第2話 第一雇われ女騎士発見。俺はこれより事情聴取を開始する。

 俺は門の扉を閉めると、家の方に歩き出した。

まず必要なのは、護身用の武器だ。

バットか、ゴルフクラブがなかったか、と考えて思いついた。

じいちゃんの居間には甲冑、つまりヨロイ、カブトが飾ってある。

そして脇には日本刀もある。

もちろんこれは模造刀だ。

蔵の中には本物もあるらしいけど、そんなものが普通に飾ってあるはずがない。

でも今はこれで十分だ。

よし、これを拝借しよう。



 居間に入ると、思った通り甲冑と刀があった。

日本刀を手に取る。

思ったよりズシリと重い。

ヨロイも着用しようかと一瞬考えたけど、やめておいた。

すごく重そうだし、何よりも着付け方(?)がわからない。

一応、カブトだけは被っていくことにした。

でも、これだけでも結構重い。

次に探索するときは、これじゃなくてバイク用ヘルメットだな。

そう思いながら、俺は居間を出た。



 今回は初めての探索で、遠くには行かないけど、一応水と食料を準備した。

水筒に水を詰めて(水は普通に出た。)ポケットにカロリーメイトと、チョコレートを押し込んだ。

まあ、今回はこんなもんでいいだろう。

よし、出発だ!





 正門の扉を少し開けて、外を覗いてみた。

別に前回の様子と変わらない。

いや、違う。

少し離れた下に女の子が一人、そして子供が数人。

こちらを呆然と見上げているようだ。

ここを、突然現れた魔王城か何かと思っているのだろうか?

俺は女の子の方に歩き出そう、として思いとどまった。

あの様子からして、普通に歩いて向かえば逃げ出すに違いない。

情報を得るためには、何が何でも接触しなければ ······· 。



 俺は邸内に引き返すと、車庫に停めてあった原付を引っ張り出した。

俺が高校時代に、通学に使っていたやつだ。

キーをひねる。

セルが回らない。

俺は舌打ちしてキックレバーを出すと、踏み込んだ。

よし、エンジンが掛かった。

俺は門のところまで原付を押して行くと、扉を開けた。

そして門を飛び出すと、一気に坂道を駆け下った。



 女の子が目を見開いてこちらを見ている。

もしかして、バイクを知らないのか?

近付くと、子供たちが女の子の後ろに逃げ込んだ。

女の子が手を広げて、守ろうとしている。

女の服は銀色だった。

西洋風の甲冑?

それではこいつは女騎士?

後ろに束ねられた金色の髪が、大きく揺れるのが見える。



 俺はスピードを落として騎士の前に停まると、バイクから降りた。

女騎士が叫んだ。

「XXXX、XXX!」

何を言ってるのか、聞き取れない。

「XXX、XXXX!」

また叫んだ。

やはり聞き取れない。

もしかして、ここは日本ではない?

とにかく、俺は日本語で叫んだ。

「待て! 俺は怪しい者じゃない。一体ここはどこなんだ? おまえは何をしに来たんだ?」



女騎士は、すごく驚いたような表情をみせた。

そして女騎士が発した次の言葉に、俺の方が驚愕した。

「なぜ貴様が勇者語をしゃべる?」

「勇者語? これは日本語だぞ。わかるのか?」

「ああ、わかるとも。これは勇者ヨシヒロが使っていた言葉だからな。」

勇者ヨシヒロ? どこかで聞いたような ······ 。

「私のこの水晶のネックレスには、様々な言葉を翻訳できる、極めて高度な魔法が付与されているんだ。すっごく高価なものなんだぞ。」

「それは助かる。では教えてくれ、ここはどこだ? おまえは何者だ?」

「失礼な奴だ。他人に質問する前に、まず自分の事から話せ。おまえは誰だ? 魔王じゃないのか? 我々を皆殺しにしようとか、考えてないだろうな。」

「魔王 ······ 、確かに親父は魔王って名乗ってたけど、俺は違うぞ。人殺しなんかするはずが ······ 」

「魔王の息子! やはりてめえは ······ 」

女騎士の手が、腰の剣に伸びる。



「待て、待て!」

俺は慌てた。剣道の心得なんて、俺にはないぞ!

