第39話 地底に潜むドラゴン。マジ? 俺たち、こんなのを相手にするのか!(その1)

 俺たち魔王様御一行は、ダンジョンの地下5階、通称「休憩広場」に来ていた。

よくここまで来れたものだ。自分で自分をホメてやりたい気分だ。

本当に、本当に苦労した。


強力なモンスターに遭遇した? そんなのは最初から覚悟の上だ。

実際、俺の仲間たちは優秀で、戦闘にはそれほど苦労しなかった。

俺の苦労は、そこじゃない。

聞きたくはないだろうけど、俺のグチを聞いて欲しい。


 まずは勇者ヨシヒロ。間違いなくこのパーティー、最強の戦力だ。

なのにあいつ、「俺の求める強敵とも何処いずこ!」と叫んで、敵中に突撃する事、度々。そのまま行方不明になる。

戦士が職場放棄してどうするんだ!


次に天才美少女騎士。

職場環境が3Kの上に、イケメンがいない、と文句を言ってくる。

ダンジョンにイケメンを求めてどうするんだ?

イケメンのモンスターなんて、気色悪い事この上ないぞ!

悪夢を見そうだ。


そして爆弾娘。

ダンジョン行動中はおとなしかった。ただし、あくまでも行動中は、だ。

夜、キャンプを張って休んでいると、とんでもない寝言を発する。

突然むくりと起き上がると、いきなり「くらえっ! 爆裂弾+5!」と叫ぶんだ。

そのたびに、俺と小言係氏は跳ね起きる事になる。

もちろん魔法の杖マジック・ワンドは取り上げてあるから、実害はない。

でも、心臓に悪い事、この上ない。

なのに、天才美少女と勇者は平然と寝ていやがる。

こいつら、心臓に毛が生えているに違いない。


おかげで心労が祟ったのか、小言係氏は落ちている小石を集めては積み上げたり、崩したりしている。

おい、大丈夫か? 魂があちら側に行ってないか?




こうして、数々の艱難辛苦かんなんしんくを乗り越え、ついに俺たちは目標地点、地下5階の通称「休憩広場」にたどり着いた。

ここはちょっとした広場になっていて、鉱山時代、ここはテントが並んだ休憩所になっていたそうだ。

そしてここを目指した理由、それはここから地下6階、ドラゴンがいる通称「地底大広間」を覗ける穴があるからだ。

ただし、この穴は大広間の頭上に開いているので、ここからの侵入はできない。

飛行魔法が使える、トロイなら別だろうが。


「おい、小言係。中の様子が見えるか? ドラゴンがいるか?」

「失礼ですね。私の名前はラディッツ・トレバーンですよ。最近は誰もそう呼んでくれなくなりましたが ···········」


こいつはモンスターの情報に詳しい。ドラゴンの事も知っているはずだ。


「予想どうり、中は明るいですね。照明ライトの魔法は必要なさそうだ。」

「中で火でも燃やしてるのか?」

「まさか。ドラゴンが自分で照明ライトの魔法を使ってるんですよ。常識で考えてください。人間でも、ドラゴンでも、自宅が真っ暗だったら不便極まりないでしょう。」


確かにそうだ。しかも電気代がかからなくてお得だ。

でもその分、疲れるのかな?


 小言係氏は、魔法の杖マジック・ワンドを構えると、呪文を唱え始めた。

探知サーチ!」

そして、さらに呪文を重ねた。

拡大ズーム!」


双眼鏡を持ってくればよかったかな。

でも、小言係氏がイジけてもいけないから、これで良しとしよう。


「どうだ、わかるか?」

「ええ。いますね、ドラゴンが。こいつはいったい ········ 」


小言係氏の顔色が変わった。そして、そのまま2、3歩後退あとずさった。


「どうしたんだ?」

「こいつはもしかして、剛竜ガルガムンド! もしそうなら、大変な相手ですよ。」

「えっ、いったいどんな奴なんだ?」

「それはですね、 ········ しまった、気付かれた!」


小言係氏が慌てて杖を引き、魔法を解除した。

穴から下を覗いてみると、ドラゴンが顔を上げてこちらを睨んでいる。

突き刺すような眼光。


「あいつ、ブレスでも撃ってこないか?」

「いや、それは大丈夫でしょう。もし本当に剛竜なら、人間など全く脅威とは思っていません。こちらから手を出さない限り、奴は歯牙にもかけないでしょう。」

「それは大した自信だな。それほど強いドラゴンなのか?」

「剛竜ガルガムンドは、特殊なスキルを持ち、太古竜エンシャント・ドラゴンのなかで、最も武闘派といわれているドラゴンです。でも、ここは絶対に確認が必要です。奴と他のドラゴンでは、戦い方が全く違う。私が魔法を撃ち込んで確認します。ですからリュージ殿、お願いがあります。私以外のメンバーを連れて地下6階に下り、ドラゴンを正面から攻撃してください。」


おいおい、マジかよ。なんだか危険な匂いがしてきたぞ。


「大丈夫です。これは陽動です。目的はドラゴンの気を引く事。その隙に私が魔法を撃ち込みます。」

「そんな回りくどい、危険な事をしなくても、ここから直接魔法を撃ち込んだらダメなのか?」

「残念ながら、ここからでは魔法の射程距離外です。逆に、ドラゴンのブレスはここまで届きます。つまり、ここからの攻撃は自殺行為なのです。」


「疑問がある。射程距離外なのに、どうやって魔法を撃ち込むんだ?」

「その点は心配無用です。私だって魔法使いの端くれ、飛行魔法くらい使えます。トロイほど得意な訳ではありませんが、ここから飛び降りるくらいなら、問題ありません。」

「わかった。撃った後、俺たちの所に飛び降りてくるんだな。でも、一人ここに残って大丈夫なのか? ドラゴンと戦う以前に、ほかのモンスターに倒されました、ではシャレにならんぞ。」

「それも心配ないでしょう。こういうダンジョン内の広場は、なぜかモンスターがほとんど出現しないのです。」

「そうなのか? なんでなんだろう。」

「はっきりとした理由はわかりませんが、おそらくはダンジョンの設定上の理由だと思います。」

「設定上の理由?」

「冒険者たちにも、休憩できる安全地帯が必要じゃないですか。ゲーム・バランスというやつですよ。」

「そうなんだ。」


········ わかったような、わからないような。でも、まあいいか。

それならその設定を利用するだけだ。




「わかった。では、ここに小言係氏を残して、全員で地下6階に降りる。正面からドラゴンに進むぞ!」


「いよいよ強敵ともと剣を交えるか。腕がなるぞ。」

勇者ヨシヒロが、魔剣ゲルト(だったかな?)を頭上に掲げた。


「私の魔法の杖マジック・ワンドもうなってます。これは爆裂弾を撃たない訳にはいきませんね。」


おい、おまえはただ撃ちたいだけだろうが!


「リュージ。ドラゴンは変身の魔法は使えないのか? イケメンが希望なんだが。」

「知らんわ! そういう無駄な魔法を使ってくれたら有難いけどな。」

「無駄ではないぞ。ドラゴンとて男子であろう。男子であるならば、私のこの無敵の美貌で ········ 」

「ああ、そうだな。そうなったらいいな。その時には頑張ってくれ。」



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