第9話 敵は山賊、山賊版! 俺はやぐらで高みの見物。(その2)

 城の虎口、内側の門は坂道になっている。

その坂道の上に騎馬が一騎。

フツーノ村の守備隊司令官だ。自称は天才美少女騎士。

「皆の者、時間がない。このまま戦闘訓練に入る。

弓隊、土塁の後ろに伏せろ!」


150人の若者たちが、弓を手に一斉に土塁の裏に伏せた。


「盾隊、弓隊の両脇に入れ!」


150人の年寄り、御婦人が盾を構えて、若者の両脇につく。


「よし、皆の者、構え!」

剣が振り上げられた。


盾隊が一斉に土塁の上に駆け上がり、盾をずらりと並べた。

そして弓隊が盾の隙間から矢を発射する態勢をとる。

 

「よかろう。本番ではここから射て、の号令で一斉射撃だ。」


剣が降ろされた。

「よし、みんな土塁の後ろで待機。敵はもうすぐ来るぞ。」




「リュージ、これで良いか?」

「ああ、本当に間に合って良かった。」

「独立騎馬隊は大丈夫か?」

「ああ、中で準備が完了しているはずだ。」

「ところでリュージ、おまえは戦争本番では何をする予定なんだ?」

「俺は物見櫓に上がって全体を見てる。もし敵が城に入ってこないようなら、合図をするから、すぐに総撤退だ。」

「わかった。」

「そして、もし敵が逃げ出しそうになったら、ユンボを使って ········ 」

「そうか、リュージがトドメを刺してくれるのか。これは勝ったも同然だな。」


こいつ、また何か勘違いをしてないか?

良からぬ想像をしてなければいいが ········ 。



 「司令官、外に砂煙が見えると報告が入りました!」

「なに? そうか、来たか。よし。みんな、敵襲だ! 持ち場につけ!」

非常事態を意味する鐘が鳴りだした。

村の動きが慌ただしくなった。



 俺は物見櫓に登った。

遠くから砂煙が近付いてくる。

おそらくトナーリ村の全兵力だな。

これだけ集まると、壮観で迫力がある。

力を見せつけて、屈服を迫るつもりなんだろうな。


 一直線にこちらに向かってくるかと思ったが、速度がゆっくりになった。

きっと突然現れたこの城を警戒しているんだろう。

双眼鏡で覗いてみると、先頭に大男がいる。

敵頭目、ムスゴリテだったかな?

周りの配下と何やら話し込んでいる様子だ。

このまま攻め込むべきか、意見が割れているのだろうか?

このまま撤退してくれたらベストなんだが。


 でも、残念ながらトナーリ村の奴らはそのまま前進、城の入り口近くまで来ると、そこで停止した。

男が一人、前に出てくる。

そして叫んだ。

「フツーノ村、村長はいるか! 金貨1000枚、準備できたか! それとも一戦交えるか! 返答はいかに!」


その声に応えて、城の門から騎馬隊が出撃した。

少女だけの部隊、独立騎馬隊だ。

だが、いつものような活発さ、躍動感は感じられず、おずおず、もじもじと出てくる。

全員、顔が真っ赤だ。

こんな声が聞こえてきた。

「姉様、恥ずかしいです。」

「姉様、私はもう嫁には行けません。」

「うるさい、黙れ! 私だって恥ずかしいわ!」


少女たちは、戦場にあるまじき格好をしていた。

下着だけで、服は着ていない。

そこに直接革製のヨロイを着けて出てきたのだ。

胸のラインがわかるし、太腿もあらわだ。

俺から見ると単なるコスプレイヤーで、何とも思わないが、この世界の男達には刺激が強かろう。

きっと裸にエプロン状態に見えるんじゃないか?


