第12話 戦争は終わった後が大変です。俺は東奔西走!(その1)

 俺は虎口から奥、村の方向に向かった。

村長宅の煙突から、煙が上がり始めた。

きっと残った女たちが、炊き出しの準備を始めたんだろう。


 村の入り口では、今回大殊勲だった独立騎馬隊の乙女たちが、突撃娘に詰めよっていた。

「姉様がどうしてもこの格好で、というから、仕方なく出たのに、何の意味もなかったじゃないですか。村を救う最重要任務じゃなかったんですか!」


いや、間違いなく最重要任務だったんだが ········ 。


「みんな聴け。私は異世界のヘイハチロー将軍になれると、魔王に太鼓判を押されたんだ。ヘイハチロー将軍は、戦争で一度も傷を負わなかったという、無敵の英雄だ。そして、こうも言ってくれた。独立騎馬隊も、ヘイハチロー将軍の無敵の軍団、アカゾナエになれるとな。アカゾナエは圧倒的な強さ故に、敵に戦いを避けられたという。わかるか? 我々は服を着なくても大丈夫な、無敵の軍団になるんだ!」


俺は頭の中で、ペロッと舌を出した。


「姉様、なんかだまされていませんか? それでも服は着た方がいいと思いますが。」

「風邪をひきますよ。」

「いや、我々は戦場の華となって、みんなから讃えられるんだ。これはティグにも出来ない。独立騎馬隊は、華麗な戦場の悪魔として、世界に名を轟かすんだ!」

「いや、教官も恥ずかしいから、出来ないだけだと思いますが。」

「黙れ! 私はヘイハチロー将軍になる。この格好は、そのことを示す、気概なのだ!」

「姉様、処置無しですね。」

「そうだな、これは重症だ。」


俺は頭をかいた。

これは薬が効きすぎたか?



 後ろから歩いてきたティグが、俺に声を掛けてきた。

「リュージ、一緒に祝杯をあげないか? 敵は全滅、味方の損害は軽微、まさに大勝利。おぬしの力だ。礼が必要だろう。」

「そうだな。」


 すると、村の方から一人の男がカバンを持って走ってきた。

後ろから数人の男女も走ってくる。

「ティグ、あれは誰だ? なんで走ってる?」

「ああ、先に走ってきたのは、医者のワキトス先生。次に走ってきたのはヒールを使う魔法使いたちだ。」

「そうか、重傷者がたくさん出たんだろうな。」


次に、馬に引かれた荷車が出てきた。

荷台には何か液体が入ったビンが、たくさん積まれている。

「あれは?」

「あれはヒール・ポーションだな。こういう時に備えて、村に備蓄してあるんだ。まあ、フツーノ村は貧乏なんで、安物の梅ポーションばかりだがな。」


そうか、この世界には飲むと傷がなおる、魔法の薬があるんだ。

ある意味、こちらの世界の方が医療技術が進んでいるかもしれないな。

でも、梅ポーションとは?

ああそうか、松竹梅の梅か。

この世界にも医療格差があるんだな。


「ティグ、あの梅ポーションってどれくらいの効果があるんだ?」

「軽症の傷なら全快だな。でも、重症だと厳しくなる。梅ポーションばかり何本もは飲めないから、どうしても竹以上が必要になるな。」

「それじゃあ全員を助けるには、数が足らないんじゃないか?」

「いや、十分だと思うぞ。軽傷者は多いが、重傷者はそれほどおらん。」

「何を言ってる。息も絶えだえの連中が、いっぱいいるじゃないか。」

「なに? あれは敵兵だぞ。敵兵を助けるというのか?」

「あたりまえだ。もう戦争は終わったんだ。敵も味方もあるか!」

「しかし、リュージも見たとうり医者はワキトス先生一人、魔法使いも数人、ポーションも全員となると全く足らん。それでも敵兵に使うのか?」

「当然だ。助けられる命は全て助ける。」

「だが ········」

「まだ何か言う事があるのか?」

「リュージ、おまえの世界の事は知らんが、ここでは重傷者は治療してもみんな傷が腐って死んでしまうんだ。やっても、ほとんどが無駄になるぞ。」


俺は衝撃を受けた。

そうだ、ここの医療水準では、深い傷は致命傷だ。

雑菌が繁殖して症状が悪化、最期は敗血症で死んでいく。

どうすればいい?

これでも俺は医学部だぞ!


まずは止血、そして消毒と清潔な環境。

そうだ、まずは消毒だ。

「ティグ、村に酒はあるか?」

「もちろんあるぞ。フツーノ村は小麦の産地だからな。エール(ビールの元祖)があるぞ。」

「それではダメだ。もっと強い酒はないか?」

「あるにはある。実験的に作ってみたスピリッツだ。でも、そんなに多くはないぞ。」

「とにかく、あるだけ欲しい。頼む、すぐに取ってきてくれないか。」

「それが必要なんだな。」

「そうだ。それがあれば傷口は腐らない。」


嘘だ。効果はあるが、絶対ではない。


「わかった。すぐに取ってくる。」

ティグが村の方に走っていった。

抗生物質が欲しい。でも、黒川邸にそんなものはない。


 「おい、突撃娘。名前は何だっけ?」

「いい加減憶えろ! オフィーリアだ。」

「頼む。向こうのトナーリ村兵の治療を手伝ってくれないか。このとうりだ。」

「でも、これはあいつらの自業自得 ········」

「わかっている。でも、頼む。魔王リュージのお願いだ。」

「 ········ そこまで言うなら、仕方がない。おいみんな、ワキトス先生を手伝うぞ。」


 俺は乙女たちと一緒に、医者のワキトス先生のところに行った。

先生は俺が魔王だと聞いて、思いっきり引いていたが、俺の熱心さにやっと話をきいてくれた。

「先生、治療は重傷者を優先して行ってください。まずは止血、そして次にスピリッツで傷口を拭き取ってから、ああ、スピリッツはすぐにティグが持ってきます。それから包帯をお願いします。スピリッツは傷口が腐るのを防ぐ効果があります。そして、危険な患者から先にポーションやヒールを使ってください。」

「魔王、本当にそれで大丈夫なんですか? 重症者を全快させるには全然ポーションが足りませんが。」

「ええ。確かにこれでは時間稼ぎにしかなりません。でも、後は俺が何とかします。どうか、魔王リュージを信じてください。」


ティグが走って帰ってきた。

「リュージ、残念ながら、ポーション容器で3本しかなかったぞ。」

「ありがとう。とりあえずはそれを使う。」


やはりどうしてもポーションが必要だ。

どうする?





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