第26話 押し寄せる見物客。俺は見世物か?(その2)

 会場の外にテントが張られて、みやげ物の売店ができている。

いったい何を売ってるんだ? 

フツーノ村って小麦がとれるだけで、何も特産品はないぞ。

近づいて見てみると、フツーノ村名物、魔王まんじゅうと出ている。

なんだ、これは。いったいどこから仕入れた?

いや、考えられるのは一つしかないな。

こんなのこの世界にある訳ないから、間違いなくTFだ。

冷凍食品なんだろうか?

蒸し器から、蒸気が盛大に上がっている。


「おいティグ、このまんじゅう、いったいいくらで売ってるんだ?」

「銅貨1枚だな。」


ここの世界の貨幣価値は、おおよそTFから聞いている。

銅貨1枚はおよそ1000円だ。

高い! ボッタクリじゃないか。


「ティグ、それは高くないか? 誰も買わないだろう、その値段じゃあ。」

「いや、大人気だぞ。なんせ魔王の深淵魔法がかかっているからな。」

「なに、どういう訳だ?」

「まんじゅうをよく見ろ。上に魔王の刻印がされているだろうが。」


近づいてよく見ると、まんじゅうの上に、日本語で「魔」の焼き印が押されている。

TFめ、芸が細かい。こんな物まで準備して。



 会場に戻ると、中の一角がカップ麺の試食会場になっている。

こちらも大盛況で、列まで出来ていた。

入り口にはカセットコンロが2台置かれて、お湯を沸かしている。

2台目の方は、親父の趣味だったキャンプ用品の中から拝借してきた。

そこにも人だかりだ。


「ティグ、こちらの方は一杯いくらなんだ?」

「銀貨1枚だ。」

およそ一万円! いくらなんでも、取りすぎじゃないか。


「そんなに高いのに、よくみんな食べていくな。」

「確かに高いのだが、なんせ魔界の特産品、奇跡の器が手に入るからな。」

「なんだ、それは。」

「どこから見ても奇跡でしかなかろうが。柔らかい陶器だぞ。普通の陶器でも高価なのに、そのような奇跡の器、みんな欲しがるに決まっておろうが。」

「 ············。 」


おいおい、大丈夫か? 発泡スチロールだぞ。

数回使えば、きっと破れるぞ。

いや、問題はないか。

そんな貴重なもの、実用品ではなくて、人に自慢するのが用途だろうからな。


 その隣でも何か売ってるな。驚いた。なんだ、あれは。

別に珍しい物を売ってたんじゃない。普通、これは売らないだろうが。

「ティグ、なんでこれを売ってんだ? カセットコンロのボンベじゃないか。

使い道がないんじゃないか。」

「ああ、そのとうりだ。深淵魔法が封じられた、鉄の魔結晶だ。もはや魔力は残っていないが、魔界ではこれをトコノマというところに飾って、でる習慣があるとティーエフから聞いたぞ。売らない手はないだろう。」

「 ············ 。」


おいおい、TF、やりたい放題じゃないか。

さすがにこれは誰も買わんだろう。

どれどれ、お客さんの反応は?


「これが魔界の鉄の魔結晶! ········ これはすごい。鉄が薄く切られて、寸分の狂いもなく、精密に造られている。最高のドワーフ職人でも、これほどの物は造れまい。これは欲しい! 自慢できるぞ。」


もう俺は何も言えなくなった。

商魂たくましいというべきだろうか。

ティグ、おまえは村の軍事教官なんか辞めて、別の道を選んだ方がいいんじゃないか?



 「リュージ、魔王展は大成功、大きな収益を上げている。礼をいうぞ。」

そりゃそうだろう。これだけアコギな商売をしていれば。

「いっそのこと、財閥リュージグループを目指さないか? 左うちわで、一生遊んで暮らせるぞ。」

おいおい、目的が変わってるぞ。

トナーリ村を助けるためだっただろうが。


「ティグ、そろそろ魔王展も終わりにしないか? もう充分稼いだだろう。」

「いや、まだまだだ。リュージ、そろそろ我々も次のステージだ。次は歌って踊れるエンタメ魔王でいくぞ。リュージを特訓せんといかんな。どこにコーチを依頼しようか。」


ちょっと待て、いつから俺はアイドルを目指す事になったんだ?

歌って、踊って、ベタも塗れる魔王か ········ 、悪くはないかも。

いや、悪いわ! 俺はトナーリ村を助けて、ドラゴンを倒して、現代社会に帰るんだ!


でもこいつ、やる気満々だな。ポジティブ思考だけは認めんといかんな。

もしこいつの案に乗っかって、芸能活動をするんだったら、芸名はこんな感じか?


「mo リュージ with T」


おお、結構いけるんじゃないか?

いや、ダメだな。あいつとは絶対金銭面でモメる。

魔王とマネージャー、芸能活動の方向性の違いで活動休止。

今後の活動再開は未定。

魔王の活動休止を受けて、喜ぶ冒険者パーティー。


いや、妄想も大概にしておこう。

「ティグ、芸能活動の話は置いておいて、本題のダンジョン攻略を考えよう。ドラゴンをどう退治するか、だ。」

「そうか、残念だ。冒険者などより、芸能プロデューサーの方が儲かるのに ········ 」


悪いが、そちらの活動は他をあたってくれ。

自分で若い才能を発掘するんだな。

なんなら、自分で歌って踊ればいいのに。

いや、無理だな。こいつはネコはかぶれんだろう。

ガサツな性格が丸見えだ。


「仕方がない、魔王展終了を考えるか。ではいつ終わろうか? 一年後くらいかな。」

「長すぎるわっ! 村の小麦畑が荒れ地になるわ。あと一週間で終了だ!」

「残念だ。もっと稼げるのに ············ 。」


こいつ、いつからこんな金の亡者になったんだ? 

そうか、こいつ、金の力にモノをいわせるつもりだな。

イケメンを囲って、逆ハーレムか。

そんな不純な動機のために働けるか!


「ティグ、今日4回目の出番が終わったから、俺の仕事は終了だ。城に帰るからな。」

「待った、リュージ。この後、魔王リュージのサイン会を開こうと思うんだが、参加してくれないか? 色紙1枚、銅貨5枚くらいで売れると思うぞ。」

「断る。今日は疲れた。もう帰って休む。」

「そんな事言わずにリュージ、もう少し頑張ってくれ。な、な。」


こらっ、まとわりつくな!









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る