第11話 敵は山賊、山賊版! 俺はやぐらで高みの見物。(その4)

 「リュージ、コグチの内側の門は坂道になってるんだな。」

「ああ、これは穴を見えにくくするための坂だ。」

「穴? 何の穴だ?」

「もちろん落とし穴だ。」

「落とし穴! そんな卑怯な真似ができるか! そんなものがなくとも、私は         負けはせん!」

「卑怯? それでいいじゃないか。この戦争の目的はなんだ、ティグ。何のために戦うんだ?」

「それは ········ 村の将来を守るため ········ 」

「そのとうりだ。おまえの武人の誇りを守るためじゃない。」

「だが、それでは私が卑怯な司令官だと、後ろ指を指されることに ········ 」

「大丈夫だ。この穴、近付けば、はっきり見える。これに落ちたら、敵頭目の方が超間抜けだと笑い者になるさ。」


「お頭が消えた!」

「どうしたんだ? 敵の魔法攻撃か?」

「もうダメだ!」

城内から悲鳴が聞こえた。

よし、これで勝負あった。フツーノ村の勝利だ。

これ以上戦っても、死傷者が増えるだけで意味はない。

俺は物見櫓を降りた。

そして城の外に隠してある、ユンボのところに走った。

ユンボで城内に突入、パワーを見せつけて敵を降参させるんだ!


 俺はユンボを起動すると、城の外側の門に向けて動かしていった。

轟音が響き、地面が揺れる。

門の外側に、敵兵が数人いた。

ギョッとした表情でこちらを見ている。

「なんだ、あれは ········ 」

敵兵は、やって来る正体不明の移動体が敵襲なのか、判断に迷っているようだ。

やがて報告した方がいいと判断したのか、敵兵は城内に消えた。


俺は敵兵の後を追って、外門から城内に突入した。

異様な轟音に気付いた、中の荒くれ者たちも、こちらをギョッとした表情で見ている。

俺はユンボを停めると、アームを左右にブン、ブンと振った。

これに驚いて、敵兵は両手を上げるだろう。


 ところが、敵の反応は俺の予想を裏切った。

敵兵が集まってきて、こちらに襲いかかる態勢をとったのだ。

後から考えてみると、これは当たり前の反応だ。

敵兵は一方的に矢を射ち込まれ、反撃できない状況なのだ。

そこに俺という、戦える対象が現れた。

ここで初めて気付いたに違いない。こいつを倒して、脱出しよう、と。

窮鼠猫を噛んで、敵は向かってきたのだ。


俺は慌てた。

「くっ、くるなっ!」

確かにユンボのパワーはすごい。2、3人は吹き飛ばすだろう。

でも、5、6人に飛び掛かられては、どうしようもない。

俺は敵兵に襲われてジ・エンドだ。

「くっ、くるなーっ!!」

俺は泡くってアームをブン、ブン、ブンと振り回した。

ヤバいっ! こいつらは本気だ!

敵兵が剣を構えた。

俺は覚悟を決めた。



 そのとき、奥から天才美少女騎士様の声が響いた。

「皆の者、魔王リュージ殿の眷族、地竜、ユンボが応援に来てくれたぞ!  これで我々の大勝利は確定した。さあ、皆の者、勝ちどきだっ!」


「ウオーッ!」

「ウオーッ!」

みんなが一斉に声をあげた。


これを聞いた敵兵は、周囲を見回し、天を仰いだ。

そして剣を落とした。


「やったーっ! 助かった!」

俺は脂汗にまみれて、やっと一息ついた。

あいつも、やる時にはやるじゃないか。

見直したぞ。


 土塁の上から村人が降りてきて、敵兵を取り押さえ始めた。

俺はユンボから降りると、超絶美少女騎士様の元に向かった。

村人みんなの歓声が城を揺らしている。

俺はなんとか責任を果たせたようだ。


 ティグのところにつくと、人がいっぱい集まっていた。

超絶様は、みんなから声を掛けられて、忙しそうだった。

俺は中に割り込んで声を掛けた。

「ティグ、本当に助かった。ありがとう。」

俺は手を差し出した。

「えっ? 私が何か感謝されるような事をしたか?」

キョトンとした顔。

「ああ、最後に勝ちどきを上げてくれたじゃないか。あれがなければ、いまごろ俺は ········ 」

「なんでだ? あたりまえじゃないか。地竜ユンボが来たんだぞ。地竜だからブレスが撃てるし、魔法も使えるはずだ。おまけにユンボは鉄竜、敵が襲ってきても傷一つつかん。負ける要素が一つもないではないか。」


 俺は頭を抱えて、しゃがみ込んだ。

そうだ、こいつのド天然は、記念物級だった!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る