第34話  それでは冒険を始めるぞ! 大丈夫。俺の仲間は最強(のはず)だ! (その1)

 俺は、フツーノ村の正門にハイエースを停めた。


この車は俺のじいちゃん、翔旭司夢幻斎が弟子たちを引き連れてやってたマジックショー、その移動用に使っていたやつだ。

この車の両脇には、じいちゃんの顔写真が大きくラッピングしてあって、さらに「世界最高のマジックショーを貴方に。翔旭司一座」と大書してある。


じいちゃん、目立ちたがりだったからなあ。


でも、俺にとってはこの車、嫌な思い出しかない。

何せじいちゃん、家族旅行にもこの車を引っ張り出してきたからな。

すごく恥ずかしかった。

おかげで、俺はカーテンをぴったり閉めきる破目になった。


外が何も見えなきゃ、観光とは言えないぞ!




 この車を見て驚いたのが、勇者ヨシヒロだった。


「リュージ、おまえ、翔旭司夢幻斎の孫だったのか! 知らなかった。びっくりだ。」


「実はそうなんだ。だから知ってると思うけど、俺の親父は魔王ヴァルダムだ。」


「そうか、血は争えないな。おまえの魔王体質は親譲りなんだな。」


いや、そういう訳じゃないんだが ········ 。




 天才美少女(自称)も口を開いた。


「リュージ、またすごい魔道具を出してきたな。巨大な魔動馬車か。わかってはいたが、おまえの深淵魔法は凄いな。で、リュージに質問だ。馬車の横に大きく書いてある絵は、誰の顔なんだ?」


「ああ、これか。俺のじいちゃんだ。」


「なんと! やはりそうか。これだけ大きく描いてあるから、偉大な魔王だろうとは思っていたが、思ったとうり先々代の魔王だったんだな。

それにしてもこの絵、素晴らしい出来栄えだな。王都の高名な絵師でもここまでは描けぬぞ。いや、よく見るとこれは絵ではないな。まるで魂を写しとったような。········ はっ、そうか。これは魂を転写して魔動車に封じ込める、究極の魔法だな。

これは凄い。先々代魔王は今だに死なず、子孫のために魔力をふるい続けているのだな。」


「いや、そういう訳では ········ 」


「さてはこの魔動車、先々代魔王の魔力で無限に動けるとみた。」


「いや、燃料が尽きたら止まるぞ。」


「そうか。さすがに無限という訳ではないんだな。で、車の先頭から魔王ビームとか出ないのか?」


「出るかっ!!」




 なんで俺がハイエースを引っ張り出したかというと、TFの要望があったからだ。


「隆司、俺たちはドラゴンのいるダンジョン、旧ソレナリノ鉱山の地理には精通している。頭目たちに協力してもらったからな。

もうすぐ鉱山の3D立体マップが完成する見込みだ。

でも、肝心なドラゴンの情報が何もつかめていない。赤い、巨大なドラゴンだった、という目撃情報があるだけだ。

隆司、ドラゴンの情報を集めてくれないか。敵情視察だ。何せ敵は巨大ドラゴン、半端な人間を送り込めば、全滅が予想される。

ここは戦力を惜しまず、全力のパーティーを組むべきだろう。

間違いなく強行偵察になるはずだ。」


「そうだな。確かに敵の情報は重要だ。敵を知り、己を知らねば戦えないからな。」




 俺は、自分の戦力を思い浮かべた。


魔王軍最強パーティーを組むとしたら ········。


剣の腕がたち、魔法も使える天才美少女騎士(自称)。

剛腕、怪力無双の大男、頭目。

おそらくは王国最強の戦士、勇者ヨシヒロ。

道を踏み外したけど、王国も認める優秀な魔法使いだった、小言係氏。(名前は何だっけ?)

強大な魔力で、敵とそれ以外を爆砕する爆弾娘、トロイ。


········ 一抹の不安もよぎるが、こんな面子メンツか。

どこに出しても恥ずかしくない、魔王軍精鋭であるはずだ。


このメンバーでダンジョンの奥深くに潜入してドラゴンを観察、多少のちょっかいを出して様子を探れ、という事だな。





「わかった、すぐに準備に取り掛かろう。親父のキャンプ用具が役に立ちそうだ。俺は馬なんか乗れないから、車を出そう。じいちゃんのハイエースかな。」


「そうだな、それぐらいでいいだろう。それと念のためだ、猟銃も準備しておけ。もちろん実弾もだ。さすがにドラゴンは倒せないだろうが、それ以外のモンスターには絶大な威力があるはずだ。」


「確かにそうだな、念のためだ。でも、みんなには何と説明しようか。

猟銃のこと、正直には言えないぞ。」


「そうだな。死の魔法を発動させる究極魔道具、魔王杖リョージューとでも言っておけ。魔王の深淵魔法でしか発動しない、とか言っておけばいいだろう。」


「なるほど、わかった。準備しておこう。」





「よし、ではフツーノ村、ダンジョン探索隊、準備はいいか? 出発するぞ。」


車内には頭目以外の全員が揃っている。

頭目はトナーリ村の配下と現地にいて、そこで合流する手筈になっている。


「トロイ、おまえは空を飛べるだろう。先に行って、現地で待っていてもいいんだぞ。」


「いえ、やめておきます。ここで無駄に魔力を消耗する気はありません。

私の魔力は、敵に爆裂弾ファイアー・ボムを撃ち込むためにあるんです。

それに、私が先に着いたらモンスターが吹き飛んで全滅しているかもしれません。

そしたら、いきなりドラゴンと最終決戦になるじゃないですか。」


いや、申し訳ないが、そうなるとは思えないな。

この爆弾娘、飛んでいったらそのまま行方不明になる未来しか見えないぞ。




 「よし、では出発!」


「おお、この魔動馬車、静かなのに凄い加速ですね。」

そうか、小言係氏、車に乗るのはこれが初めてだったな。


「速いじゃないですか。私が空を飛ぶのと変わらないスピードです。」


トロイの言葉で、はっと我に返った。

ここは現世の舗装道路じゃない。途中に何があるか、わからない。

俺は、ハイエースのスピードを緩めた。


ヨシヒロならこの辺りの地理に詳しいだろう。俺はヨシヒロに訊いた。


「ヨシヒロ、到着までどれくらいかかると思う?」


「鉱山には行った事がないが、トナーリ村にはこのスピードでも一時間くらいかな。鉱山はそこからそんなに離れていない、と聞いてるぞ。」


「わかった。」


いよいよ俺、魔王リュージのパーティー、冒険開始だ。



















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