第33話 空飛ぶトラブルメーカー。俺はドジっ娘なんかに興味はないぞ。(その2)

 「ヨシヒロ、おまえはどう思う?」

「俺の関知するところじゃないが、人間の価値ってのは、本人の才能よりも、それをどう使うかという、上位者の才覚に左右される方が大きいんじゃないかと思うな。まずは実際に見てみて、それからどう使えるか考えてみてもいいんじゃないか。」


なるほど。ヨシヒロも、たまにはいい事を言うじゃないか。


「よし、わかった。では魔法少女、おまえの魔法を実際に見て、それから決めようと思う。それでいいか?」

「ありがたいです。でも、言っておきますが、私は自分の魔法の威力には自信がありますから、こんなところでは撃てません。みんなの迷惑にならない、どこか広い空き地でお願いします。」

「わかった。それでは外に出よう。」


 俺たち3人は、城の外に出た。さて、どこにするか。

畑で撃って大穴でも開けようものなら、村人から大ヒンシュクだ。

周りに何もなくて、かつ何か目標があればベストなんだが。


俺は外を見回して、ある場所に目がいった。

そうだ、あそこにしよう。せっかくだから、魔法の有効活用だ。


俺は、2人を村から少し離れた場所に案内した。

漂う異臭。

「なんですか、ここは。なんか臭いますね。もしかして魔王様、ここはゴミ捨て場ですか?」

「そうだ。ここは村のゴミ捨て場だ。そしてそこに袋が積んであるだろう。あれは生ゴミになった、カップメンのなれの果て。あれの処分を押し付けられて困ってたんだ。せっかくだから、あれを撃って爆破処理してくれ。」

「えっ、 ········ 生ゴミに爆裂弾ファイアー・ボムを撃ち込むのですか? ········ いや、それは魔法使いのプライドというものが ········ 」

「さっき、どこでも俺の好きなところに撃ち込むって言ったじゃないか。」

「いや、それは ········ 魔力のムダ使いというか ········ 」

「そうか。嫌ならそれでも構わんぞ。俺は帰る。」


俺が帰ろうとすると、魔法少女がすがり付いてきた。

「いやいや、待って! 待ってください。撃つ、撃ちますから!」


 魔法少女が、生ゴミの前に立った。

俺とヨシヒロは、かなり離れたところに立っている。

魔法少女は魔法の杖マジック・ワンドを両手で持つと、精神統一しているようだ。

あの生ゴミの臭い、きっと邪魔だろうな。


準備が完了したのか、少女は魔法の杖マジック・ワンドを高く掲げると、呪文の詠唱に入る。

杖の先端が光を放った。次第に強くなる。

魔力を持たない俺でも、強力なエネルギーを感じられた。

頼んだぞ、魔法少女。

おれの悩みの種だった生ゴミを、完全粉砕してくれ!


魔法少女は杖を大きく振り上げると、生ゴミに向けて振り降ろした。

爆裂弾ファイアー・ボム、+5 !」

杖の先から、まばゆい光が生ゴミに向かって走った。

おお、すごい。


「 ············ 。」

「 ············ 。」

それだけだった。何も起きない。

なんだ、これは。見かけ倒しか?

魔法少女は、魔法を放った体勢のまま、固まっている。

俺は遠くの魔法少女に声をかけた。

「いったいどうしたんだ? 何も起きないんだが。」

少女は、こちらを振り向いて答えた。

「心配ありません。必ず大爆発が起きます。少し待っててください。」

「少しって、どれくらいだ?」

「もう少しです。」

魔法少女は、また元のポーズで固まった。

このポーズ、何か意味があるのか? カッコいいと思ってる?