「俺の名は黒川隆司。魔王なんかじゃなくて、単なる大学生だ。」

女騎士の目から、疑いの眼差し消えない。

「あっ、そうか、これか。わかった。これは捨てよう。」

俺は腰の日本刀をはずすと、遠くに投げた。

「その魔王のヨロイもだっ!」

「ヨロイ ······ 、ああ、これを被ってたんだった。」

俺はカブトも脱ぐと、下に置いた。

「貴様、魔族ではないな。人間族か?」

「ああ、だから俺は魔王なんかじゃないって。信じてもらえるか?」

「いや、まだだ。変化へんげの魔法を使っている ······ いや、魔力の気配はないな。」

女騎士の手が、ようやく剣から離れた。

やっと一安心だ。

「では、貴様はここで何をしている? 突然現れたあの城はなんだ?」

「いや、それが俺にもさっぱりなんだ。気が付いたらここにいた。だからこの世界の探索に出てきたんだ。」



 そう言いながらも、俺には予想がついていた。

勇者だの、魔法だなどの言葉が出た時点で、ここは俺が知る現代社会じゃない。

「そうか、では貴様が異世界から召喚された転生者なんだな。」

やはりここは異世界で、俺は召喚された存在のようだ。




 ここでふと見ると、女騎士の後ろで、子供たちが興味ありげにこちらを見上げている。

そうだ、俺はこいつらと友好関係を結び、食料をGETするのが目的なんだった。

俺はポケットからチョコレートを取り出すと、子供たちに差し出した。

子供たちは興味はありそうだったが、手を出さない。

そうか、これはこいつらが全く見たことのない食品なんだ。



 俺はチョコレートの袋を破ると、少し折り取って自分で食べてみせた。

「どうだ、食べないか。すごく美味しいぞ。」

子供たちは、おずおずと手を伸ばすと、少し折って口に入れた。

「XXXX!」

「XXXX!」

子供たちの声が弾ける。

何を言ってるのかは聞き取れないが、見当はつく。

おそらく初めて食べたチョコレートの味に感動しているのだろう。

子供の一人が、女騎士に何か話をしている。

チョコをすすめているのか?

女騎士もチョコを取ると、口に入れた。

 女騎士の表情がパッと明るくなり、瞳がハート型になったように見えた。

「なんだ、これは。すごく美味しい! これは何という菓子だ?」

「チョコレートだ。」

「持ってるのはこれだけか? 他にもあるのか?」

「探せばあるだろうな。まあ、見つけたらまた食わせてやるよ。」

甘党だったじいちゃんの顔を、ふと思い出した。

「魔王城の中にか?」

「魔王城 ······ じゃないんだけど ······ 」

黒川邸のような建物、この世界では城くらいしかないだろうな。

魔王城でなければ、俺は王侯貴族だ。

ええい、面倒くさいことになった。




 その後、ようやく彼女は自分の情報を教えてくれた。

彼女の名前は、ティグリム・リングリソート。

下に見えるフツーノ村の村長に雇われた、助っ人騎士なんだそうだ。

フツーノ村? 俺は少し引っかかった。

「私は王都の近衛騎士団に所属していたエリートだぞ。 故郷、フツーノ村の村長に泣きつかれて、渋々帰ってきたんだ。剣の腕も立つが、魔法も使える。結構すごい奴なんだぞ。」

こいつ大丈夫か?

胸を反らすティグを見ながら、俺は少し不安になった。

「その腕ききの女騎士様が、ここで何をしてたんだ?」

「私の仕事は、村長の息子を鍛えて立派な戦士にすること。そして村の男たちを調練して、有能な兵士に育てることだ。でも、暇なときには子供たちを預かって、面倒をみることにしている。」

「へえ、子供が好きなんだな。」

「馬鹿をいうな。子供は立派な兵士予備軍だぞ。今のうちに軍事調練のイロハを叩き込んでおけば、将来はきっと優秀な兵士だ。」

そうか、こいつはそういう奴なのか。

俺は理解した。

あまり近づかない方が良さそうなタイプだ。



 「ところでリュージ、あの魔動馬は何という名前だ?」

「魔動馬? ······ ああ、あれか。あれは原付だ。」

「そうか、あれは魔動馬ゲンツキというのか。でも不思議だ。魔力の気配が全く感じられん。あの力は、確実に魔力が発動しているはず ······ 」

「いやいや、あれは魔法とかじゃなくて、ガソリンを燃やして ······ 」

「なに? ガソリンとはなんだ?」

「ええと ······ まあ、燃える水 ······ 」

「何を言う、水が燃える訳なかろう! それは水属性魔法の定理に反する。絶対にありえん!」

「いや ······· それは ········ 」

俺は頭を抱えた。

この世界にも油はあるだろう。

オリーブオイルとか、ありそうだ。

でもそんなレベルの奴に、レシプロエンジンをどう説明する?


