第7話 村は大変。俺は土方仕事の作業員。(その4)

 すぐに別室が用意された。

集まったのはズタボロ村長代理、天才美少女、薬君、突撃娘、他に守備隊の要人、老人代表や婦人代表なども含めて15名ほどが集まった。


「それでは作戦を説明する。ティグ、戦力的にはこちらが不利と聞いているが、具体的な数字を教えてくれ。」

「わかった。トナーリ村の荒くれ者は、およそ300人くらいだ。それに対して、こちら側で戦力になる若者は150人ほど。戦力としては劣る年寄りを入れても、やっと200人を越えるくらいだろうな。」

「そうか。では特に白兵戦は避けるべき、という事だな。」

「ああ、そのとうりだ。」

「わかった。それでは白兵戦を避ける作戦でいく。」


薬君が手を上げた。

「リュージ殿、それでは何で戦うのです? 我がフツーノ村で魔法を使えるのは教官 ········· いや、司令官だけですよ。」

えっ、そうなのか?

一応村の人口が500人以上いるって話だったから、もっといるかと思っていた。

「何か不思議そうな顔をしているな、リュージ。魔法で戦う予定だったのか?」

「いや、そうじゃないが、もっと沢山いると思ってた。」

「わかった。それでは少し説明してやろう。魔法は生まれつき使える奴もいるが、それは少数派だ。大多数はある日、突然覚醒する。いや、この言い方は誤解を生むな。正確には魔法が使える事に気付く、だ。様々な経験をするうちに、ふと不思議な事が出来るのに気付くんだ。だから、魔法使いはいろんな刺激がある都会の方に多い。逆に毎日農作業をしている田舎では気付きにくい。それに、気付いたとしても、それが実戦で使えるかは別問題だ。実戦では大きなストレスとプレッシャーが掛かる。敵兵が目の前に迫る中、的確な呪文を唱えるのは簡単じゃない。つまり、場数を踏む事が重要なんだ。田舎ではこれが難しい。これが村に魔法使いが少ない理由だ。」

「ああ、わかった。では最前線ではなく、後方でヒールなどを使う魔法使いならばいるんだな。」

「ああ、それなら数人いるな。」


 薬君がもう一度手を上げている。

「それではリュージ殿、魔法でなければ、何で戦うつもりですか?」

「これだ。」

俺は弓を引く動作をしてみせた。

「そうか、弓か。それなら私の得意分野だ。」

突撃娘がニヤリと笑った。

これが気に障ったのか、自称天才美少女が反論する。

「だがリュージ、弓は敵の突撃に対しては脆いぞ。一斉射して終わりではほとんど意味がない。」

「ああ、わかってる。だから城を作るんだ。」

「城を造る? そんな魔法は無いと自分で言ったではないか!」

「そのとうりだ、無い。だから土を掘って作る。」

「土を掘る? 一晩で作るなど、村全員で掛かっても無理だ。」

「わかってる。でもそこは魔王リュージを信じて欲しい。俺がなんとかする。」

「わかった。では私たちは何を準備すればいい?」

「弓の準備をして欲しい。弓は村に何張ある?」

「これでも一応戦争の準備をしていたからな。それなりにはあるぞ。50~60張くらいかな。」

「足りないな。150張準備してくれ。」

「150張! 村の若い者全員に持たせるつもりか?」

「そのとうりだ。うちに戦力の余裕はない。全兵力を弓隊にして敵にあたる。」

「 ········ 。」

「矢はどうだ? 何本くらいある?」

「一張に20本準備しているから、1200本くらいだな。」

「全然足らない。一張に50本、7500本準備しろ。」

「それは無理だ。一晩でそんなに作れるはずがない。」

「やるんだ。足りない分は他の村から買ってきてもいい。とにかく揃えないと、村が消滅するぞ。なにがなんでもやるんだ。」

「 ········ わかった。やってやる。」


 老人代表が手を上げた。

「魔王様、私たちにも何か出来ないでしょうか?」

「そうだな、盾を準備してくれないか?」

「盾? 騎士の方が左手に持っている、あれですか?」

ああ、そうか。

この世界にはそういう盾しかないのか。

今、気付いた。

「いや、そうではなく、矢を防ぐ盾だ。木製でいい。板を胸の高さくらいで切って、倒れないように足を付けて欲しい。これを150枚準備して欲しい。」

「わかりました。家の壁板を剥がしてでも必ず準備します。」


 「では、戦争開始は明日の昼だ。それまでには必ず準備して欲しい。それではお願いする。」


 全員が席を立つと、それぞれの持ち場に向かった。




 ティグが薬君を呼び止める声が聞こえた。

「ディノン、指揮をとってくれ。私はもう少しリュージと話したい事がある。」

「わかりました。終わったらすぐにこちらに帰って来てください。」

「ああ、わかった。」




 村人全員が準備にかかり、騒然とする中、俺は村長宅を出て外に向かった。

これから城の造成工事だ。

すると、ティグがついてくる。

「リュージ、先ほどあのような事を言うとは、驚いたぞ。」

「俺はおまえに、真っ先に飛び出して戦死するような、無能な司令官になって欲しくないだけだ、ティグ。」

「んーっ、どうした? 惚れたか?」


こいつ、頭をカチ割ってやろうか!