トナーリ村の荒くれ者から、ゴクリとツバを飲み込む音が聞こえた気がする。

なにか異様な興奮状態のオーラを感じる。

聞こえる笑い声がだらしない。

独立騎馬隊の乙女は、気配を感じたのか、少しずつ後退していく。

「お頭、フツーノ村の女は美人揃いだという噂は本当だったんですね。」

「お頭、この戦争に勝ったら、あの白馬の茶髪の女を妻にしてもいいですか?     いや、隣の黒髪の方にするか?」

遠くからそんな声が聞こえる。


フツーノ村の女が美人揃いだという噂は、本当に流れているらしい。

これも独立騎馬隊のせいなんだそうだ。

普通、農村の娘は家事が中心で、農業の手伝い以外はあまり外では見ないものだ。

でも突撃娘率いる独立騎馬隊は、村の外を駆け回っている。

カッコいいし、目立つ。当然美人度も5割増しだ。

なるほど、さもありなんと思った。

でも、我が天才美少女騎士様の意見は違うんだろうな。

きっと約一名の騎士が、村の全女性の美人度を大幅に底上げしているせいだ、とか言うんだろうな。

おっと、脱線した。


 トナーリ村の荒くれ者たちは、一歩前進した。

そしてもう一歩、もう一歩と距離を縮めていく。

俺は突撃娘に、敵に矢を一斉射したら、すぐに城内に撤退しろと命じていた。

でもそんな必要はなかった。

迫ってくる荒くれ者に恐怖を感じた乙女たちは、次々と矢を乱射、そのまま城内に退避し始めた。


この矢の乱射は、敵の戦意(スケベ心?)を逆に上げることになった。

「このあま! ひねり潰してやる!」

と、にやけながら走り出す様は、男の俺から見ても気色悪い。

乙女たちは次第に全面退避となり、荒くれ男達は城入り口への突撃に変わった。

連中の先頭にいたはずの頭目は、いつに間にか中に取り残されている。

この状態に慌てたのか、頭目の大音声が響いた。

「こらっ、おまえら、止まれ! 止まるんだ! 中には敵が待ち構えてるぞ。止まるんだ!」

連中にこの声は届いていないのか、ますます速度が加速する。

げに、男のスケベ心は恐ろしい。

もう一度頭目の声が響いた。

「ちっ! しかたねえ、見捨てる訳にもいかん。皆の者、敵城門に突撃だ! 遅れをとるな!」

「おうっ!」

荒くれ者たちは、一斉に抜剣すると、城門に向けて突撃を開始した。


俺は安堵のため息をついた。

助かった。作った城が、無駄にならずにすんだ。

乙女の太腿、恐るべし!


「ムンギルト、おまえの部隊は外に残れ。もしも敵の援軍が現れたら、すぐに俺に知らせるんだ。そんな事はないとは思うがな。」

「承知!」

「者共、気を抜くな! 中で敵が待ち構えているぞ!」

「おうっ!」


 荒くれ者たちが、外門を抜けて次々と虎口に入ってくる。

中が無人で、易々と入れたので、拍子抜けした様子だ。

独立騎馬隊は外門から右奥にある、内門の坂を駆け上がって退避していく。

続々と入ってくる荒くれ者に混じって、敵頭目も入ってきた。

みなキョロキョロと、周りを見回している。

誰もいなくて、ティグが一人だけ坂の上にいるので、不審に思っているようだ。

子分らしき者の声がする。

「お頭、誰もいませんねえ。逃げたんでしょうか? だったらあの女将軍、よっぽど人望がない奴ですね。」

「まだわからんぞ。どこかに隠れているかもしれん。者共、迂闊うかつに進むな!」

荒くれ者たちは、虎口の中央付近で動きを止めた。


 一方、乙女たちを追っていたニヤケ顔の一団は、後を追って内門の坂を上がろうとした。

そして坂の上から見下ろしている、一騎の女騎士に気付いた。

そう、我らが天才美少女騎士様だ。

その神々こうごうしい超絶の美貌に、男どもは目を奪われ、武器を捨てて絶対の服従を誓うのだった。

あいつの脳内では、きっとこんな光景が展開しているんだろうな。

俺も、だんだんあいつのパターンを理解できるようになってきた。

おっと、連中の声が聞こえるな。

「ああっ! 色っぽい姉ちゃんたちに逃げられる! おい、そこの色っぽくない女、そこをどけ! 邪魔だ!」


カチーン!! 

何かすごい音がした気がする。

でもまあ、男としてはわかる。

ティグは、フルプレートメイルを着けているから、肌の露出はゼロ。

色っぽくは、ない。


ティグの両手が、ぷるぷると震えているように見える。

何かが吹き上がっているように見えるのは、俺の錯覚か?

美少女騎士様は右手を剣に伸ばすと、ゆっくり引き抜いた。

そして目をくわっと見開くと、叫んだ。


「皆の者、構え!」


剣が振り上げられる。

その声と同時に、広場の土塁の上に木の盾がずらりと並んだ。


「な、な、な ········ 」

ニヤケた顔の一団は、笑いが引きつった。

荒くれ者全員が、うろたえて右往左往している。


「射て!」


怒りの剣が振り降ろされた。

怒りの方向を間違っている気もするが、気にしないでおこう。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る