第10話 敵は山賊、山賊版! 俺はやぐらで高みの見物。(その3)

 広場の正面、左右、三面にずらりと並んだ木の盾。

その板の隙間から、一斉に矢が飛び出した。

荒くれ男たちは、驚き、慌てながらも必死に矢を払った。

でも、矢は四方八方から飛んでくる。

次々と倒される男たち。

「しまった、謀られた! 敵の罠か!」

「お頭、どうしましょう!」

悲鳴のような声。

「者共、弓だ。弓を取れ! まずは敵の盾を倒せ! 盾さえ倒れればこちらが数で有利、我々の勝ちだ。急げ!」

それを聞いた荒くれ男たちは、弓を取り出して射返しはじめた。

土塁の上と下で飛び交う矢の応酬。


「お頭、盾が倒れません!」

「なに、どういう事だ?」

頭目も矢をつがえると、土塁の上に射放した。

体に合わせた剛弓の矢だ。

矢は盾に命中、盾が揺れた。

でも盾は倒れない。

「お頭、盾の後ろに誰かいるみたいです。」

「そういうことか! こしゃくな奴らめ。」


俺は盾を支えてくれている年寄り、御婦人に手を合わせた。

これは彼らの方から、何か役に立ちたいと言ってきてくれたからだ。

流れ矢もある。最悪斬り込まれる可能性だってある。

ためらっている俺に、伏し拝むように、これは老い先短い私たちの仕事です。

是非やらせてください、と言ってきてくれた。

彼らがいなければ危なかった。

おれは自然に頭が下がった。


「お頭、どうしましょう? このままでは全滅です。」

「こうなれば仕方がない、者共、馬を捨てよ!」

「えっ、馬を捨てるんですか?」

「大丈夫だ、心配するな。戦争に勝ったら。また準備してやる。」

「お頭、ありがとうございます。」

「よし、者共、壁に取り付け! 土塁を登るぞ。弓は真下には射てん。登るのは広場奥の中央、あそこだ。あそこが左右の壁から最も遠い、矢が届かん場所だ。そこに取り付け!」

「おうっ!」


荒くれ男たちの戦意が一気に復活したようだ。

連中は馬を捨てると、一斉に内側の壁の中央に動いた。

もちろん矢が集中する。

だが、連中は矢を振り払いながら殺到、壁を上り始めた。


頼む、敵を防いでくれ! 俺は神に祈った。

待て、神は魔王の願いをきいてくれるのか?

もしかしてNG? 

いや、今はそれどころじゃない。

ティグ、今だ。第2段階だぞ! 急ぐんだ。


「外壁部隊、構え!」

ティグが剣を振り上げた。

今まで誰もいなかった、虎口外側の土塁の上に、盾がずらりと並んだ。

「射て!」


壁を登りかけていた荒くれ者たちに、矢が集中する。

次々と射落とされていく男たち。

「お頭、ダメです。登れそうにありません。」

「この後ろの弓隊はなんだ? こいつら、どこから湧いて出た!」



「それとリュージ、城入り口の部分。どうしてここの土塁は二重になってるんだ? 意味ないだろう。」

「実は大ありなんだ。これが重要なんだ。実はな、外側の土塁は中を見えなくするためのものなんだ。」

ティグが何か閃いた様子。勘は鋭いようだ。

「そうか、ここにも弓隊を伏せるんだな。」

「そのとうり。敵は後ろからも矢が襲いかかる。」

「まさに敵は袋叩き状態だな。」

「でもティグ、この外壁側の弓隊は、最初は伏せたままで隠しておけ。」

「なぜだ?」

「最初から全力で攻撃すれば、敵は追い込まれて、窮鼠と化す。損害覚悟で、全力で脱出するか、突撃するかの二択を強いられる。そしておそらくは後者の可能性が高い。」

「そうか、力押しで勝ちにくるか。」

「そのとうりだ。だから、そうさせないために、あえて後ろからの攻撃を控えろ。無理に突撃しなくても勝てる、そう思わすんだ。」

「なるほど。でも、加減が難しいな。」

「そうだな。でも危うくなったら、即投入しろよ。切り札だからな。」

「わかった。それにしてもリュージ、なんと悪どい作戦なんだ。さすが魔王だな。」

「言葉は正確に使え。魔王の息子、隆司は策士だ、が正しいだろう。」

「そんな面倒くさい事が言えるか!」



「お頭、もうダメです。逃げましょう!」

「逃げる? 馬鹿野郎! 俺だけなら出来るかもしれんが、おまえたちを置いては逃げられん!」

手下は泣いているようだった。

「お頭、でもこのままでは全滅です。せめてお頭だけでも!」

頭目は周りを見回していた。

そして視点が固定した。

奥の入り口、ティグのところだ。

「よし、わかった。俺があの女将軍の首をる。これで逆転だ。」

「お頭、私もついて行きます。」

「馬鹿野郎! おまえは残れ。一人でも多く生き残るんだ。そして、もしもの時はおまえがトナーリ村をまとめるんだ。まあ、そんな事は万に一つもないがな。」

「お頭!」

荒くれ者全員が泣いているようだった。

あんな奴らでも、泣くんだな。

俺は少し見直した。


頭目は愛馬にムチを入れると、ティグのところに突進した。

集中する矢を打ち払って迫る。

これを見たティグは、右手を高く掲げて詠唱に入った。

魔法を使う気だ!

だが、予想以上に頭目の馬が速い。

騎馬の腕は相当なようだ。

間に合わない!

振りかぶった大剣が、斜めに振り下ろされた。




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