第22話 基礎体温

 こうことのキスは何度目だろう。でも今夜のはちょっと違うような気がする。

 何がこうこの背中を押したのだろうか、それとも最初から学園祭の夜と決めていたのだろうか、彼女が何を思ったのかは亮には分からない。


 こうこはものすごく平凡な女性だと思う。何から何まで、ごく普通の女の子。性格的にはちょっと変わったところもあるけれど、全部含めて大好きだ。

 その彼女が今、生まれたままの姿で腕の中にいる。

 亮を受け入れようと、亮の行動のすべてを受け入れている。

 

 こうこの息が上がる、何か言ってはいるがちゃんとした言葉にならない。

 あれもしたいこれもしたい、でも、今はまず繋がりたかった


「大丈夫? 痛くない?」

 痛いと言われても、やめるはずもないくせに、といつも思う。

「ん、痛い。でもうれしい」


「動くね、辛かったらしがみついて」

 こうこが背中にまわした腕に力を込めた。

「かわいいよ」

 こうこの体がその言葉に反応する

 亮は一気に駆け上った。

 彼女はまだ感じるはずがなかった、これから時間をかけて育てていこうと思った。


 こうこの目から涙がこぼれていた。

「痛かった?」

「うん、でもうれしかった」

 亮はこうこの涙を指で拭ってやった。


「もう一回して」

 こうこがもう一度というように唇を突き出してきた。


「あのね、避妊具つけなくても大丈夫」

 こうこが恥ずかしそうに言う。

「そうなの?」

「多分。いつか亮と、そう思って、毎日基礎体温付けてるんだ」

「なにそれ?」

「いつなら安全かって」


「そんなことしてたんだ、今日は」

「大丈夫。後夜祭の日がそうならいいなって祈ってた。そしたら」

「さきに言ってくれたら、もっと楽に」

「でも初めてだから、やっぱりちょっと怖くて、言い出せなかった」


 そうか、いつかは結ばれたい、そんなことを考えてくれていたんだ。

「あのさ、こうこは俺のこと好き?」

「何をいまさら、嫌いだったらこんなことしない」


「俺も、ものすごく好きなんだけどさ、今までもいたんだよね」

「知ってる。最近は恵美ちゃんだよね」

「うん、こうこに言うのもなんだけど、恵美もずっと大事にしたいと思っていた。でも、彼氏ができて」


「結局振られたんだよね」

 こうこは言葉を飾らない。

「うん、大人は仕方ないと思うんだけどさ、こうこと同い年の人もいたんだけど。みんな真剣に愛してたと思う、でもさ」


「心配なんだよ、私もそう。亮ってどっかふわふわしてるというか、女の子に引きずられるっていうか。やっぱり自分だけを見てほしいんだけど、それがそうじゃないのがわかってさ」

「今もそう見える?」

「うん、だからずっと抱かれたかったけど踏み切れなかった」

「じゃあ、なんで」

 こうこは本当に困った顔をした。


「それでもいいかなって、絶対にほかの女の人とするだろうけど、絶対私の元に戻そうって、努力しても亮とそうなりたかった」

 もう亮は何も言う言葉がなかった。こうこを抱きしめた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る