第27話 異世界に勇者は必要です。俺の天敵か?(その1)

 そのとき、会場警備にあたっている、トナーリ村の荒くれ者が外から走り込んで来た。

そしてそのまま頭目のところまで走ると、何かを耳打ちした。

それを聞いた頭目は、大剣をつかむと、外に走り出した。


 俺は、走ってきた荒くれ者を手招きすると、きいた。

「外で何かあったのか?」

「はい。外門に変な奴が現れて、魔王と会わせて欲しい、是非手合わせをお願いしたいと言ってきたのです。魔王はアポ無しの人とは会わない、と断ったら、剣を抜いて暴れました。そいつがとんでもなく強くて、手に負えないんです。」

「なんだって? それはいけないな。客のクレーム処理は上司の務め。これはさっそく行かないといけないな。」


俺は、ティグを振り払った。



 俺が外門についたときには、もう頭目が変な奴と向き合っていた。

後ろからティグも走ってくる。

現場には荒くれ者が数人倒れていた。

重傷か、と思ったが、誰も大した傷は負っていない。

峰打ちというやつか?

だったらすごい達人だが。


 頭目が大剣の柄に右手をかけて、ゆっくりと変な奴の方に向かった。

「よくも俺の部下をかわいがってくれたな。こんな事をしたらどうなるか、わかってるんだろうな。」

「どうにもならんと思うぞ。おまえでは役不足だ。魔王を呼んでこい。」

「ぬかせ!」


頭目は剣を抜くと、変な奴に襲いかかった。

うなりをあげて降り下される大剣。

それに対して、変な奴は何も反応せず、あたる寸前でひらりと大剣をよけた。

そして、すっと自分の剣を伸ばしたかと思うと、頭目の首筋をはたいた。

崩れ落ちる頭目。

すごい、こいつは本物の達人だ。


 変な奴改め、達人は俺の方を見ると言った。

「おお、魔王が来てくれたか。貴方にお願いする。是非それがしと手合わせをお願いしたい。」


達人は頭を下げた。誰だ、こいつは?

年齢は30才くらいか。作務衣を着て、髪を頭の後ろでチョンマゲ風に少し結んでいる。


後ろから追い付いたティグが、声を上げた。

「勇者ヨシヒロ! どうしてあなたがここに?」


勇者ヨシヒロ? 俺は思わず言ってしまった。

「勇者ヨシヒロ、番組制作費は大丈夫か?」

「なんの話だ?」

「いや、こっちの話だ。気にしなくていい。」



 勇者ヨシヒロの後ろの方に、魔法使いと思われる男がいる。

連れがいるのか。


「ヨシヒロ、魔王がきたぞ。もういいから帰ろう。危険だ。」

「危険な訳がないだろう。俺は魔王と手合わせがしたいだけだ。」

「魔王が怒って極大魔法を撃ったらどうするんですか?」

「そのときは、おぬしが防いでくれたらよかろう。そのために、国王がおぬしを付けてくれたのだからな。」

「無理に決まってるじゃないですか。防げる訳がない。せいぜいテレポートの魔法で逃げるくらいですよ。それも長距離は無理だし、何回もは跳べませんよ。」

「別にそれでいいんじゃないか。魔王は俺の剣に、きっと応えてくれるさ。」

「その自信はどこから来るのです。もう私はあなたをかばいきれませんよ。」


「ティグ、相手方、なんか仲間割れしてないか?」

「そう見えるな。だが油断は禁物だ。ヨシヒロは剣の達人だと聞いているし、手にしている剣は魔剣ゲルトといって、一振りで1000人をなぎ倒すと言われているぞ。」


なんだって! そんなとんでもない剣を持ってるのか。

これでは逃げようとしても無理だ。

どうする? ここから逃げ出すには ········ 。


そうだ、ティグを人身御供に差し出して、その間に逃げよう。


「ティグ、おまえの実力なら、勇者ヨシヒロなど簡単だろう。どうだ、相手をしてみないか?」

「いえいえ、魔王様。魔王の実力があれば、勇者ヨシヒロなどひとひねり。 さっさと極大魔法を撃って、片付けてくださいませ。私は中から魔剣チェンソーを持って参ります。それでは頑張ってください。」


くそっ、こいつも同じ事を考えてるな!


「いやいや、残念ながら、ここでは極大魔法は使えないな。中にはお客様がいらっしゃるから、仕方ない。やはりここは天才美少女騎士の、剣の冴えを存分に発揮して欲しいな。」

「いえいえ、私の剣の実力など、魔王様の足許にも及びません。ここは魔王様の深淵魔法の力を、ほんの少し解放するだけです。ちゃちゃっと片付けてくださいませ。」


「おい、おまえら。いつまで夫婦めおと漫才をやってる。」

「魔王様、それでは私はチェンソーを取ってまいります。では後ほど。」


こらっ、逃げるな! これはまずいぞ。

ここでそんな魔剣を使われては ············ 。


「勇者ヨシヒロ、俺にはおまえと戦う理由がない。なぜ戦わないといけない。」

「まあ、一つは俺が勇者と呼ばれていて、国王から魔王を討てと言われたからだが、正直そんなものはどうでもいい。」

「ヨシヒロ、何を言ってるのですか。そんな事を言ったら、私の責任問題になりますよ。だったら魔剣ゲルトは陛下に返却してください。」

「それは嫌だな。この世界の剣にはロクなものが無いではないか。一番マシなのがこれなのだからな。あ、すまんな、魔王。外野がうるさいんだ。俺が魔王と戦う理由、それはそれが宿命だからだ。剣の道を極めんとする者、それが俺だ。それには強い敵が必要なのだ。」


こいつ、「強敵」と書いて、「とも」と読ませるタイプの人間か。

少年誌にはよくいるが、こういう熱い奴は、みんなからウザイと思われるんだよな。


「それでは魔王、剣を抜け。さもないと私の剣の錆となるぞ。」


え、無理なんですが。俺は剣なんか持ってません。


「そうか、剣など抜かなくても平気というのだな。私も甘く見られたものだ。それでは得意の魔法を使ってみろ。その前に私の剣の方が先に届くがな。ではいくぞ!」


瞬速で勇者ヨシヒロの剣が動く。

ヤバいっ! 絶体絶命!



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