第40話 嫁候補

「ねえ、昨日はどこに行ってたの」

 翌日の昼こうこが来た。見張っていたわけでも、家に来たわけでもなさそうなのに、昨夜、亮が返ってきていないことは、わかっていたみたいだ。


「八尾の弓削まで」

「またなんでそんなとこに」

 二人は久しぶりにベッドの中にいる。こうこの学校はめちゃくちゃに忙しく厳しいらしい。たまにだからと頑張ったが、二回目は入れている最中に寝そうになっていた。


 だから質問も半分寝ているようにのんびりしている。

「お寺で、あっちからのお客さんと会ってた」

「昔の彼女?」

「まあ、そうかな」


 亮の手はこうこの胸をいじっている。

「私のこと好きなら、いいよ、こうしてるだけで幸せ」

 そのまま、こうこは眠ってしまった。


 結局二時間近く。亮はこうこの頭をなぜながら顔を眺めていた。

 ちょっと猫系の低い鼻。天然パーマのクルクルした髪。先のとんがったエルフのような耳。

 ばらばらで見るとちっともかわいくはないけれど、全部が集まると、亮の一番好きな顔になる。


「やだぁ、寝顔見てたでしょ」

「いいじゃん、かわいいんだし」

「可愛くなんかないよ、そんなこと言うの亮だけだよ」

「俺だけじゃだめか」

「ううん、亮だけで十分」

「なあ、俺、八月で十八になるんだけど、結婚しようか」


 こうこの目が大きくなった。目に涙があふれてきた。

「なんで、急に」

「こうこのこと誰かに取られたくないから」

「亮以外にいないよ」

「うん、俺が不安なんだ、女の子から誘われたら断れないから」

「それは、結婚しても一緒じゃない? それに結婚しても一緒なんじゃない?」


 確かにそう言われてみればそうだ、ただちょっとは気分が違うかなと思ったのだ。

「大学、千葉に行くんでしょ」

「それなんだけどさ、沙織から別の学校の話も聞いたんだよな」

「呉に行こうかなって」

「呉って広島の?」

「うん、千葉よりは近いし」

「何やるの?」

「海上保安大学校ってあるんだ」

「なにそれ自衛隊?なら防大だよね」

「うん、海の警察、巡視船に乗る」

「あ、浮気できなさそう」

「でしょ、しかも全寮制」

「女の子は、いないよね」

「うん、でもそれは気象大学校も同じだよ」

「そっか、どっちでもいいよ、亮のいきたい方に、私は一緒」


「なんか食べに行こうか」

「私が作ってあげる、お母さん今日も遅いんでしょ」

「帰ってこないかも、なんかいい人できたみたいな」

「じゃ、食べて、いっぱいしようよ買い物だけ行こ」


「亮、電話だよ」

 風呂に入っていると、こうこが叫んだ。

「出て」

「いいの」

「頼む」


「亮、女の子、吉村夏鈴さんだって」

「今出る」

 なんで、予想もしなかった名前だった。

 亮は慌ててバスタオルを巻くと、風呂から出た。


「夏鈴です、今の人だあれ、先生じゃないよね」

「うん、友達」

 こうこがバスタオルを外し、ごちょごちょといたずらを始めた。

「だめだって、こうこ」

 声を出さずに口だけで言う。

 こうこはペロッと舌を出すと、パクっと咥えこんだ。

「わ、」

「亮さんどうかしました」

「ううん、何も」

「明日あってもらえませんか」

「いいけど、どこで」

 家に来てほしいという。

「誰もいないんです。姉さんも」


 つまりはそういうことか、やばい下半身が。

「うんわかった、それじゃ」


「亮、いまのだあれ、下半身大きくなったよ」

「それはこうこが」

「違うもん、浮気する気だ。わかった、できないように今日一滴残らず搾り取ってやる」


 明日はどうなるんだ、そうは思ったけれど、とりあえず、おかげでこうことこれ以上ないほど、熱い夜を過ごすことになった。

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