第8話 佐紀と 

「ふうん、頑張るね」

 佐紀さんは、物干しロープにかけてあったバスタオルをとると、体に巻き付けた。

「でもちょっとショックだな、ふつう私が脱いだら、みんなおったてて飛びつこうとするのに」


「ちゃんと立ってますよ、見せませんけど」

 タオルは巻かなくていいのにと思う。

「じゃあ、どうして」

「一応、恵美と約束したから」

「そっかあ、偉いなあ」

「いや別にえらくも」


「意地悪なこと聞くけどさ、私が恵美の」

「お姉さんでなければどうした、ですか?」

 さすがに考えてしまう質問だ、なんていえば一番地雷を踏まないか。


「うーん、正直言うと恵美にばれようが構わないんです。ただそれは恵美より佐紀さんが大事ってことになりますよね。それ聞いたら、恵美がなんて思うか。それにお二人の関係もぶち壊しですよね、俺にそんな価値ありますか?」

「お、質問に質問で返すか」


「ごめん、からかって悪かった、諦める。恵美のことよろしく頼むわ」

「えーっと、すごくつらいんですけどね。できれば服を着ていただけると、俺のやせ我慢も」

 佐紀は声を出して笑うとTシャツとジーンズをはいた。パンツの代わりにティッシュをはさんでいるみたいだ。

「いいのよ、私濡れやすいから」


「恵美って、どういう子なんですか」

「え、あのまんまの子だけど、なんかあった?」

「いや、実は」

 どうしようかとは思ったが、ここの部屋から見たことを話した。


「あ、それかあ、ごめん、私のせいだ。あの子小さいころから遊びに来てて、私、結構ガサツな性格してるから。移ったんだ、注意しとく」

「あ、いや、まあ別に」

「何、そしたらすっぽんぽん見てるんだ」

「見てるだけでなくて、ほとんど入れてないだけというか」


「そうなの、じゃあほんとに待てを食らった犬なわけ」

 確かにそんな感じだと亮は苦笑いした。

「まあ、ひどいねあの子も、いっといたあげる、それも

 

「いや、いいです。恵美の言うのもわかる気がするから」

「なに、やったら捨てられるって」

 佐紀は少し考えこんだ。


「私を見てるからかな、それも。そんなつもりなかったんだけど」

 佐紀はほんの少し落ち込んだように見える。

「べつに佐紀さんのせいじゃないと思いますよ、ま、俺がそんなことないよって教えますから」

「頼む、それができたら、その時は私にもおすそ分けくれる」

「おすそ分けなんて、付き合ってほしいのは俺の方ですから」


 佐紀は、立ち上がると亮を抱きしめ、軽くキスをした。

「うん、あの子にしては上出来かもしれない」


「亮君、いる?」

 恵美の声がした、帰ってきたのか。

「いるよ、おかえり。もう少し遅くまで帰ってこないって聞いたけど」

「え、だれに」

「佐紀さんに」

「誰って」

「ほら、佐紀さんだって、ここに」


 振り返ったら、部屋にはだれもいなかった。タオルだけが折りたたんである。

「亮君、佐紀さんいたの?」

「話がある、そっちに行っていい?」

 恵美の顔は、なぜか真っ青だった。

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