第38話 それでは冒険を始めるぞ! 大丈夫、俺の仲間は最強(のはず)だ。(その5)
俺は土煙が吹き出す中、息も絶え絶えにダンジョンの外に這い出した。
まったく、とんでもない目にあった。
全身がホコリまみれ、所々服も破れて、酷い有り様だ。
後ろからヨシヒロとティグも、ゴホゴホ言いながら這い出してくる。
徐々に土煙が薄くなってきた。
ん? 外に何かいるぞ。まさかモンスターの待ち伏せか?
俺は銃を持つと、カバーに手をかけた。
「おい、大丈夫か? 何か中で爆発があったみたいだが。」
良かった。モンスターじゃない、人間のようだ。
俺は立ち上がると、礼を言うことにした。
「ありがとう、大丈夫だ。助かった。」
改めて見ると、冒険者たちのようだ。こいつ、どこかで会ったような ········· 。
向こうもまじまじと俺を見ていたが、突然驚いた表情になると、膝をついて土下座した。
「は、はーっ、魔王様!」
後ろの人間も、後に続いて平伏した。
そうだ。こいつら、ここに来る途中で出会った冒険者パーティーだ。
ダンジョン内で再会するはずが、こんな所で出会う事になるとは ··········。
「おい、そんなに土下座しなくてもいいから、頭を上げてくれ。」
「魔王様、いったいどうしたというのです? そんなにボロボロになって ········ 」
私の出番だ、とばかりに天才美少女が前に出てきて、答えた。
「もちろんダンジョンに突入して、モンスターと戦闘になったからだ。」
「えっ ········ 、まさか魔王様が負けたというのですか? こんなに早く?」
「いや、我々はスライムごときに負けた、という訳ではない。」
「えっ、戦ったのはスライムだったんですか! いったいどんなスライムだったんです? 魔王様をこんな目に合わせるとは。とんでもない特異スライムだったとしか思えません!」
「そうだな、確かにとんでもない特異スライムだった。突然、我々に突撃してきて、大爆発しおった。あいつは危険だ!」
「なんと、それは恐ろしい! すぐに王都の冒険者ギルドに報告せねば!」
冒険者たちは、車座になって会議を始めた。本当に議論の好きな奴らだ。
まだ土煙を吹き出しているダンジョンの入り口から、特異スライムを造った元凶が出てきた。
「うぷっ! ひどい目にあいました。」
それはこっちのセリフだ!
「でも見ましたか? 魔王様。あの大量のスライムが、私の爆裂弾で全部吹きとびましたよ。我ながらすごいです。」
爆弾娘が、感動に目を潤ませている。
俺は、爆弾娘を手招きした。
「トロイ、ちょっとこっちに来い。
「えっ、突然どうしたんですか? 魔法強化のスキルでも追加してくれるんですか?」
俺は杖を預かると、その辺に落ちている板を拾い上げた。
隣で爆弾娘が目を輝かせている中、拾った板を杖の先端に釘で打ち付けた。
一応持ってきていた工具類が、こんな所で役に立つとは思わなかったぞ。
「えっ、魔王様、何をしてるんです?」
次に、俺は油性マジックを取り出した。
「魔王様、何を書いてくださるんですか? その文字は魔界語? やはり魔法強化の呪文なんでしょうか?」
爆弾娘が、期待で目を輝かせている。
「いや、これは日本語で【爆裂禁止!】って書いたんだ。」
「そうなんですね。やはり、私の爆裂弾を ········ えっ、禁止? 爆裂魔法、使っちゃいけないんですか?」
「当然だろう。ダンジョン内、爆裂禁止だ!」
「そんな ········· 、爆裂魔法は私のアイデンティティーですよ。これが無ければ、私は並以下のダメ魔法使いじゃないですか!」
いや、爆裂魔法を使った方がもっとダメダメだと思うが ······· 。
「やっぱし、ダメですか?」
爆弾娘が両手を胸で合わせ、目を潤ませてパチパチしている。
無駄だぞ。そんな色仕掛けが通じるか!
ここは従業員の安全確保が最優先だ。
「ダメだ。爆裂禁止だ!」
「そうですか ········ 」
爆弾娘は後ろを向くと、数歩歩いてため息をついた。そしてこちらを振り返った。
「わかりました、仕方がありません。では、私はダンジョンの外で待機する事にします。でも、安心してください。パーティーがピンチとみたら、外から爆裂弾を撃ち込んでやります。モンスターなど、全部生き埋めにしてやりますよ。」
おい、待った! それって大規模落盤事故じゃないか。
そっちの方が、敵モンスターよりよほど恐ろしいぞ!
「 ········ わかった、トロイ。爆裂禁止はやめよう。俺達と一緒に来い。」
「わかってくれたんですね、魔王様♥!」
こっ ········ 、こいつめっ! でも野放しにはできん!
「ただし、爆裂弾は俺が撃っていいと言ったときに、言ったとうりの威力で撃つんだぞ。これが条件だ。」
「わかりました、魔王様。やはり私の爆裂弾は必要だと思っておられるんですね。私、これからも魔王様について行きます!」
それ以降、ダンジョン内で休憩する時にはトロイが呼ばれる事になった。
「トロイ、これからおまえに重大な任務を与える。」
「はい、わかりました。魔王様。」
「これから休憩するので、お茶を
「はい。」
「そこでおまえの出番だ。」
「はい。」
「これは固形燃料というものだ。これに爆裂弾を撃ち込んでくれ。」
「わかりました。威力はどうしますか?」
「そうだな。-5にしてくれ。」
「わかりました。」
トロイは数歩下がると、【爆裂禁止!】と書かれた
杖の先端が輝き始めると、杖を振り下ろして叫んだ。
「爆裂弾、-5!」
光が走って固形燃料に命中、しばらくすると、ポンという音とともに、燃料が点火した。
「おお、すばらしい!」
俺が拍手する。
「魔王様、何か私のイメージとは違うんですが、本当にこれ、役に立ってるんですか?」
「もちろんだとも。トロイのおかげで、チャッカマンの消費を大幅に減らす事ができている。大助かりだ。」
「そうですか。それならいいんですが ········ 」
釈然としない表情の爆弾娘を見ながら、俺は胸をなでおろしていた。
よかった。何とか最悪の事態は避けられた。
「でも魔王様、何だかストレスが溜まります。敵ドラゴンを見つけたら、+5を撃っちゃっていいですか?」
おいおい、俺達は偵察に来てんだぞ。
そんな事をしたら、怒ったドラゴンと全面対決になるじゃないか!
「 ········ いや、それはその時に考えよう。ドラゴンさんも迷惑だろうしな ········ 」
「そうですか、わかりました。楽しみですね。ではそれまで魔力は温存しておく事にしましょう♥。」
········ また、俺の頭痛のタネが増えた。
でも、この俺の仲間たちなら、きっと任務を成功させてくれるだろう。
俺は、そう信じている。
そう信じていたい。
信じていいんだよな?
まあ、仕方がない。
俺が元の世界に戻るために、みんな力を貸してくれているんだ。
········ いや、そうじゃない奴もいたな。
でも、みんなを信じて、先に進むことにしよう。
よし、最初でつまずいたけど、ダンジョン攻略、進めるぞ!
目指すは地下6階、敵ドラゴンのところだ。
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