第37話 それでは冒険を始めるぞ! 大丈夫、俺の仲間は最強(のはず)だ! (その4)

 俺たち、フツーノ村ドラゴン討伐隊(魔王様御一行)は、ドラゴン探索のためにダンジョンを進んでいた。

入り口から進むと、まずは坑道がまっすぐ続いている。

頭上からポタポタと落ちてくる水滴。


「頭目、ここは結構水が豊富なんだな。」


「そうです、魔王様。ここでは水の心配はいりません。奥の地下5階には地底湖もありますよ。」


 先頭を進むのは、天才美少女と勇者ヨシヒロ。

その後ろに続くのが、小言係氏と爆弾娘トロイ。

2人は右手に魔法の杖マジック・ワンドを持ち、左手には懐中電灯を持っている。

当初は私が光魔法を使います、と小言係氏が言ってたんだが、俺が不要と却下して懐中電灯を持たせてやった。小言係氏、目を白黒させていたな。

これでは魔法使いは失業の危機だ、そう思ったのかもしれない。

 

トロイは何も言わずに歩いている。

だが、あの目は何かを狙ってるな。

おそらくは爆裂弾を撃つチャンスだ。

でも、実際に冒険者としてダンジョンに入った経験があるのは彼女だけだ。

きっといろいろアドバイスがあるだろう。


その後ろを歩く俺の横には頭目がいて、道案内をしてくれている。


「魔王様、まもなく地下1階に出ます。そろそろモンスターが出現しますので、心の準備を。」


「わかった。」




 「リュージ、何かが来る!」

天才美少女の声を聞いた小言係氏が、懐中電灯の光を奥に向けた。

何か丸っこい物が飛び跳ねている。


「スライムだ!」


小言係氏の声に、戦士2人が剣を抜いた。

俺も背中に背負った猟銃を降ろすと、両手で持った。

まだケースに入ったままだし、安全装置もロックしてある。

でも、装填してあるのは実弾だ。


スライムは一匹ではなく、後ろにたくさんいるようだ。


「来るぞ!」


一匹のスライムが、宙を跳んでヨシヒロに襲いかかる。

ヨシヒロは瞬時に反応、スライムを斬って捨てた。


おお、相変わらず剣はすごい!


後から続々とスライムが襲いかかってくる。

ティグも剣を振るい、次々とスライムを斬っている。


小言係氏の魔法の杖マジック・ワンドも魔力を放ち、いつでも撃てる態勢だ。


トロイは ·········· 何もしていない。

よし、よし。ちゃんと学習してるじゃないか。

ここでぶっ放せば、大変な事になる。


だが、敵スライムの数が多い。

なんだ、これは。スライムの団体旅行か?

旗を持ってる奴、いないだろうな?


 次第に前衛をすり抜けるスライムが出始めた。

俺の前にも、スライムが現れた。

頭目が剣を振るって粉砕する。


俺は銃を構えたまま、動けなくなっていた。

さすがにスライムに発砲する訳にはいかない。

TFも銃弾は準備出来ないだろうから、在庫は家にある限りだ。

無駄には使えない。


では、このまま銃でブン殴る?

いや、無理だ。そんな事をしたら、銃が暴発する危険性がある。


俺はダンジョンの初戦、スライムを相手に、いきなり危機に瀕していた。




 俺の前に立って、スライムを斬り捨てている頭目が、こちらをチラリと見て言った。

「魔王様、前には出ないでください。こんな下っ端相手に極大魔法はもったいない。ここは一旦後退しましょう。」


「そうだな、仕方がない。ここは一度退くか。ちょっと敵を甘く見ていたかもしれんな。」


それを聞いていたトロイが、こちらを見て言い放った。

「魔王様、何を言ってるのです。魔王様が、スライムごときに屈したとなったら、威厳に関わります。魔王軍は不敗、無敵でなくてはいけないのです!」


トロイは、跳びかかってくるスライムを避けながら、呪文を唱え始めた。

おい、撃つ気じゃないだろうな?


やがて魔法が完成したのか、杖を掲げて叫んだ。

防御ガード!」


トロイの廻りの空間が、青白い光を放った。

跳びかかってくるスライムを弾き飛ばす。


「ふっ、ふっ、ふ。これで爆裂魔法に集中できます。」


おい、なんかトロイの目が座ってないか?


「スライムごとき下級モンスターが、魔王軍を襲うとは片腹痛い。その傲慢、このトロイツカヤが爆砕してくれるわ!」


まずい。こいつ、撃つ気だ。 

「トロイ、威力は最低限にするんだぞ!」

「わかっております、魔王様。私も馬鹿ではございません。」


トロイが呪文を唱え始めた。魔法の杖マジック・ワンドが光を放つ。

おい、本当に大丈夫か?


「爆裂弾!」

魔法の杖マジック・ワンドから、奥のスライムの群れに向けて光が走った。

ん? 威力を言わなかったんだが。


「トロイ、命中したのか?」

「もちろんです。こう見えても、私はコントロールには自信があります。」


奥から、スライムが跳びはねて近付いてくる。


「で、どのスライムに命中したんだ?」

「わかりません。あんなに沢山いるんですよ。見失いました。」


俺の背筋を、電流が走った。


「おい、トロイ。今の爆裂弾、威力はどれくらいだ?」

「通常の威力ですよ。特に強力ではありません。」

「つまり、プラスマイナス・ゼロという事か?」

「そうです。」




俺は息を吸い込むと、全力で叫んだ。

「全員、待避! ただちに外に向かって走れ!」


この爆弾娘め! 

俺は、ポーズを決めている手をつかむと、全力で外に向けて走り出した。


「ぎゃん! 魔王様、どうしたんですか? 痛い!」


後ろから、勇者ヨシヒロが全力で走って追ってくる。

そうか。こいつはトロイの魔法を見てるからな。


だが、残り3人の反応が遅れた。

「リュージ、突然どうしたのだ? 急に慌てて ········ 」


俺はもう一度叫んだ。

「全員、すぐに外に向かって走れ! 魔王命令だ。死にたいのか!」


怪訝な表情を浮かべながら、とにかく全員外に向かって走り出した。

後ろから、スライムが跳びはねながら迫ってくる。


間に合うか?

 



















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る