第21話 帯を

「このまま一緒にいたい」

「うち誰もいないよ例によって」

「いったらレイプされそう」

「しないってば」

「ほんとに」

「こうこが誘うんだから、レイプじゃないでしょ」


「さそったりしないよ、私」

「じゃあ大丈夫ですよね、家にはなんて言ったの」

「友達のところに泊まるって言ってある」

 それはやる気満々ということじゃないでしょうか。

 浴衣で自転車は無理ということもあって、今日は電車で駅から歩きだ。

 履きなれない下駄に浴衣で、こうこはいつもより歩くのが遅い。それだけではなくて何か歩き方が危なっかしい。

「危ない」

 躓きかけたこうこの手を、つい握ってしまった。柔らかい。


「おんぶしてあげよか」

「恥ずかしいからヤダ、手をつないでくれるだけでいい」

「誰も見てないよ」

「お尻触るからやだ」

「そんなのあとでどうせ」

「ほら触る気だし」


「あ、体重気にしてる?」

 立ち止まったこうこは、いきなり手を振り上げ亮をぶつ仕草をした。

 つまりは、図星らしい。

 亮はその手をつかむと抱きしめ、ついでにキスをした。

 こうこはほんの僅か抵抗したが、結局手を背中にまわしてきた。


「だめだよ、こんな場所じゃ、はずかしい」

「誰も見てないけどね」

「結構見られてるものなの」

「じゃあと少し頑張って、歩いて」


「足が痛くて歩けない」

 亮はこうこの前にしゃがんだ。背中に回ったこうこが首に手を回す。

「重っ」

 言ったとたんに首を絞められた。

「降りる」


 亮はこうこの脚を抱えた。

「うそ、合宿の時のリュックよりは軽い」

「ばか。ごめんね、これは歩荷ぼっかの代金」

 耳元でこうこがつぶやき、ほんの少し背中に体が押し付けられた。こうこの胸が当たる感触が気持ちよかった。


 こうこの部屋のある玄関を通る時は声を潜める。ばれたら今夜の話はなくなるが、親に隠れてというのはいくつになっても楽しい。

「ふう、浴衣で長時間は無理だ。脱いでいい?」

「うん、シャワー浴びてくるからその間に」

「え、脱がしてくれないの」


 予想外の言葉、そっか、帯を解くのは男かと初めて気が付いた。

 前に史乃とお祭りに行ったときは、脱がせなかったことを思い出した。

 後ろに回り帯の結び目をほどく、帯は意外に長いということを知った。


 袷を開く。上はさっきおんぶした時に気がついていたが、下まではいていないとは思っていなかった。

 いきなりの全裸に亮の手は止まった。

「いつからはいてなかったの?」

 このタイミングで聞くのはいかにも間抜け、そうは思ったがつい口から出た。


「後夜祭の間ずーっと、誰かにばれないかってドキドキしてた」

「さわればよかった」

「ばか」

 こうこは浴衣を肩から落とした。

「私どう、裸おかしくない?」

「うん、素敵だよ」


「亮も脱いでよ、一緒にシャワー浴びよ」

 風呂場で? まさかね。

「お風呂場は声が筒抜けになるから、シャワーだけね」

 くぎを刺されてしまった。


 こうこの頭をタオルでがしがしと拭いてやる。

「いいよ、子供じゃないもん」

 こうこは亮の手を逃れるとベッドに飛び込んだ。

 ポンと体がはねた拍子にタオルがはだけた。


「来て」

「いいの?」

「うん、もう我慢するのやめた、亮が浮気しても私がんばる」

「浮気なんて」

「多分する、でも私はずっと一緒にいたい、それだけ覚えといて、来て」


 亮は自分もタオルを外すとこうこの上に覆いかぶさった。

 頭の後ろに他を回し、唇を重ねていく。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る