第4話 村は大変。俺は土方仕事の作業員。(その1)

 俺はさっそく村に行く準備を始めた。

まずはユンボをダンプに積まなきゃいけない。

もちろんそんな経験はないけど、じいちゃんの作業を見てたから、手順はわかっている。

見様見真似というやつで、思ったよりも時間がかかったけど、なんとか積み込めた。

こんな事なら、じいちゃんにしっかり習っておくべきだった。

いや、その前にユンボの操縦資格を持ってなかったな。

まあ、非常事態なんで許してくれ、じいちゃん。


 他にも土木作業に必要そうなものを積み込んだ。

あと、いくらかの食料。

この世界でも簡単に食べられるものを、と考えて、今回はカップラーメンにした。


 そして双眼鏡と自転車。

双眼鏡はもちろん、遠くを見張るためだ。

村に向かう途中で、パトロールする騎馬隊とか、隊商の馬車列とかに遭遇したら面倒だ。

遠くを見張って、避けなければいけない。

 そして自転車。

ダンプカーで直接村に行けば、上へ下への大騒ぎになるのは目に見えている。

原付でもあの騒ぎだったんだ。

ダンプは林の中にでも隠しておいて、自転車で村に向かうことにした。

これならば、さすがに深淵魔法などと騒ぐ馬鹿はいないだろう。

俺はただの大学生だ。

これ以上魔王にされてたまるか!

もう俺は流されんぞ。

よし、なんだか燃えてきた!




 ゆるやかな草原の坂道を下っていくダンプカー。

未舗装のでこぼこな地面の上に、荷台積載のユンボが不安定なので、慎重な動きだ。

 俺は普通免許しか持ってないけど、このダンプはOKだっけ?

調べてなかったな。

道路交通法違反か?

いや、ここは公道じゃないな。

私道? でもないな。

わからん。

まあ、警察が取り締まってても大丈夫だろう。


 そんなどうでもいい事を考えながら走っていくと、坂が終わって平坦な草原になった。

そのまましばらく走ると、石畳を敷き詰めた道に出た。

この世界にも舗装道路があったとは、少し驚いた。

 でも、考えてみれば、これは当たり前の話だ。

舗装なしの道路だと、行き交う馬車の車輪でわだちが深く刻まれる。

するとここに水が溜まり、ずっとぬかるみ続けて、馬車列を難渋させる事になる。

つまり、交通量の多い幹線は、どこの世界であっても舗装されていたはずなのだ。

(ちなみに日本は例外だ。山がちで、川も多い。馬車もあまり普及しなかった。日本の物流の主役は船だ。)





 道の両側には小麦と思われる畑と、草原が拡がっている。

予想どうり、水田は見当たらない。

農作業をしている村人に見つかって、騒ぎになるかと思ったけど、誰にも会わない。


 そのうち、遠くに村が見えてきた。

簡単な柵が巡らされて、門らしきものが見える。

そしてその内側には物見やぐららしい、木製の簡単な塔が建っていた。


 俺はダンプを停めると、村の方を双眼鏡で覗いてみた。


 ん? 何か土煙が上がっている。

騎馬隊でもいるか?

 双眼鏡の焦点を合わせてみると、村をゆっくり出ていく騎馬の群れがいた。

20人くらいか?

全員が体格のよろしい、ガテン系の兄ちゃんだ。

何か明らかに周囲を威圧するような、チンピラ系の雰囲気を発散している。

あれがフツーノ村の若い者なのか?

どちらかというと、暴走族という感じだが。

 そこで俺は思い当たった。

あれは農作業をするフツーノ村の人間じゃないな。

おそらくトナーリ村の荒くれ者たちだ。

いったい中で何をして出てきたんだ?




 すると、村の入り口から一騎の騎馬が飛び出してきた。

誰? 俺が双眼鏡をそちらに向けると、女だ。

俺がティグと会っている時に、後ろから駆けてきた茶髪の女騎士だ。

少女は、暴走族に向けて駆け寄りながら、弓を取り出した。

これを見た族の方も、剣を抜いたようだ。

おい、あの荒くれ者の集団に、一人で突っ込む気か!

俺は冷や汗を流しながら双眼鏡を覗いた。

少女が狙っているのは、族の中央にいる、ひときわ大きな戦士のようだ。

きっとリーダーなんだろう。


少女は矢を放った。

弓の腕前は相当なようだ。

矢が正確に大男の喉に向かって飛ぶ。

だが、大男を倒すには力が足りない。

大男は矢をはじき飛ばした。

少女は弓を捨てると、腰の剣を引き抜いた。

そしてそのまま大男に迫る。

降り下ろされる剣。

大男も剣を振るって迎え撃つ。


ここからでは音は聞こえないが、相当大きな音が響いたはずだ。

弾き飛ばされたのは、少女の方の剣。

やはり、少女と大男では膂力りょりょくの差は歴然だった。

大男が笑いながら何か言った。

他の男たちも下卑に笑っているのを見ると、何かセクハラ紛いの事を言ったのだろうか。


少女は顔を真っ赤にしながら、目に怒気をみなぎらせて下がっていく。




 村の入り口から、自称天才美少女騎士を先頭に、10騎ほどの騎馬が飛び出してきた。

これは第2ラウンドか、と思ったが、そうはならなかった。

美少女騎士は大男と何か少し喋ったようだが、そのまま少女を囲んで下がっていく。

暴走族の方も剣を収めると、トナーリ村と思われる方向に帰り始めた。




 そこで俺は我に返った。

そうだ、こんな目立つ場所に止まっていてはいけない。

すぐにどこかの林にダンプを隠そう。






 




 





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