「ええい、面倒くさい! ああ、これは魔王の魔力だ。普通の魔術師には感知できない、深淵魔法の力によって動いている。」

「なんと、そのようなものが存在するのか! さすがは魔王の息子、リュージ殿だ。」


なんだか頭が痛くなってきた。

この先、大丈夫か?





 この自称優秀な女騎士、ティグリム・リングリソートによると、ここはジモト王国という国で、ここから王都ミヤコまでは徒歩で7日、馬を飛ばせば2日くらいと比較的近く、治安もいいらしい。

「ちょっと待て、ティグ。ジモト王国に王都ミヤコだと? そういえばここの村もフツーノ村だったな。何か名前が安直すぎないか? そのまんまだぞ。」

「ああ、それはだな、この翻訳のネックレス、こいつのお得な便利機能のせいだ。名前もわかりやすく翻訳してくれるんだ。」


ちょっと待て! 固有名詞を意訳してどうする?

それじゃあこの国はフツーノ村だらけになるぞ。

それとも第1フツーノ村、第2フツーノ村とかなるのか?

いや、それも面倒くさそうだ。


俺は考えない事にした。

世界には計り知れない深淵があるものなのだ。




 「ジモト王国はモンスターもあまり出ない、平和な国だった。ところが、魔王が召喚、あ、間違えるなよ。これはこちらの魔族が召喚した魔王だ。魔王が召喚されたということは、モンスターによる魔王軍が編成可能になったということを意味する。モンスターは強いが協調性には乏しく、これまでは王国軍に制圧されてきた。だが、これからはそうはいかん。王国軍は臨戦態勢に入った。」

「王国の危機だというのに、ティグは村に帰ってきたのか?」

「そういう事になるな。私は村の伝説の英雄、天才美少女騎士、村長に泣きつかれては嫌とは言えん。」

「 ············ 。」

俺は突っ込まない事にした。

無用に事を荒立てる必要はない。

大人の度量を見せる事も重要なのだ。



 「ところで、ティグは何で俺が転生者だと察したんだ?」

「それは今日の早朝のことだ。大地の魔力、いや霊力と言った方が良いか、その通り道である地脈から、大量の魔力発動が行われたからだ。これほど大規模な霊力を使う極大魔法というと、異世界からの空間転移魔法くらいしか思いつかん。ただ、その移転先が、このフツーノ村だとは思いもしなかったが·····。」

まあ、そうだよな。

まさか王城内に黒川邸を転移させる訳にもいかないだろうし ······ 。

待て、ちょっと待て。

異世界転生って、普通は個人の転生じゃないのか?

何で家ごと転生してんだ?

転生するのは勇者ってのが定番だろうが。



 それに対するティグの答は簡単だった。

「知らん。勇者一人呼ぶよりも、魔王を配下ごと呼んだ方がお得、とか考えたんじゃないのか?」

うん、わからん。

とにかくこの問題は封印して、この世界のことをきいてみる事にした。

「魔王が召喚されて、これから魔王軍が世界征服を開始する、という事なのか?」

「魔王の事情など知らん。だが、侵攻を開始したという話は聞いていない。そもそも奴の目的は世界征服なのか?」

「じゃあ、魔王は今のところ、召喚されたまま何もしていないという事なのか?」

「ああ、そうなるな。何でもワグネル大迷宮というダンジョンを作って、そこの最深部に潜んでいる、という話をきいた。命知らずが何組か攻略に向かったらしいが、誰も帰って来ないという話だ。」

ワグネル? 民間軍事会社?

いやいや、そんな事は今はどうでもいい。

今は魔王の話だ。



 しかし、ダンジョンの最深部に潜むとは、ベタな魔王だ。

ゲーム世界のド定番じゃないか。

一体どんな趣味があって、そんな所に ······ 引きニートなのか?



