第12話 顧問の教師
恵美から部屋に来てと言われたのは一か月ほどたった土曜日のことだった。
何となくの予感があった。
「引っ越しの準備、できたんだね」
「知ってるの?」
「うん母親から聞いた」
「そっか、そうだよね。ごめんね、黙ってて」
「いいよ、恵美には恵美の考えがあるんだろうし。吹田だって?」
「うん、安い一戸建て」
恵美の家は京都と大阪の中間位ある街、吹田に一戸建てを買ったと聞いた。阪急で学校には通うことになるらしい。昔乗っていた阪急を亮は思い出した。
「そっか、じゃあ、元気で」
「それだけ、それだけなの」
「聞いてどうすればいい? 別れるなんてやだって言う?」
「そっちも知ってるの?」
「知らないけど、何となく感じた」
「そっか、ごめんね」
「あやまることはないよ、好きな人ができるのは仕方ないもの」
「うん、でも、亮のことはほんとに好きだったんだよ」
「それは信じてる、聞かせてくれる、彼のこと」
「痴漢に遭った話したでしょ、それを助けてくれたお巡りさんなんだ」
あの後も痴漢なあったそうで恵美は乗る車両を変えたりしたが、無駄だった。それを偶然助けてくれた青年が、警察官だったらしい。
「おとななんだ、そりゃあ勝負にならない」
亮は笑った。
亮にすれば明確に振られたことは生まれて初めてだった。
思ったよりもショックで、家に帰れば恵美のいた部屋をつい見てしまう日々が続いた。
そういうことは重なるもので、沙織にもどうやら彼ができたらしく部屋に行きづらくなっている。
クラスの女子もどうも今一つで、久しぶりに彼女のいない日を二か月も送った。
「三木、次の時間さぼるから、なんか言われたら適当によろしく」
「しゃあないなあ、数一は戻って来いよ、担任の時間さぼるのはまずいだろ」
分かったというように手をあげた住谷の行き先は部室だった。学校の敷地の箸にプールがあり、その並びに運動部の部室が並んでいる。授業をさぼるにはもってこいだった。
たばこのにおいがする。だれだろ、ばれたらまずいぞ。そう思って扉を開けた亮の目にミニスカートから延びた脚が目に入った。
机に組んだ脚をのせてタバコをくゆらせている女性。見たことがないが、三年生?
「君は誰」
タバコを隠そうともせずに女性は亮に尋ねた。
「一年の住谷亮と言います、あなたは、というよりここでタバコはまずくないですか?」
「真面目なんだ住谷君は。大丈夫だよ、私は未成年じゃないから」
「え、先生なんですか?」
「みえない? そんなに若いか、私。英語の教師なんだけど。一年は教えてないから」
「英語ですか、あんまり得意じゃないんです」
「思い出した、お母さんが教師、英語以外の成績はすごくいいけれど、英語は足切りぎりぎりだった」
そんなことを知られているのか、同級生は五百名。みんなについて覚えているとは。
「合格判定会議で話題になってね。あんまり珍しくて覚えているの。そっか、君はうちの部に入ったのか」
うちの部?ということはこの人は顧問なのか。
「顧問の真野典子。よし決めた、次の日曜一緒に山に行こう。君彼女は」
「この前振られました」
「そりゃあ、なおさらいいね。家まで迎えに行くから、金剛山、日帰り山行。準備は自分で考えて」
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