美学というやつなんだろうか。



 数分経過。

「おい、魔法少女。あと、どれくらいだ?」

「もう少しです。」

「わかった、もういい。俺は帰るからな。」

魔法少女があわてて走ってくると、俺にすがり付いた。

「お願いします、もう少しだから、待ってください。必ず大爆発しますから。今まで爆発しなかった事はないです。頼みます、もう少し!」

「まったく、仕方がないな。もう少しだけだぞ。」



 数分経過。

「それじゃあ、俺は忙しいんで帰る。」

「わあっ! もう少し待ってください。お願いします。このとうりです。」

俺は魔法少女を、ずるずると引きずって歩いた。

やはり俺のポンコツレーダーは正しかったようだ。

「少女A、心配するな。おまえ、ルックスはいいから、魔王城の仲居として雇ってやる。住み込みでもいいぞ。帰るところのない、家出娘でも大丈夫だ。」

「嫌ですう。私は今までの仲間を見返すために来たんです。バイトを捜しに来たんじゃありません!」

「いや、職場には適所適材というものが ········ 」


 そのとき、俺の視界がピカッと光った。

追いかけて轟く大音響。

「うわっ!」

俺は少し吹き飛ばされた。

立ち上がって振り返ってみると、少女Aが決めポーズを決めて、感涙にむせんでいる。

「ううっ、よかった。爆発した。これで私は魔王軍の幹部だ!」


 吹き上がった爆煙がおさまると、大きなクレーターが出来ていた。

これはシャレにならない。本当にすさまじい威力だ。

でも、これだけの魔力があるのに、どうしてこいつはポンコツ疫病神扱いされたんだ?

こいつ、もしかして!


 俺は少女Aの手をとると、引っぱった。

「魔王様、痛い。どうなさいましたか? 私の魔法の威力に感動なさいましたか?」

少女Aが、腰をくねらせている。

「おい、魔法少女。おまえ、どうして学院をやめたんだ?」

「えっ、それは ········ 、それは個人情報なので、秘密です。」

こいつ、目が泳いでるな。やはり、俺の想像は正しそうだ。

「おまえ、学院の魔法実習でいろいろ事件を起こしてないか?」

「そんな事はありませんよ。」

「おまえのせいで、たくさんの死傷者がでたんだろう。」

「死者なんか出てませんよ。まあ、軽傷者はいましたが。」


やはり。こいつはトラブルメーカーだ。

「おい、魔法少女。正直に話してみろ。でないと、俺としてはおまえを仲間にできないな。」

「うう、悪いのは私じゃありません。先生たちの方ですよ。」



 「これより、新入生による最初の魔法実習を行う。まず最初に、おまえらの魔法の実力を見させてもらう。ここには自動的に反応して展開する、魔法防御結界を張っておいた。もし魔法が暴走しても、何も問題はない。だから、各自全力の魔法を見せて欲しい。では、出席番号順だ。5名ずつ魔法発動を見せてくれ。」


