第3話 TFすごいやつ。俺も負けてはいられない
「TF、俺だ。何かわかったか?」
「隆司、大丈夫か? 心配したぞ。電話が全くつながらなかったからな。」
「それは申し訳ない。家から少し離れたら、なぜかスマホが圏外になるんだ。理由は不明だ。」
「そうなんだ、謎の現象だな。では隆司、こちらからだ。黒川邸の電気、ガス、水道は引き続き使えるように頼み込んでおいた。当分は大丈夫だ。」
「ありがとう、助かる。それではこちらの話だ。外を探索して、現地人に会えた。家の近くにいた第一村人、ではないな。第一雇われ女騎士に話をきけた。」
「なんだ、そりゃあ。でもそれは良かった。で、そちらはどういう世界だったんだ?」
「驚くなかれ、こちらは異世界だ。魔法やモンスターの世界だ。」
「最近アニメや小説でよく見るあれか?」
「多分そうだ。驚かないんだな。」
「もちろん可能性としては考えていたさ。それにしては、沢山の謎が残ってるけどな。でもそれならわかった。まずはそれに合わせたサバイバル作戦を考えよう。おそらく強大なモンスターもいるはずだ。まずは生き残ること。救助したいが、それは次の段階だ。」
俺はティグから聞いた、こちらの情報を手早く説明した。
「そうか、近くにあるフツーノ村の土木工事を手伝うことにしたんだな。でも、フツーノ村とはわかりやすくて良いな。」
「ああ、俺はこのジモト王国には他にどんな村があるのか、全部きいてみたい。ネックレスがバグって、煙が出るかなしれないな。」
ティグがおいおい泣きながら、ネックレスを抱きしめる図が浮かんだ。
さすがにかわいそうだから、やめておくか。
「食料確保は最優先事項、近くの村とは友好関係であるべき。隆司の土木作業応援に賛成だ。でもおまえにそんな体力があったか? 現地人に負けるだろ。」
「心配御無用。黒川邸にはいろんな物があるんだ。今回使おうと思っているのはユンボだ。じいちゃんが山を切り開くときのに使ってたのがある。」
「ほう、なるほど。それは面白い。そんなものがあるんだ。でもユンボは足が遅いぞ。どうやって運ぶんだ?」
「それも問題ない。ここにはダンプカーもあるんだ。小さいダンプだけど、じいちゃんがユンボを積んで運ぶのを見た。他にも土砂を運んだり、自家用ボートを積んだりしてたな。」
「そうなんだ、すごいな。さすがは夢幻斎ってとこか。」
「それからな、TF。ここだけの話なんだが。」
俺とTF、二人だけの会話なのに、声が小さくなった。
「じつはここ、黒川邸の蔵のどこかに、じいちゃんの猟銃がある。」
「 ········ 。」
「これを探し出して、使ってもいいと思うか?」
「ちょっと待て、それには慎重な判断が必要だ。」
「えっ、どうして? これがあったら無敵だぞ。」
「まず、弾数に限りがあるから、射ちまくる訳にはいかない。」
「それは確かに。」
「となると、銃の使い方には2つの方法が考えられる。最初の方法は、銃の存在を絶対の秘密にしておいて、ギリギリのピンチ、あるいは決定的な重大局面においてのみ使用するという、秘密兵器としての使い方だ。」
「ああ、そうだな。」
「そして次の方法は逆だ。銃の絶大な威力を世界にアピールするんだ。魔王の最終兵器としてね。俺には最強の武器があるぞ、俺に従え! 逆らうな! つまり、銃を抑止力として使い、争い、さらには戦争を無くしてしまおうという使い方だ。」
「なるほど、その2つか。どちらかというと、後の方が良い気がするな。これで戦争が無くなるんだったら、最も有効な銃の使い方じゃないか。」
「そう思うだろうが、それは甘い。実際の銃は絶大な威力を持ち、かつ誰にでも扱えるチート兵器だ。その存在を宣伝すれば、例え暗殺しようが、戦争しようが手に入れようとする
「 ······ だったら銃は魔王にしか使えない、と宣伝すればいいんじゃないのか?」
「それでも一回使用したら、嘘がバレる可能性が出てくる。隆司は一回使用した銃を、これは魔王にしか使えないから大丈夫、と部下に預けられるか?」
「いや、それは難しいな。部下が絶対に信じられるとは言い切れない。もし預けたら、不安の種になるな。」
「だったら、おまえは銃を手離す事が出来なくなる。常に銃を
「 ········ 。」
「魔王は絶大な威力を誇る銃を持つ故に、それを片時も手離せず、誰も信用できず、針のムシロ状態。そして次に起こるのは部下の大粛清だ。」
「 ········ 何だか、破滅する独裁者みたいだな。」
「ああ、そのとうりだ。身に余る力を持つことは危険だ。俺が慎重な判断が必要だと言った理由がわかっただろう。」
「よくわかった。銃の安易な使用は危険という事だな。」
「でも、そうは言っても最優先は隆司の安全だ。本当のピンチには使用せざるを得ない。一応は使えるように、準備はしておくべきだ。」
「そうだな、どこかで時間を作って準備しておこう。」
「わかっているだろうが、銃の存在は絶対の秘密だ。決して誰にも言うな。」
「ああ、了解した。」
「次に隆司、土木工事に協力したら、村の連中は感謝して、おそらく食料を分けてくれるだろう。」
「ああ、そうだと思う。」
「そのときに、村にもう一つ要求 ······ いや、こう言ったら本当に魔王みたいだな。村人に頼んで欲しい事がある。」
「えっ、何かあるのか?」
「ああ、一つは魔王城 ······ でいいのかな? 黒川邸の存在をフツーノ村だけの秘密にして、決して外には漏らさないと約束させるんだ。」
「なんで?」
「それともう一つ、村人にお願いして、立木等を準備してもらえ。下から魔王城が見えないように、カムフラージュするんだ。」
「えっ、魔王城の存在を隠しておかないといけないのか?」
「当たり前だ。魔王城とは言っても、実際にはただの民家だ。誰かが火でも放てば一巻の終わりなんだぞ。」
「そうか、その可能性は考えてなかった。これは重大だな。」
「まあ、いずれはバレるだろうが、そのときはまた別の手を考えよう。まずは村に協力して、土木工事からだ。」
危ない、危ない。
確かにそのとうりだ。
ここで黒川邸が無くなったら、俺は本当の意味で裸一貫、自分一人の力で生きなきゃいけなくなる。
現世に戻るどころか、生き残れるのかさえも怪しくなってくる。
俺は自分の無力さを思い知らされていた。
まるで、じいちゃんの遺産(?)で食いつないでいるバカ息子、いや、バカ孫だな。
でも、俺には懸命に支えてくれる友人がいる。
とにかく俺は、与えられた全てのものを使って、生き残るんだ。
そして無事に帰還、TFと祝杯をあげるんだ。
TFのことだ、そうなったらこの大冒険を小説化して売りだそう、とか言い出しそうだな。
例えばこんなタイトルか?
「ノンフィクション。異世界から俺は生還した。そこは剣と魔法の世界だった。」
そしたら第一章は「ユンボ大活躍!」とかか?
いやいや、先走っても仕方がない。
本当にユンボが活躍できるか、まだわからない。
とにかく、今は出来る事をするだけだ。
よし、さっそく準備開始だ。
ユンボをダンプに積み込んで、村に向かうぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます