第25話 押し寄せる見物客。俺は見世物か? (その1)
フツーノ村は、大変な事になっていた。
押すな、押すなの大盛況だ。
大魔王リュージ展がこれほどの人気になるとは、この世界には娯楽はないのか?
ないんだろうな。きっと、飲む、打つ、買うだけなんだろうな。
そういう意味では、リュージ展て、健全な娯楽だよな。
でも、魔王って、健全な存在といえるのか?
健全な魔王 ········ 健康に気を使って、規則正しい生活を送る魔王、 ········ 年金生活者みたいだな。強くはなさそうだ。
やはり、イメージというのも重要なんだろうな。
きっと、盗んだバイクで走らないといけないんだろうな。
魔王の苦労というのが、わかる気がしてきたぞ。
大魔王リュージ展の会場は、村長宅の大広間だ。
そして、俺が今いるここは魔王控え室。元は村長の居間だったそうだ。
俺は時々出入りする、ズタボロにきいてみた。
「村長代理、こんな事になって迷惑してるんじゃないのか? 申し訳ない。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。小麦の収穫も終わりましたし、これから仕事がなくなる時期ですから、冬を越すのにちょうどいい、とみんな喜んでますよ。」
迷惑してるから、すぐに中止して欲しいという答えを期待していた俺は、アテが外れた。
まだこの展示会が続くのか? もう終わりにしたいんだが。
でも、確かに大盛況だからな。
最近、ティグの瞳に「¥」の文字が見えるのは俺だけか?
そのティグは、1日に4回、俺を呼びに来る。
「魔王、出番だぞ。屋外ステージに出てこい。」
俺は、親父の魔王衣装を着せられている。
ドクロがいっぱい付いた、おどろおどろしいやつだ。
もちろん嫌だと言ったんだが、プロデューサー・ティグに、無理やり着せられた。
魔王って、こんなに権力がなかったか?
それでも俺は、親父のような派手な魔王メイクは断固拒否した。
俺の肌はデリケートなんだ。玉の肌が傷んだら、魔王ヴァルダムの怒りを買うぞ!
意味がわからんはずなのに、なぜかティグはそれ以上強要しなかった。
でも、その代わりにカブトをかぶせられた。
なんだ、この珍妙な格好は!
魔王って、こんなイメージだったのか?
俺は、しぶしぶ控え室を出て、会場に向かった。
会場に出ると、群衆からどよめきが起こる。
「魔王だ!」
「魔王リュージだ。なんと禍々しい、恐ろしげな衣装だ。」
俺は、恥ずかしいから、下を向いて歩いた。
展示してある、魔剣と魔槍を取ると、外に向けて歩いた。
外は屋外ステージという事になっているが、広場に立ち入り禁止のロープを張っただけの、簡単なものだ。
ティグがメガホンを握って、ナレーションを入れる。
「皆の者、注目! こちらが魔王リュージ、本人だ。この禍々しい衣装、魔界を
ティグ、ノリノリじゃないか。
こんな事なら、メガホンがないかとTFにきかれた時に、無いと答えておけばよかった。
これじゃあ、リングに向かうプロレスラーじゃないか。
そのうち、テーマ曲を作ろうとか、言いださないだろうな。
「魔王が手にしている、魔剣に注目! 変わった形をしているが、魔王の誇る魔剣、チェンソーだっ! 魔王だけが使える魔法、深淵魔法をこの剣に注入すると、驚くべき威力を発揮する。さあ、魔王が魔力を発動させるぞ!」
俺は、仕方なく、チェンソーのスターターロープを引いた。
2ストローク・エンジンが軽快な音をたてる。
「これが深淵魔法の発動音だ! これから魔王が魔力を込めるぞ!」
俺はスロットルを開けた。エンジンの回転が高まる。
「さあ、みんな、刮目せよ! 魔剣チェンソーの威力を! 今回用意したのは、あの太い丸太。到底剣では斬れない、あの太い丸太でも、チェンソーなら簡単にブッタ切る!」
俺は丸太を切断にかかった。
エンジン音が高まる。
おがくずを撒き散らして、みるみる丸太が切断されていく。
みんな、息を呑んで見ている。
なんかこれ、サギじゃないのか?
チェンソーって、木を切るしか能がないぞ。
俺は丸太を2つに切断した。
「おおーっ!」
どよめきが起きて、拍手喝采の渦。
「これはすごい!」
「さすがは魔王の魔剣だ!」
ティグのノリノリ解説は続く。
「こんなに太い丸太でもこの威力。手足なら吹っ飛び、首でも簡単にハネ飛ばせるぞ。戦場で魔王に会っても、決して近づくな! これが魔王の魔剣。チェンソーだっ!」
ティグ、リングアナウンサーになれるんじゃないか?
癖にならなきゃいいが。
「次に魔王が手にしているのは、魔槍ビーバーだっ!」
俺はチェンソーのエンジンを切ると、下に置いた。
そしてビーバー(刈り払い機、草刈り機)を手にした。
「こちらにも魔王が深淵魔法を込めるぞ!」
俺はビーバーのエンジンをかけると、回転数を調整した。
「さあ、魔槍の先に魔力が集まってきたぞ! 今回魔王が魔力をふるうのは、あちらのヤブだ!」
俺は、ヤブの方に歩いていくと、回転数を上げた。
草刈り開始。
「これもすごい! 草がみるみる刈られていく。」
「なんて簡単に切っているんだ! 恐ろしい切れ味だ。」
「見たか、魔槍ビーバーの威力! 魔王がこれを握れば、もはや近づく事さえ出来ない。近づく敵をなぎ倒していく圧倒的な力、これが魔槍ビーバーだ!」
再び起きる拍手喝采。
おいおい、本当にこれで良かったのか?
なんだか常習サギの片棒をかついでいる気分なんだが。
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