第20話 学園祭

 亮の学校は、秋に学園祭がある。一週間ぶち抜きで体育祭と文化祭が行われる。

 これが終わると三年生は本格的に目の色が変わり、二年生は部活から引退する。


 体育祭の方はクラス対抗。だけど、ほぼ遊び。仮装行列なんかの準備が大変。

 体育会系のクラブは対抗リレー。当然ながら登山部はリュックをしょって走ることになる。


 文化祭の方は、各クラスで何をやるか、模擬店はクラスでは禁止ということもあって、何かの展示をやることになる。

 亮のクラスは、心霊スポットや幽霊について。


「で、何、夜の墓場に写真撮りに行くの? 趣味わるー」

「まあ、しゃあないわな、俺はあんまり行きたくないけど」

「そうだよね、亮は見えるんだもんね」

「うん、クラスでは話してないけど」


「そういえばこうこのクラスは何するの」

「パンチDEデート」

「そうなの、出ようかな」

「ぶっころす」


「冗談だって、そんなことしませんて、もし振られたら最悪だもの」

「内緒だけど、典子先生出るよ」

「は、なんで?」

「うちのクラスの実行委員が頼んだから」

「相手は」

「知らない、気になるの」

「別に」

 とは言ったけれどやっぱり多少は気になる。


「今夜の霊場、予定通り行くからね。カメラ準備できる人はもってきてね」

 こうこに話をした次の日の夕方、本気でそんなに悪趣味なことを、という意見もあったけれど、結局クラスのほとんどが参加する肝試しになってしまった。

 近鉄大阪線沿線に、まあまあ大きな霊場がある、学区内なのでそこが選ばれたのだ。

 

 霊場の入り口までは、わあわあ言いながらだったが、いざ現場に行くと徐々にみんな口数が少なくなっていく。


「住谷君、怖くないの」

 吉村さんが言う。彼女は家庭の事情やいろいろあって実は年上だ。最初のうわさでは人妻だとかいう話があるほど色っぽい人だ。

「うーん、怖い、かな」


「なんか余裕じゃない」

「そうでもないよ、ただ」

「ただ、なあに」

 話そうかと思ったがやめた、こんな場所で話したら脅かすだけだ。


 結局周辺の写真をバタバタとって、真っ暗になる前に引き上げた。駅に着くころにはまたみんな元気が戻って来た。

「ねえ、住谷君、本当は見えるんじゃないの?」

 吉村さんが、小声で聞いた。

「なんで、そう思うの」

「来週、文化祭終わったら、ちょっと話があるの、お願い」

「いいけど、何の話?」

「それはその時に」


 結局文化祭は賑やかに終わった。典子先生の「パンチDEデート」は体育館が満員になるほど盛り上がった。

 相手はこちらも女子に人気がある体育の若い男性教師で、お約束通りハートマークがついて、ほっぺにキス。

 不思議なことに妬けもしないのが自分では不思議だった。

 後で典子先生にその話をしたら、ふくれっ面をされ、機嫌をとるのが大変だった。


 一番楽しかったのは後夜祭。もらってきた枕木を積み上げ、火をつけキャンプファイヤー。 あちらこちらでカップルになっているもの。グループでいるもの。

「あれ、住谷の彼女いたの」

「えー先輩じゃん」

 学校でばらすことにしたのはどうしてだろう。

 今日のこうこは浴衣だった。午前中は普通のジーンズの短パンとTシャツだったのに。

 いつ着がえたのだろう、と思ったら典子先生も浴衣だった。どころか山岳部の女子はみんな浴衣。びっくりする話だけれど典子先生が着付けができたそうだ。

 その先生は、体育の木更津と一緒だ。パンチDEデートの相手だ、ヒョウタンから駒か、皆に冷やかされてまんざらでもなさそうだ。


 亮の今の関心は、こうこの浴衣の下だ。

「あとで触らしてね」

「んーどうしようかな」

 今夜はなんとかしたい。だからこそ学校でオープンにしたのではと、期待していた。

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