たしか、ダンプの荷台に大ハンマーが ········。

「でも、リュージが自分で魔王と名乗るとは、感心したぞ。」

しまった、俺はなんていう事を ········ 、自分で魔王と名乗ってしまった。

これは完全に黒歴史だ!


 俺が頭を抱えていると、ティグが表情を改めてきいてきた。

「でもリュージ、どうやって一人で城を作るつもりだ? 魔法では作れないと言っておったが?」

「大丈夫だ。俺にはユンボがある。」

「ユンボ? 何だそれは?」

「まあ、それは見てのお楽しみだ。」


 頭にいっぱいの ? マークを付けているティグを連れて、俺は村の門をくぐった。

そしてそこに置いてあった自転車にまたがった。

「リュージ、それは何だ?」

「これはママチャリだ。これに乗って、向こうの林に隠してあるダンプまで行くんだ。」

「ママチャリ? ダンプ? 何やらよくわからんが、そこに行くのか。それなら私も馬を用意する。少し待っていてくれないか?」

「馬? そこまでは必要ない。すぐそこだ。ママチャリは二人乗れるんだ。後ろに乗れよ。」

「こんなに小さいのに二人乗れるのか。すごいな。では私は後ろに乗るぞ。」


 ティグは後ろにまたがった。

こうして俺は出発したのだが、甲冑を着けたティグが予想以上に重い!

息をきらし、ぜーはー言いながら、ふらふらと俺は進んだ。

後ろでティグが不思議そうな顔をしている。

「魔王、どうしたんだ? 苦しそうだぞ。得意の深淵魔法で加速したら楽だろうに。」


こいつ、振り落としてやろうか!


 やっとの思いでたどりつくと、俺はへたり込んだ。

その一方で、ティグは呆然と見上げて、絶句していた。

「何だこれは! 巨大な鉄竜? いや、魔動馬車? これがダンプ ········ 」

「ああ、これがダンプカーだ。俺のじいちゃんはエルフって言ってたな。」

「何だと! これがエルフ? ········ どのような魔法で転生させて使役しているんだ! 全く想像ができん!」

「おい、勘違いするな。エルフとは言っても、これはイスズ・エルフ ········ 」

「イスズエルフ? そんな種族は聞いた事がないぞ。」

「いやいや、イスズはエルフを作ったメーカー名 ········ 」

「なんと! エルフを創造つくったというのか! それは魔術の限界を越えて、もはや神の領域。先々代魔王、信じがたい魔力、まさに恐るべき存在だ。」

「 ········ 。」


 俺は神を信じない男だが、このときは神に祈った。

神様、どうかこの者に神の鉄槌を下したまえ。

この者の天然ボケに、英知の裁きを!


 期待していた電撃は下されなかった。

きっと神様は女好きなんだな。

鼻の下が伸びてるかな?




 「ティグ、ダンプに乗って村に向かうぞ。」

「なんと、エルフに乗れるのか!」

俺は助手席のドアを開けた。

「ここから乗れ。」

「中に入れるんだな。」


俺も運転席に座った。

エンジン始動。

「これが深淵魔法の発動した音か。」

「よし、出発だ。」

「これだけ重い鉄の身体からだを軽々と動かすとは、すごい魔力だ。」

「前にも言ったが、これはガソ ········ いや、軽 ········ いや、もういい。」

俺は諦めた。

人間、出来る事と出来ない事がある。

俺は悟りの境地に至った。




 俺は村の外れにつくと、ダンプを停めてユンボを降ろしにかかった。

「エルフの背に載っている、それがユンボか?」

「そうだ。」

ユンボを降ろす作業を、ティグが興味深げに見ている。

作業を終えると、俺はユンボに乗り込んだ。

エンジン始動、前進。

ティグが息を呑んでいるようだ。


俺は試運転として、アームを上下左右に動かしてみた。


「これはすごい。鉄の首を自在に動かして ········ 」


「じゃあ掘るぞ。」

ユンボのバスケットが地面に突き刺さると、土を掘り取った。

そしてアームが動いて、掘った脇に土を盛る。


「 ·········· 言葉が無いな、これはすごい。あり得ない程の力だ。これが魔王の眷族けんぞく、地竜ユンボか!」


俺は運転席でずっこけた。

えーい、もうどうにでもなれ!


「わかった、リュージ。これで私も安心だ。では村に戻って、準備の指揮をとる。それからリュージ、暗くなってきたら村人に松明たいまつを持たせて送るからな。」

「いや、大丈夫だ。ユンボにはライトが付いていて、暗くなっても照らせるんだ。」

「なんと、地竜ユンボは光魔法まで使えるのか! 地竜ユンボ、恐るべし!」


俺はもう一度ずっこけた。

こちらの世界にも吉本はあるのか?

スカウトに来るなら、今のうちだぞ!




 こうして俺が異世界での土木作業にいそしんでいたころ、TFは大牟田の黒川邸に到着していた。

そしてそこで、転生の謎に迫る大発見をしている。

もちろん俺はそんな事は全く知らず、ユンボを動かし続けていた。





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