第8話 敵は山賊、山賊版! 俺はやぐらで高見の見物。(その1)
「よくやった、魔王リュージ。これで城の完成か?」
俺とティグは、ユンボで造成した土塁(土を盛り上げた壁)の上を歩いていた。
「ああ、一応はな。本当はこの土塁の上に柵を作りたかったんだが、今回は仕方がない、堀と土塁だけだ。」
「まあ、やむを得まい。でも、これだけの土木工事を一晩で仕上げたんだ。トナーリ村の奴ら、肝を冷やすぞ。」
「ああ、これで諦めて引いてくれたら一番なんだが。」
「それにしてもリュージ、この城の入り口は広場になってるんだな。変わっている。」
「ティグ、これは
「そうか、ここに弓隊を伏せておいて、一斉に射かけるのだな。」
さすがは元近衛騎士団、一応は軍事知識もあるようだ。
「それとリュージ、虎口の外側の部分。どうしてここの土塁は二重になってるんだ? 意味なさそうだが。」
「意味は大ありなんだ。ここは重要だぞ。実は ········ 」
「よくわかった、魔王。では私はどこで指揮をとればいい? 物見櫓がいいと思うが。」
「ティグには虎口の内側の門、そこの坂の上に、一騎で立って指揮をとってくれないか。」
「なに? 司令官一人で敵を迎え撃てというのか?」
「そのように、敵に見せるんだ。これを見た敵は、これは好機だと押し寄せるか、罠だとみて警戒するか。決断に迷うというならそれも良し。
いずれにせよ、敵の全軍が入ってくるまで時間を稼ぐ必要がある。」
「なるほど、確かに敵の一部が外に残っていれば危険だ。残念ながら、土塁はそれほど高くない。その気になれば、取り付いて越えられるだろうからな。」
「そのとうりだ。だから最悪の場合、ティグが一人で敵を防がないといけなくなる。大丈夫か?」
「任せろ。私を誰だと思っておる。剣の腕が立ち、魔法も使える天才美少女騎士だぞ。私が全員を相手にしてやるわ!」
「大言壮語もいいが、やるのはあくまでも時間稼ぎだ。決して無理するな。」
俺とティグは、土塁の上から虎口の中に降りた。
外門から外の方を見ながら、ティグが言った
「だが魔王、一つ大きな問題があるぞ。どうやって敵をここに引き込むか、だ。中で我々が待ち構えていると、容易に想像ができるはずだ。引き返そうとか、土塁を乗り越えようとか、考えないか?」
「確かにそのリスクはある。だが、大丈夫だろうと俺は思っている。
土塁を越えるためには、まず馬を捨てなくてはいけない。馬はあちらでいうと、高級車のようなものだ。まず、捨てたがらないだろう。」
「コーキューシャ? 何だ、それは。」
俺は無視して続けた。
「そして何よりも、敵はこちらを舐めきっている。おそらく城の正面から
「奴ら、そんな危ない橋を渡るか?」
「大丈夫だろう。連中は白兵戦には絶対の自信があるからな。」
「いや、リュージ。悪いがそうはならない可能性も高いぞ。」
「なに?」
「敵の頭目、ムスゴリテは見た目と違って、実は慎重で無理を避ける男だ。うちの突撃娘と違ってな。」
えっ、そうなのか!
敵が入って来なければ万事休すだ。
城の意味が無くなる。
どうする、魔王リュージ!
俺が考え込んだのを見て、ティグが意見を出してきた。
「独立騎馬隊を、敵の後ろに伏せたらどうだ?
あいつらでも敵の目を引き付ける事くらいは出来るぞ。」
「独立騎馬隊?」
「ああ、そうだった。まだ説明してなかったな。
独立騎馬隊は、あの突撃娘、オフィーリア・フツーノが村の娘たちに呼びかけて作った、守備隊とは別の部隊、まあ志願兵といったところだ。
オフィーリアは兄のディクベル ········ 今の村長代理だ。奴と違ってお転婆でな、なぜか私に対抗心を燃やしてるんだ。
そして私も村の役に立ちたい、村を守ると言ってきかない。女は非力だ、無理だと言ったんだが、女は軽くて騎馬では有利、弓を磨けば戦える、と娘たちに呼び掛けて作ったのが独立騎馬隊だ。
私も女だけの騎馬隊では敵陣を突破できない、使えないと思っていた。
でも、オフィーリアは必死に訓練して腕を上げた。それを見て、私は考えを改めた。
独立騎馬隊の機動力があれば、敵の後ろを衝いて、ヒットエンドランで混乱させられる。
進撃が遅れるだろうし、いづれは兵の一部を割いて対処せざるを得なくなる。今では独立騎馬隊は村の立派な戦力として誰もが認める存在になっている。」
「そうか、そういう部隊だったのか。」
「そういえば、そのオフィーリアが、我々も作戦に参加させろ、と食い下がっていたな。でも今回のリュージの作戦では騎馬隊の出番はない。
弓隊に入れようかとも思ったが、やはり女の非力な弓では効果が薄い。
今回は後方に控えて、万が一のときの村人の護衛を命じておいたが、奴は不満そうだったな。何か役に立てるなら、勇んでやってくれると思うぞ。」
独立騎馬隊か。これを使って、敵を城におびき寄せる方法は ········ 。
俺は、5秒考えて
「おいティグ、敵を城に引き込む方法を思いついた。これならどうだ?」
「なに、何か思いついたか?」
「ああ、こんな手はどうだ。」
「 ················ 。」
「おまえ、よくそんな下劣な作戦を思いつくな。さすが魔王だ。良識ある私にはとても思いつかん。
だが、おもしろい。おそらく引っ掛かるだろうな。あとはオフィーリアが首を縦に振るかどうか、だが。」
「まあ、それは何か良い手がないか、これから考えよう。」
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