 「そうだ、ティグ。魔王軍が動かないんだったら、なんで村に雇われたんだ? フツーノ村だけが襲われる訳じゃないし、将来の魔王軍対策なのか? ずいぶん気の早い話だと思うが。」

「ああ、その通りだな。だが、村の危機は遠い先の話ではない。事態は切迫している。」

「というと?」

女騎士の表情が少し翳った。

「切迫しているのは、実は隣村対策だ。隣のトナーリ村はここ、フツーノ村よりもずっと大きく、しかも荒くれ者揃いなんだ。今までは王国正規軍がにらみを効かせていたんだが、今の王国軍は身動きがとれん。」

「そうか、隣の村に狙われているのか。フツーノ村には何か狙われるような物があるのか?」

「特にはない。強いて言えば、もうすぐ収穫される小麦だろうか。」

「だったら何で狙われる? 単に距離が近いからか?」

「それもあるんだろうが、こちらの守備が弱いと見切ってるんだろうな。」

「 ········。」

「村の戦争準備は始めている。若い者たちの調練は開始した。あともう一つ必要なのは、村の回りに丈夫な柵を作り、堀をめぐらせて守りを固めることだ。だが、若い者は農作業でも村の主力、調練の上にさらに土木作業までは無理だ。」

「そうか、村の守りが不十分なのか。」

「年寄り、それに女子供まで動員してやってはいるが、収穫までの完成は厳しいとしか言えない。」

「そうか、大変なんだな。」

実は密かに苦悶していたらしいティグに、俺は少し同情した。




 「そこで魔王、おまえに質問だ。」

「だから、俺は魔王なんかじゃない!」

「息子なんだから、どっちだっていい。で、おまえの目的は、やはり世界征服なのか?」

俺はコケそうになった。

「馬鹿をいうな! 本家の魔王は知らんが、俺は平和主義者なんだ。フツーノ村との友好平和な関係を求めてるだけだ。」

「本当か? それなら力を貸してくれないだろうか。魔王の力があれば、トナーリ村の奴らなど簡単だろう。いや、待て、でも報酬はなんだ? まさか処女の魂などとは言うまいな。でもこの麗しい天才美少女騎士の魂なら、欲しがるのも無理はない。ああ、美とは罪なものだ。」


「馬鹿を言うなっっっ!! 俺は悪魔かっっ!!」

しまった、つい突っ込んでしまった。

大人の度量が ······ 。


「ゴホン、それはともかく、それは無理だ。」

「なぜだ? 深淵魔法があるなら、ひとひねりだろう。」


そんなもんがあれば、苦労しねーっ!、と叫びかけたが、踏み留まった。

よし、なんとか理性を取り戻したぞ。


「ここで俺が魔力をふるえば、その強大さ故に、王国中の大きな噂になるだろう。そうすれば、次にこのフツーノ村にやって来るのは、王国の討伐軍となるぞ。」

「うっ、確かに。それはまずい。」

「でもまあ、これも何かの縁だ。俺がその土木作業を手伝ってやろう。これで大丈夫だろ?」


 食料GETという目的のためには、ここは恩を売っておくのが吉だ。

俺の脳裏には、じいちゃんが山を切り開くのに使ったユンボ(ショベルカー)が浮かんでいた。

あれなら、あっという間に堀を作れる。


「なに、手を貸してくれるだと? それはありがたい。魔王が深淵魔法で村の防備を固めてくれる、か。よし、これで村は安泰だ。いや、明日からフツーノ村ではなく、フツーノ城だな。そうか、ついに私も城主様か ······ 。」


なんだか、ひどく誤解されているような気がする。

天才様のだらしない笑顔を見ていると、さしずめこんなことを考えてるんじゃないか?



 魔王の禍々まがまがしい衣装に身を包んだ俺は、巨大な魔杖を振りかざすと、深淵魔法の呪文を唱えた。

「ビルド!」

轟音とともに地が裂け、そこから巨大な石造りの城がせり上がって出現する。

そして天才美少女騎士様は、イケメンの配下に囲まれ、うやうやしく かしずかれる。

「ティグリム様、何でも私どもにお言いつけください。」



こんな感じか?

天才美少女騎士様は、妄想の海を漂っているようだ。

どうする? 現実を突きつけるか?

