

「ああっ、なんてもったいない事を! なぜ誰もいない? 大損失ではないか。」


そうだ、思い出した。

村人を避難させろ、と俺が頭目に言ったんだった。


「ティグ、実は村人には避難してもらっている。頭目に頼んだんだ。極大魔法を撃つから避難させろ、てな。たぶん、相当遠くまで逃げてると思う。」

「そうか、わかった。では私が馬で走って、皆を呼び戻してくる。それにしても団長め、こんな大損害を出させおって。王都に請求書を送ってやる! それではリュージ、行くからな。村人が帰ってきたら、悪いのは団長だとしっかり説明してくれよ。」


ティグが走って出ていった。

俺はティグの後ろ姿を見ながら、思った。

大量の生ゴミが出てしまったな。処分に困るだろうな。

村人たち、怒るかな?



 頭目が村人を引き連れて帰ってきた。

予想どうり、かなり遠くまで逃げたらしく、外はもう暗くなっていた。

みんな疲労困憊の様子だ。

それはそうだろうな。

俺が極大魔法を撃つなんて言ったから、巻き込まれないように、全力で逃げたはずだ。

食べられなくなったカップ麺を見て、みんな怒りをあらわにしている。


頭目が、俺を見つけてやって来た。

「魔王様、ご苦労様でした。あいつも魔王の本気を見て、恐れおののいた事でしょう。」

いや、魔王の本気は通用しなかったんだが。

「それにしても魔王様、村の方からは何の爆炎も感じられなかったんですが、どんな極大魔法を使ったんですか? 破壊跡の復旧作業が大変でなければ良いのですが。」

「いや、極大魔法は使っていないから大丈夫だ。団長は自分の勘違いに気づいて、素直に帰ってくれた。」

「なんですって? あいつは魔王様を討伐に来たんじゃなかったんですか?」

「ああ、そのつもりだったみたいだけど、話し合ったら誤解が解けたんだ。 迷惑をかけたと謝っていたな。」


ティグがこちらにやって来た。

「リュージ、一つ確認したいんだが、団長がおまえを討伐すると言ってたのは、勘違いだったんだよな。」

「そのとうりだ。間違いない。」

「リュージはその勘違いに、最初から気が付いてたのか?」

「ああ、気が付いてた。団長は最初から、俺の事を完全に勘違いしていたな。」


なんだか、ティグの視線が冷たいんだが。

「リュージ。私が思うに、カップメン大損害の原因はおまえじゃないのか? 村人が逃げたのは、団長が襲ってきたからじゃないぞ。リュージが極大魔法を撃つと言ったからだぞ。」

「そ、それは ·········· そのとうりだな ·········· 。」

「話し合って解決しようとは思わなかったのか?」

「 ············ 。」

「わかった、リュージ。請求書はおまえに出す事にする。きっちり耳を揃えて払ってくれよ。それとこの生ゴミの山、どうしてくれるんだ? これもおまえが責任をもって処分しろよ。」

「 ············ 。」


これは正当防衛にはならないのか? 

いや、無理だな。立証できない。

実際、逃げ回っていたのを、ヨシヒロに助けられた、というだけだしな。

話し合いで解決できるのなら、なぜ最初から話し合わない?

こう言われてしまうと、反論できそうにない。


参った。超高級食品、カップメンの損失分なんて、学生の俺に払えるのか?

もちろん村の金庫には、リュージ展の収益が大量に入っている。

でも、これに手をつけたら公金横領になるよな。


思わずこんな記事が浮かんだ。

「魔王リュージ、村に損害を与えた罪で逮捕。特別背任罪。公金横領か?」


いや、さすがにこれはまずいな。

見なかった事にして、踏み倒すか?


「魔王リュージ、部下への損害賠償支払いを不履行。支払い能力を疑問視する部下たち。自己破産手続きに進行か?」

こうして魔王城の家財には赤札が貼られ、差し押さえの憂き目に。


なんか明るい未来が見えないぞ。

魔王って、資金繰りに悩むものなのか?



 でもまあ、仕方がない。

損害賠償はできないから、現物支給で我慢してもらおう。

俺はみんなの前に立った。


「みんな、今日は迷惑をかけた。申し訳ない。せっかくのリュージ展の打ち上げだったのに、俺が台無しにしてしまった。でも、俺は村のみんなに感謝している。おわびとして、明日また改めて打ち上げをしようと思う。カップ麺も、ちゃんと準備しておくからな。」


「おおーっ!」

歓声が上がった。

「なんと気前のいい魔王だ!」

「これはもう、リュージの器は大魔王なのではないか? 俺はこれから、そう呼ぶぞ!」

いや、それは困るんだが。



 次はいよいよドラゴン退治だ。

その前に、少しくらい破目を外してもいいだろう。

俺の感謝の気持ちだ。


「リュージ、太っ腹だな。気前がいい奴は好きだぞ。で、リュージ。請求書の件はどうしようか? 金がないなら、肉体労働で払ってくれてもいいぞ。そうだ、もう少しリュージ展を続けよう。な、名案だろう?」


こいつ、まだ諦めていなかったのか。

また村に変な奴がきたら、どうするんだ?

今度はおまえが、一人で対応しろよ。

そうだ、最初から俺がチェンソーを持っていよう。







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