第35話  それでは冒険を始めるぞ! 大丈夫、俺の仲間は最強(のはず)だ!(その2)

 俺の運転するハイエースは、フツーノ村を出発してから順調に走っていた。

今日は天気もいいし、現地に着いたら一休みするか。


ダンジョンに入って、敵モンスターと実戦か。

ゲームではやったことがあるけど、実際にやるとなると緊張するな。

でも、このメンバーだったら大丈夫だろう。(たぶん)




 もうそろそろトナーリ村か、と思っていると街道の先に、何かがいる。

何だ? と思ってスピードを緩めると、騎馬の一団だ。

数はそれほど多くない。5~6騎くらいか。


あちらも俺たちに気付いたらしく、馬を降りて、こちら側に身構えた。

驚いた表情が見てとれる。

俺は、ハイエースを停めた。あいつら、何者だ?


よく見ると、甲冑姿の男が2人。戦士か?

杖を持った魔法使いと、神官服を着た男。

背が低い男はドワーフか?

これは一目でわかる。典型的な冒険者パーティーだ。


もしかして、こいつらもダンジョン攻略を狙う同業者(?)なのか?

こちらを警戒しているようだ。


まあ、当然か。ハイエースなんて、見た事ないだろう。

まずい。このままでは同業者間(?)での戦闘になるぞ!




 俺は、ハイエースのドアを開けて、外に飛び出した。

ここは平和主義者の俺が、交渉に乗り出すところだ。


ハイエースのスライドドアが開くと、トロイか飛び出してきた。

俺のところに走りよると、敵(?)を指差した。


「魔王様、こんな下っ端の奴ら、全員吹き飛ばしてもいいですか? いいですか?

私の爆裂弾なら、簡単です。すぐに片付きますよ。」


こいつ、どうしてこんなに好戦的なんだ?

よほど冒険者に恨みがあるのか? いや、違うな。

ただ、単に爆裂弾を撃ちたいだけだ。


「いや、やめておこう。ここで全員吹き飛ばしたら、後々面倒な事に ········ 」

俺の脳裏に「WANTED!」と書かれた自分の顔写真が浮かんだ。


「そうですね。道路に大穴を開けたら、修復が大変ですもんね。」


いや、そういう意味じゃないんだが ········ 。




 ん、なんか敵がざわついてるぞ。魔法使いが何かを言ってる。

もしかして、トロイの強大な魔力に気付いた?




 次に降りてきたのは、我らが天才美少女騎士様。

敵を一瞥いちべつすると、つかつかと前に歩みでた。

おい、何をする気だ?


「ええい、静まれい! 静まれい!」


? ········ 何だか悪い予感がするんだが。


「皆の者、控えおろう。この方をどなたと心得る! フツーノ村に降臨あそばされた、天下の大魔王、リュージ様なるぞ。皆の者、頭が高い!」


········· 俺は、頭を抱えた。

あいつ、どこでそんなセリフを覚えた?

確かに、黒川邸(魔王城)でテレビを見てはいたが。




 目の前に魔王がいる、と聞いたからだろう。

さらに冒険者たちがざわついてる。


後ろのハイエースから、勇者ヨシヒロと小言係氏も降りてきた。


この2人を見て、冒険者たちの話し合いに結論がでたようだった。

不意に冒険者たち全員が地面に膝を着くと、頭を地につけて平伏した。


「は、はーっ!」


おい、おまえらは悪代官か!




 先頭で平伏していた、戦士とおぼしき男が言上をはじめた。


「魔王様、何か私らの悪行が露見したのでございましょうか?」


天才美少女様が、両腕を組み、ふんぞり返っている。

助さん、格さんはこんなに偉そうにはしてないんだが。


「いや、悪事は知らんが、おまえら、魔王様御一行の行く手を遮っていただろうが。おまえら庶民は、魔王様の行列が通ると、道路の両脇で平伏して見送らんといかんのだぞ。知らなかったのか?」


俺は、こういう事もあるか、と準備しておいたハリセンで、ティグの後頭部をはたいた。


「痛い! 何をするのだ、リュージ。」




「リュージ? 魔王リュージなのか? この世話係みたいなのが ········ 」


冒険者たちが、またざわつきだした。

悪かったな。こちとら、平凡な大学生なんだよ。

でも、実態としては正しいぞ。


俺は、気を取り直して前に出た。

「すまなかった。仲間が勝手なことばかり言ったな。」


「いえ、ではあなたが噂にきく魔王リュージなのですか?」


「ああ、俺が黒川隆司だ。」


「そうなんですね。それなら合点がいく。街道を四角い家が走って来ましたからね。どんな怪異現象かと思いましたよ。」


言われてみれば、この世界にはこんな大型の馬車は存在しないだろう。

確かに、走る四角い家に見えるだろうな。


「魔王様、これが噂に聞く魔族の一員、妖怪ネコバスなんですね。」


俺はのけ反った。

········ 確かに似てない事もないが、間違えたりはしないだろう。

第一、ネコバスはタイヤじゃないぞ。


そこで俺ははっと気付いた。

どうしてこの世界にジブリの情報が流れている?

かなり歪んではいるけど、誰が流したんだ?


この世界の転生者の先輩というと、勇者ヨシヒロ ········ 、いや、こいつはアニメなんかには一切興味は無いだろう。

では、他に先達がいるのか?

········ まあ、今悩んでも仕方がない。

もしかしたらそのうち会えるかもしれないな。


                                                                          


「君たち、迷惑をかけてすまなかった。我々は旧ソレナリノ鉱山に向かっている。君たちはどこへ?」


「俺たちも同じです。今度出来た新しいダンジョン、まだ名前も付いてませんが、そこを攻略 ········ いや、攻略とはおこがましいですね。まずは探索です。

冒険者パーティーの収入は、アイテムだけじゃない。情報も高く売れます。

だから、俺たちが真っ先に向かってるんです。」


「そうなんだ、わかった。では、ダンジョンでまた会えるかもしれないな。

その時はよろしく。」


「ありがとうございます。でも魔王様御一行がなぜ、ダンジョン攻略なんかに乗り出すんですか? どちらかというと、ドラゴンは魔王様の配下筋だと思うんですが。」


「実はある筋から頼まれて、だな。こう見えても、俺も苦労してるんだぞ。

配下を路頭に迷わす訳にもいかないからな。魔王ってこんなに苦労するとは思わなかったな。」


万感の思いがこもった一言だったが、相手には伝わらなかったようだ。


「········ よくわかりませんが、頑張ってください。」


「それでは、お詫びにこれを受け取ってくれ。」


「何ですか、これは。白いふわふわした物が、透明な袋みたいな物の中に入ってますね。」


「これはポケット・ティッシュといって、日本では無料で配るアイテムの定番だ。たいした物じゃないが、有効に使ってくれ。」




冒険者たちは、受け取ったティッシュをひっくり返したり、太陽にかざしたりしている。

正体不明の謎アイテムだと映っているらしい。


戦士が、はっと我に返ってあいさつした。


「わかりました。またダンジョンで再会したらよろしく。」































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