でもまあ、せっかく舞い上がっているのだから、そのまま上げておく事にしよう。

わざわざ突き落とす事もあるまい。



「 ······ ではティグ、俺はちょっと準備があるから、実家 ······ いや、魔王城に戻る。さっそく今日の夕方にでも村に行っていいか?」

「もちろん大歓迎だ。」

「ありがとう。それではティグは先に帰って、俺が来る事を伝えておいてくれ。いきなり行ったら、上へ下への大騒ぎになるだろうからな。」

「ああ、わかった。でも魔王、準備はあまり頑張らなくても良いぞ。ラフな普段着で来い。村人を警戒させては面倒だからな。それでは村長に伝えておく。歓迎の準備をして待ってるからな。」

「 ······ ああ、頼む。ではまた後ほど、村で会おう。」



やはり盛大に誤解しているようだ。

天才美少女騎士様は、子供たちを連れて村に帰る ······ 。



「あっ、魔王、ちょっと待った。これをおまえに預けておく。翻訳の水晶ネックレスだ。これがあれば、おまえは誰とでも話ができる。私はこの村にいる限り、基本的には困らないから大丈夫だ。」

「なるほど、これは助かる。ありがとう。」

「リュージ、これはあくまでも貸すのだからな。やるんじゃないぞ。それと決して無くすなよ。10年ローンなんだからな! 無くしたら泣くぞ!」

「わかった、わかった。大事にするよ。」


この世界のローンって、どういう仕組みなんだ!

突っ込みが喉まで出たけど、押さえ込んだ。

この世界には謎が多い。




 今度こそ美少女戦士(あれっ、違ったかな?)は子供たちを連れて帰り始めた。

何だか足取りが雲の上を歩いているようだ。

そういえば、瞳がハートマークだったような気がする。

本当に大丈夫なのか?

理想に燃える高潔な女騎士を、煩悩まみれの俗世に突き落としたような気もするが、まあ気のせいだろう。





 さて、俺も帰るか、と思っていると、馬蹄の音が聞こえてきた。

村の方から駆け上がってくる騎馬が数騎。

先頭を見ると、乗っているのは女だ。

茶色の髪、プレートメイル(鉄製のヨロイ)ではなく、軽い革製のヨロイを着けている。

そのせいか、騎馬の動きは軽快だ。

よく見ると、後続の騎士も女だ。

全員、騎馬の腕は確かなようだ。



 先頭の女騎士がティグの元に駆け寄ると、馬を停めた。

「ティグ、心配したぞ、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。」

「ティグ、上にあるあれは、やはり魔王城なのか?」

「ああ、そのようだ。」

「では、そこにいる見かけない男が魔王なのか?」

「ああ、似たようなものだ。」

こらこら、誤解を招くような言い方をするな!

「 ······ ま、魔王!」

馬上の女騎士は弓を取り出すと、矢をつがえて引きしぼり始めた。

待て、待て、待て! この距離で射られると、逃げられないぞ!

俺は2、3歩後退あとずさった。



「まあ待て、オフィーリア。そいつは役に立つ、良い魔王なんだ。やめておけ。」

馬上の女騎士は、びっくりした表情でティグの顔を覗き込んだ。

「 ······ ?? 役に立つ・良い・魔王? 今まで聞いたことのない組み合わせの単語なんだが。」

「本当だ。こいつ、魔王リュージは私の ······ いや、違った。村の役に立つ。なんと城を造ってくれると言うんだぞ。」

「城を造る? 2つ目の魔王城を造るというのか? 言ってる意味がさっぱりわからんぞ。」

「なに、大丈夫だ。私はこの魔王、リュージを村に招待することにしたぞ。これで私はフツーノ城主、いや、貴族として ······ デヘッ、デヘッ ······ 」

あね様、教官の様子が変です。一体どうしたんでしょう?」

「全くだ。一体どうしたんだ? 何か悪いものでも食べたか? 魔王など村に入れたら、皆殺しにされかねんが。」



 馬上の女騎士は、俺の方に向き直った。

「おい、魔王とやら。ティグに何か変な魔法でも使ったか?」

ブン、ブン、ブン。

俺は力いっぱい首を振った。

「よい、心配ない。私に任せておけ。さあ、みんな帰るぞ。歓迎の準備だ。」

ティグにうながされて、全員が村に帰り始めた。

騎馬の全員が首をひねっている。

納得がいかないんだろうな。



 でも、それは俺も同じだ。

何か知らんが、なぜかバイクが魔動馬ゲンツキとなり、黒川邸は魔王城になり、俺は勝手に魔王にされようとしている。

どうしてこうなった?

まあいい。

細かい事を気にするよりも、今は行動だ。

俺はスマホを取った。

TFに状況説明だ。


 通話しようとして、気が付いた。

圏外だ、おかしい。

邸内ではバッチリ入っていたのに、少し離れただけでどうして圏外なんだ?

理由はわからないが、それならば帰って連絡するだけだ。


 俺は日本刀とカブトを拾うと、バイクに跨がって坂道を駆け上がって行った。











 










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