第13話 登山

 標高1,125mの金剛山、奈良と大阪の間にある山だ。亮たちの住むあたりからは毎日眺めているおなじみの山と言える。いやそれはどうでもいい。

「え、私と二人の登山は嫌? いじめたりしないよ。お弁当ぐらいは作ってあげるから」


 先生は脚を組み替えた。ミニスカートでそれをやったら、ねえ、ありがとうございます。朝からちょっと元気。

 真野先生は、メイクをしてないみたいで、それでも同級生といい勝負の肌をしている。

 なんか楽しくなりそうな気がしてきた。


「先生、生徒と山行くこと多いんですか? あ、二人っきりで」

「ううん、初めてだよ、なんでかなあ。つい誘いたくなった。亮君、年上からもてるでしょ」


「もてるかどうかはわかりませんけど、子供のころから可愛がられます。姉とか姉の友達とか」

「その可愛がるの一人に私もいいかな」

「いいも悪いも、こちらからお願いしたいくらいです。なんか学校が急に楽しくなってきた」

「あ、そういうところか、さらっと嬉しがらせるんだ」


「さて、この時間は私が生徒指導ということでごまかしてあげるけど、次の時間は出なさいね」

 典子先生は急に教師の顔に戻った、まあ、当然といせば当然かもしれない。


 日曜日までに亮は典子先生のことを調べた。

 大学は奈良女、山歴はワンゲルにいたらしい。今もワンゲルと掛け持ちらしい。まあ、うちの高校は顧問教師の顔なんてほとんど見ない。

 というより、昭和のころは、遠征とか以外は教師が部活を見ることなんかなくて、生徒が自主的にやっていた。それは中学もそうだった。


「おまたせ、まった?」

 いえいえまだ時間前です、チロリアンハット、綿シャツ、ニッカポッカ。足元はまだ運動靴だ。どれもちょうどいい具合にこなれている。学生時代からの愛用かもしれない。

「はーい、荷物のチェックをします、ザックを開いて」

 おいおいまじか。遊びじゃないの。

「遊びだけど、山を舐めないでね」

 心を読まれたみたいだ。


 水に、行動食としてチョコレートとジャムパン、雨具。取りあえず合格が出た。

「入山届書いた?」

 宿題のように指示されていた、ざっと見てこっちも合格点をもらえた。

「うん、なかなかいいぞ」


 典子先生の車は、どんな可愛い車かなと思ったら、ジムニーだった。四輪駆動ですか、ちょっとばかりびっくり。

「じゃ、行こうか。あ、着替え持ってきた?」

「えーっと、シャツの着替えはさっき確認した荷物の中に」

「そうじゃなくて、お風呂入るでしょ、一緒に」


「とってきます」

 一緒に、については考えないことにした。

「上着とズボンもね」


 幌タイプのジムニーだと車の中であまり話はできなかったかもしれないけれど、典子先生の車はちゃんと鉄板で囲まれたタイプもものだった。もちろんそれでも十分うるさいが話しをするには困らない。

 典子先生の運転はなかなか荒っぽい。いわゆるハンドルを持つと変わるタイプらしい。なるほどジムニーが似合っている。


 金剛山の登山口駐車場までは小一時間だった。

 軽く、準備運動をして、登山開始。荷物持ちましょうかと言いかけ躊躇した。どう見ても典子先生の方が荷物も担ぎなれている。

「荷物俺が持ちますよ」

 それでも一応言ってみた。

「そうそれじゃ、なんていうわけないでしょ。でもせっかくだから、弁当だけはもってもらおうかな」


 典子先生はどんどん登っていく。先生のニッカポッカは夏用なのか少し薄めだ。ほんのわずかだがパンツのラインがわかる。それが小気味よく動いている。どうしても一緒にお風呂、が頭から離れない。


「ね、こんな山の中に二人っきり、ドキドキしない。押し倒そうとか思う?」

 亮は思わず石に躓きそうになった。

「典子先生、生徒をからかうの趣味なんですか。先生は俺のタイプだから知りませんよそんなこと、言っていると」


 実は車の中でも、結構きわどい会話があったのだ。

「カメラもって来てるよね、自分で現像したりできないよね」

「できますよ、ヌードでもなんでも現像も焼き付けもできます」

「じゃあ今度取ってね」

 普通教師が生徒にする話じゃないだろうと思う。

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