「トロイ、私も強力な魔法使いだと思ってたけど、あなたを見てるとレベルが違うってわかるわ。すごい魔力を感じるもん。」

「ふふふ、わかるか。はっきり言って、私の魔力はすごいぞ。教師たちの慌てふためく様子が目に浮かぶわ。」


「では次。トロイツカヤから、ニフティリアまで5名、前へ。」

「はい。」 「はい。」

「それでは、トロイツカヤから、各自準備された目標に向けて魔法発動。」


「トロイ。あなた、すごい自信家ね。でもわかるわ。魔法の杖マジック・ワンドに集まる、その魔力、圧倒的な力だわ。」


「おい、ジフトリス先生。あの生徒、トロイツカヤの魔力がヤバい。自動防御結界だけで防ぎきれるか?」

「なに、マジか? うわっ、本当にヤバいぞ。先生、みんなすぐに防御魔法を!」

教師一団が、一斉に防御魔法を発動した。

「生徒のみなさん、すぐに私たちの後ろに。あの生徒、トロイの魔力は危険です。」


爆裂弾ファイアー・ボム、+5 !」


強烈なエネルギーの弾丸が、準備されていた標的に弾き出された。

そこにいる人間全員が、息を呑んだ。

魔法は標的に着弾、大爆発 ·········· は起きなかった。


「なんだったんだ、今のは。不発か?」

「先生、魔法に不発ってあるんですか?」

「魔法の発動の仕方は千差万別だ。人によっては効果が安定せず、毎回威力が異なる奴もいる。だが、効果ゼロとは、あまり聞かない個性だ。」

「まったく、驚かせおって。」

「トロイツカヤ。魔力は強力なのに、残念な生徒だな。」

教師たちは、次々と防御魔法を解除していった。


「先生、まだ防御魔法を解除しないでください!」

「では、改めて次の5人いくぞ。ナスターシャから ········ えっ、今なんて?」


そこで、突如発生した大爆発。

防御結界が自動展開する。

だが、爆発のエネルギーは結界を吹き飛ばした。

「うわーっ!!」



「ううっ。悪いのは先生たちの方ですよ。全力を出せ、なんて言うから ······」

「ということは、おまえはその後、魔法の実習は禁止になったという事か?」

「ううう、そうなってしまいました。せっかく私には強大な魔力があるというのに!」


まあ、同情できる点もあるが、こいつは実戦には使えないな。

危険すぎる。歩く爆弾じゃないか。

これからは魔法少女じゃなくて、爆弾娘と呼ぼう。


「もしかして、冒険者パーティーに入ったときも、同じ事が起きたんじゃないのか?」

「起きませんよ。私も学習しました。戦闘では爆裂弾ファイアー・ボム+5 なんて強力なものは使わず、-2や-3くらいにしてましたよ。ところが、なぜか戦闘が終わった後に、謎の爆発事故が起こるように ············ 」


おいそれ、明らかにおまえのせいだろう、爆弾娘!


「おまえの周囲で事故が多発する、と言われて私は疫病神扱い。ついにはお払い箱になってしまいました。私はこの仕打ちが許せません!」


うん。こいつは魔法使いをやめて、別の道を考えた方がいいんじゃないのか?

それが世界の平和のためだぞ。



 「で、リュージ。こいつをどうするもりなんだ? 魔力を認めて、仲間にするのか?」

「いや、こいつを実戦に使うには危険だろう。別の使い方を考えた方がいいだろうな。」

「なんか適所適材の仕事でもあるのか?」

「そうだな ········ 」


歩く爆弾娘か。

そうだ。実戦では使えなくても、ダンジョン攻略後なら使えるぞ。

こいつ、言ってみれば歩くダイナマイトだからな。

鉱山の発破係としてなら、最適じゃないか。

よし、ソレナリノ鉱山が再開したら、こいつを頭目に高く売りつけてやろう。



 「よし、わかった。爆弾娘、俺たちの仲間になるか?」

娘は、上気した表情を見せると、頭をすりつけた。

「ありがとうございます、魔王様。きっと私は魔王様の力になってみせます。」

「で、おまえの名前はトロイだったっけ?」

「いえ、私の名前はトロイツカヤです。トロイじゃありません。」

「略してトロイでいいじゃないか。」

「いいえ、ダメです。私は決してトロくはありません!」


いや、名が体を現して、いいと思うんだが。



 村の方から、みんなが走ってきた。ティグが先頭だ。

「リュージ、なんだ、今の爆発は? げっ、すごいクレーターが出来てるじゃないか。リュージ、極大魔法の試し撃ちでもしたか? それとも生ゴミの山への八つ当たりか?」

「いや、この娘の魔法だ。この娘も俺たちの仲間にする事にした。紹介する。王都から来た魔法使い、トロイ ·········· なんだっけ?」

「いい加減、覚えてください。トロイじゃありません。トロイツカヤです。 みなさん、私はトロイツカヤ・マクベーストと申します。よろしくお願いいたします。」


うちの魔法使い、通称小言係(本人は嫌がっている)氏が、驚いた表情を見せた。

「この人、すごい魔力の持ち主ですね。私よりもはるかに強大だ。これでは、もう私の出番など ·········· 」

「いや、大丈夫だ。こいつ、確かに魔力は大きいんだが、いろいろと問題があって ········ 」

「わあっ、ダメです。黙っててください! 私は疫病神なんかじゃありません!」

「疫病神?」

爆弾娘は、自分の口を押さえた。


「なに、大丈夫だ。今、ドラゴン退治の作戦立案も、最後の詰めに入っているはずだ。きっとTFが、この娘も戦力として使ってくれるさ。」

「ティーエフって誰なんですか?」

「ああ。異世界にいる俺の友人だ。魔王軍の軍師役、とでも言ったらいいのかな。」


そして、その本性は、極悪非道の悪魔だ。


「わかりました。では、みんなでドラゴンを倒しましょう。私も協力します。そして魔王様、ドラゴンを倒したら、次は王都に侵攻ですね。」


いや、そんな予定はないんだが。



 後世、【竜よりも怖い魔女】と恐れられた、伝説の魔法使いがいる。

(ただし、味方からも。)

その名は、「竜殺しトロイ」。

ここに爆誕である。












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